
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの治療を終えた患者さんにとって、再発や転移への不安は大きなものです。
実際、乳がんは治療後にも再発する可能性があるがんとして知られており、患者さんご自身が再発の兆候や症状について正しい知識を持つことが重要です。
この記事では、乳がんの再発・転移について、最新の医学情報をもとに、再発しやすい時期、症状の特徴、定期検診の受け方など、患者さんが知っておくべき情報を詳しく解説します。
乳がんの再発とは何か
乳がんの再発とは、手術や放射線治療、薬物療法などの初期治療によって目に見えるがんがなくなった状態になっても、体のどこかに潜んでいたがん細胞が再び現れることを指します。
がんができ始めた初期の頃から体のどこかに存在していた微小ながん細胞が、初期治療でも死滅せずに残り、時間が経過してから増殖して検査で見つかるようになった状態です。
乳がんの再発には大きく分けて2つのタイプがあります。手術した側の乳房やその周囲の皮膚やリンパ節に再び腫瘍ができる「局所再発」と、骨や肺、肝臓、脳など乳房から離れた臓器にがんが現れる「遠隔転移」です。
局所再発の場合は、早期に発見できれば治癒を目指した治療が可能です。切除可能であれば手術を行い、必要に応じて放射線治療や薬物療法を行います。
一方、遠隔転移の場合は、画像検査で捉えることができないがん細胞が体内に潜んでいることも考えられ、現在の治療法では全身のがん細胞をすべて根絶することは難しい状況です。そのため、遠隔転移については薬物療法を中心に、がんの進行を抑え、症状を和らげながら生活の質を保つための治療を行います。
乳がんの再発しやすい時期とサブタイプによる違い
乳がんの再発時期は、初期診断後の治療から2~3年後に起こることが多いとされています。特に手術後2~3年以内の再発が目立ちます。
しかし、乳がんは他のがんと比べて進行がゆっくりとした性質があるため、10年以上経過してから再発するケースも決して珍しくありません。実際、10年以上経ってから再発し、遠隔転移が判明する患者さんもいます。
再発しやすい時期は、乳がんのサブタイプによって異なる傾向があることがわかっています。乳がんのサブタイプとは、ホルモン受容体やHER2タンパクの有無、がん細胞の増殖能力などによって分類されるがんの性質です。
| サブタイプ | 再発の特徴 | 5年無再発率 |
|---|---|---|
| HER2陽性 | 手術後2~3年で再発しやすい | 約85~90% |
| トリプルネガティブ | 手術後2~3年、特に3年以内の再発が多い | 約79% |
| ホルモン受容体陽性 | 5年目以降の晩期再発も多い、10年後以降も注意が必要 | 約90~97%(ルミナルAタイプ) |
HER2陽性やトリプルネガティブのタイプでは、がん細胞の増殖能力が高いため、手術後2~3年で再発しやすい特徴があります。特にトリプルネガティブは治療の選択肢が限られることもあり、他のサブタイプに比べて再発リスクが高い傾向にあります。
一方、ホルモン受容体陽性のタイプ(ルミナルA型やルミナルB型)は、がん細胞がゆっくりと増殖する性質があるため、5年目以降、さらには10年後や20年後に再発することも少なくありません。そのため、ホルモン受容体陽性の乳がんでは、長期にわたる経過観察が必要です。
ホルモン受容体陽性HER2陰性の転移・再発乳がんについては、2025年現在、CDK4/6阻害薬やAKT阻害薬、PARP阻害薬、抗体薬物複合体など新しい治療薬が次々と登場しており、治療の選択肢が広がっています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
再発・転移の症状と兆候
再発・転移の症状は、がんが現れた部位によって異なります。また、症状には個人差が大きく、まったく症状を示さない場合もあるため注意が必要です。
局所再発の症状
温存した乳房内やわきの下のリンパ節への局所再発は、しこりや皮膚の変化で気づくことが多いです。
具体的には、手術した側の乳房にしこりができる、皮膚が赤くなる、湿疹ができる、皮膚が引きつれるなどの自覚症状として現れる場合があります。セルフチェックで乳房やその周囲にしこりや腫れを見つけた場合は、局所再発の可能性が考えられます。
遠隔転移の症状
遠隔転移の症状は、転移した臓器によって次のように異なります。
| 転移部位 | 主な症状 | 特徴 |
|---|---|---|
| 骨転移 | 骨の痛み、骨折 | 乳がん遠隔転移の約30%を占める最も多い転移部位 |
| 肺転移 | 息切れ、痰、咳、息苦しさ | 呼吸器症状として現れることが多い |
| 肝転移 | 初期は症状なし、進行すると腹部の腫れ、みぞおち付近の痛み、黄疸、腹部膨満感 | 症状が出にくく、定期検診で発見されることも多い |
| 脳転移 | 吐き気、めまい、頭痛 | 神経症状として現れる |
骨転移では、転移した部位に痛みが生じます。乳がんの遠隔転移では約30%が骨転移で、最も多い転移部位です。痛みが強い場合には、鎮痛薬による治療や放射線治療を行います。
肺転移では、咳や息切れ、痰などの呼吸器症状が現れますが、症状が軽い場合や無症状の場合もあります。
肝転移は、初期には症状がみられないことが多く、進行すると腹部の腫れやみぞおち付近の痛み、黄疸などが現れます。
脳転移では、めまいや頭痛、吐き気などの神経症状で気づくことがあります。
ただし、これらの症状がすべての患者さんに現れるわけではなく、自覚症状のないまま定期検診で発見されることも少なくありません。
再発を見きわめる痛みのポイント
再発した乳がんも、もとの性質を保っているため、基本的にはゆっくりと進行していきます。痛みが現れたときに、再発によるものかどうかを見きわめるポイントがあります。
「急に強い痛みが現れたものの、様子を見ていたら痛みがおさまってきた」という場合は、がん以外に原因があることが多いと考えられます。打撲や筋肉痛、神経痛など、他の要因による一時的な痛みの可能性があります。
一方で、「痛みはそれほど強くないが、長く続く」「だんだんと痛みが強くなってきた」という場合は、がんの再発の可能性が高いと考えられます。このような持続的な痛みや徐々に悪化する痛みには注意が必要です。
痛みの性質や持続期間を観察し、気になる症状が続く場合は、次の定期検診を待たずに、すみやかに主治医に相談することが大切です。
術後の定期検診とフォローアップ検査
病院では、5年間再発がなければ治癒とみなすという目安としての考え方がありますが、これはあくまで統計的な目安です。
実際には、乳がんは術後10年経過した後も再発する可能性があるため、少なくとも10年間は定期検診を受けることが推奨されています。特にホルモン受容体陽性の乳がんでは、10年以降の晩期再発もあるため、さらに長期の経過観察が必要な場合もあります。
定期検診のスケジュール
一般的な定期検診のスケジュールは次のとおりです。
| 術後の期間 | 検診の頻度 | 主な検査内容 |
|---|---|---|
| 1~3年目 | 3~6か月ごと | 問診、視触診、必要に応じて血液検査や画像検査 |
| 4~5年目 | 6か月~1年ごと | 問診、視触診、必要に応じて血液検査や画像検査 |
| 6年目以降 | 1年ごと | 問診、視触診、必要に応じて血液検査や画像検査 |
定期検診では、問診と視触診を基本として、必要に応じて腫瘍マーカーを含む血液検査や、骨シンチグラフィ、MRI、CT、胸部レントゲンなどの画像検査を行います。
手術した反対側の乳房に新たにがんができる可能性もあるため、年1回のマンモグラフィや超音波検査が推奨されます。これらの検査により、対側乳房のがんを早期に発見できれば、切除による治癒の可能性が高くなります。
マンモグラフィと超音波検査の選び方
乳がん検診の方法として、マンモグラフィ(乳房X線検査)と乳房超音波検査(エコー検査)があります。それぞれに特徴があり、両方を併用することで発見率が向上します。
日本乳癌学会の乳癌診療ガイドライン2022年版によると、40歳以上の女性では、マンモグラフィ単独の感度(乳がんを正確に乳がんと判断する確率)は62~85%、超音波検査単独では54~73%でしたが、両者を併用する方法では感度が85~94%に上昇することが示されています。
マンモグラフィは、早期乳がんに見られる微小な石灰化の発見に優れています。一方、超音波検査は小さなしこりの発見に優れ、乳腺の濃度に左右されずに検査できるため、乳腺が発達している方にも有効です。
厚生労働省では、40歳以上の女性に対して2年に1回のマンモグラフィ検査を推奨していますが、より確実な早期発見のためには、マンモグラフィと超音波検査を毎年併用して受けることが理想的です。
再発・転移を心配しすぎないことの大切さ
がん治療を経験し、早期発見の大切さを身をもって実感した患者さんほど、「再発・転移」をいち早く見つけなければという焦りを感じることが多いです。
なかには、再発転移への不安から頻繁な検査を望む患者さんもいます。しかし、これについて知っておいていただきたい事実があります。
医学的な研究によると、再発・転移を検査で早期に発見して治療を開始しても、何か症状が出てから治療を開始しても、その後の生存期間にほとんど差はないことがわかっています。
つまり、過度に頻繁な検査を受けても、必ずしも予後の改善につながるわけではないのです。むしろ、過度な心配や不安がストレスとなり、生活の質を低下させてしまう可能性があります。
再発・転移を過度に心配して焦ったり、不安になったりせず、決められた定期検診をきちんと受けつつ、日常のセルフチェックも怠らないようにすることで十分です。
そして、普段と違う症状が続く場合や気になる変化があれば、次の定期検診を待たずに、すみやかに主治医に相談するようにしましょう。
再発・転移がわかったときの心理的な対応
主治医から「再発・転移がある」と告げられたときの患者さんのショックや悲しみは、初めて乳がんを告知されたときよりも大きいといわれています。
再発したことへの不安、初期治療でがんを取りきれなかったことへの怒り、今後の治療への恐れなど、さまざまな感情が交錯します。なかには、強い喪失感や死への恐怖などから、うつ状態に陥り、適応障害やうつ病を発症する患者さんも少なくありません。
こうした気持ちをすぐに整理することは難しいことですが、まずは自分の気持ちを認め、受け入れることが大切です。泣きたいときは泣き、不安を感じることは自然なことだと理解しましょう。
少し落ち着いたら、主治医に再発部位やがんの進行状況、治療法の選択肢などを説明してもらいましょう。最新の治療法では、再発・転移後も長期にわたって良好な生活を送れるケースが増えています。
治療方針を決めるうえで最も大切なのは、患者さん自身の希望です。「どのような治療を受けたいか」「どう過ごしていきたいか」などを伝えて、家族や主治医、医療スタッフと一緒に、治療や支援の方法を考えていきましょう。
再発・転移の治療においても、初期治療のときと同じく、主治医や看護師のほかに、精神腫瘍医、臨床心理士、薬剤師、ソーシャルワーカーなど、さまざまな専門スタッフがサポートする体制が整っています。
心のつらさや生活上の不安があれば、遠慮せずに医療スタッフに相談することをおすすめします。がん相談支援センターでは、治療や生活に関するさまざまな相談を受け付けています。
最新の再発・転移治療の進歩
2025年から2026年にかけて、乳がんの再発・転移治療は目覚ましい進歩を遂げています。
ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんでは、CDK4/6阻害薬(アベマシクリブ、パルボシクリブ)やAKT阻害薬(カピバセルチブ)など、新しい分子標的薬が使用できるようになっています。
HER2陽性乳がんでは、抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカンが、HER2陽性だけでなく、HER2低発現(HER2-low)の乳がんにも有効であることが示され、治療の選択肢が広がりました。
トリプルネガティブ乳がんでは、PD-L1陽性の場合に免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブやペムブロリズマブ)と化学療法の併用が可能になりました。また、2024年に承認されたサシツズマブ ゴビテカンや、ダトポタマブ デルクステカンといった新しい抗体薬物複合体も登場しています。
これらの新薬の登場により、再発・転移後の生存期間が延長し、生活の質を保ちながらがんと共存できる期間が長くなってきています。
まとめ
乳がんの再発・転移は、サブタイプによって再発しやすい時期が異なります。HER2陽性やトリプルネガティブでは手術後2~3年、ホルモン受容体陽性では5年目以降の晩期再発もあります。
再発・転移の症状は部位によって異なり、局所再発ではしこりや皮膚の変化、遠隔転移では骨の痛み、呼吸器症状、腹部症状、神経症状などが現れますが、無症状の場合もあります。
術後10年間は定期検診を受け、マンモグラフィと超音波検査を併用することで再発の早期発見が可能です。ただし、過度な心配はせず、普段と違う症状が続く場合にすみやかに主治医に相談することが大切です。
再発・転移が判明した場合も、最新の治療法により、生活の質を保ちながら長期にわたって良好な状態を維持できるケースが増えています。主治医や医療スタッフと相談しながら、自分に合った治療法を選択していきましょう。
参考文献・出典情報
再発・転移の症状とは | ホルモン受容体陽性乳がん | 乳がん.jp
再発・転移とは | 再発・転移の治療 | 専門医が解説する乳がん治療 | 乳がんinfoナビ
再発・転移乳がん治療の考え方 | 再発・転移の治療 | 乳がんinfoナビ
乳がんのサブタイプ | 薬物療法の考え方 | 乳がんinfoナビ
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乳がんの再発・転移 | NPO法人キャンサーネットジャパン
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