こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がんと診断された際、あるいは手術の後に、医師から「リンパ節に転移しています」と告げられることがあります。リンパ節転移という言葉を聞くと、多くの患者さんやご家族が不安を感じるかもしれません。
しかし、リンパ節転移の状態は、がんの種類やステージ、転移の範囲によって大きく異なります。すべてのリンパ節転移が同じ状況を意味するわけではなく、適切な治療によって良好な経過をたどることができるケースも少なくありません。
この記事では、リンパ節転移がどのようにして起こるのか、どのように診断され、どのような治療が行われるのかについて、2026年時点での最新情報を交えながら詳しく解説します。
リンパ系とリンパ節の役割について
リンパ節転移を理解するには、まずリンパ系とリンパ節の基本的な役割を知る必要があります。
リンパ系は、リンパ液を全身に循環させるシステムです。リンパ液は病原体と闘うリンパ球を含んでおり、体の免疫機能において重要な役割を果たしています。リンパ管は全身に網の目のように張りめぐらされており、その途中には大豆からソラマメほどの大きさのふくらみが存在します。これがリンパ節です。
リンパ節は一種の免疫器官であり、リンパ液をろ過して古いリンパ球を取り除いたり、病原体や毒物を免疫反応によって処理したりしています。リンパ節に含まれるマクロファージ(大食細胞)が病原体や異物を見つけ出し、他のリンパ球に攻撃させて無害化します。
かぜなどの感染症にかかったときに首やあごの下のリンパ節が腫れるのは、病原体と闘うためにリンパ節の中のリンパ球が急激に増えたことを示しています。リンパ節に達した病原体や毒物の99パーセントは、こうした免疫機能によって除去されるとみられています。
人間の体には約600か所ものリンパ節が存在しており、これらが連携して免疫システムを支えています。
がん細胞がリンパ節に転移するメカニズム
リンパ管へのがん細胞の侵入
リンパ管は血管とは違って壁が薄く、壁の細胞どうしの間隔も開いています。これは体の組織内のリンパ液をとり込みやすくするための構造です。リンパ系にはポンプのような器官がなく、筋肉の動きによってリンパ液が流れるため、リンパ管内の圧力は動脈ほど高くありません。
そのため、リンパ球や水分だけでなく、病原体や細胞のかけらもリンパ管に入り込みます。がんがどこかの臓器に生じ、がん細胞が組織からはがれ落ちてその周辺を動きまわるようになると、それらは容易にリンパ管に侵入することになります。
リンパ節でのがん細胞の増殖
こうしてリンパ管に入り、リンパ液の流れに乗ったがん細胞は、ろ過装置のついたリンパ節でせき止められます。がん細胞の一部は、ここでリンパ球などの免疫細胞に攻撃されて死んでいきます。
しかし、がん細胞はもともと自分の体の細胞が変化したものなので、免疫細胞はそれらのすべてを有害な敵かどうか見分けることができません。そのためがん細胞は免疫細胞に攻撃されることなく生き続け、リンパ節で増殖することがあります。これがリンパ節転移です。
リンパ節から他のリンパ節への広がり
リンパ節転移は、原発巣から最も近いリンパ節で始まり、そこで増えたがん細胞がリンパ管を伝わって別のリンパ節に到達し、そこでも増殖し始めます。このように、がんはリンパ節からリンパ節へと次々に転移していく一定の規則性を持っています。
リンパ管は最終的には静脈(血管)と合流するため、がんのリンパ節転移が進むと、がん細胞は血液の流れに乗って肺や肝臓などの臓器に移動する可能性が高くなります。実際には、リンパ節への転移が始まるころには血管にもがん細胞が入り込むことが多いため、離れた臓器への転移は血管を通じて起こることが一般的です。
リンパ節転移の診断方法
リンパ節転移の診断には、主に画像診断と病理検査が用いられます。
| 診断方法 | 特徴 |
|---|---|
| CT検査 | リンパ節の大きさや形状を詳細に評価できます。リンパ節が腫大している場合、転移が疑われます |
| MRI検査 | 軟部組織のコントラストに優れており、リンパ節の内部構造まで観察できます |
| 超音波検査 | 体への負担が少なく、リンパ節の腫れや形状変化を確認できます |
| PET-CT検査 | がん細胞の代謝活動を可視化し、転移の有無を確認するのに有効です |
| 病理検査 | 手術で切除したリンパ節を顕微鏡で詳しく調べ、がん細胞の有無を確定診断します |
センチネルリンパ節生検について
近年、乳がんや胃がん、悪性黒色腫(メラノーマ)などでは、手術時に「センチネルリンパ節生検」と呼ばれる検査を行うことがあります。
センチネルは「見張り」とか「歩哨」の意味で、センチネルリンパ節はがん細胞が流れ込む最初のリンパ節を指します。このリンパ節にがんが転移しているかどうかを調べることで、他のリンパ節への転移の可能性を推測できます。
センチネルリンパ節生検では、放射性同位元素や色素をがんの周辺に注射し、これらの物質がリンパ液の流れに乗って最初に到達するリンパ節を特定します。手術中にガンマプローブという検出器を使って放射線を追跡したり、色素で青く染まったリンパ節を視覚的に確認したりして、センチネルリンパ節を見つけ出します。
センチネルリンパ節生検を行い、そこに転移が見られたときにのみ周辺のリンパ節を切除します。転移がなければ、他のリンパ節への転移の可能性は低いと考えられるため、広範囲なリンパ節郭清を避けることができます。
2025年4月に米国臨床腫瘍学会(ASCO)から発表された最新のガイドラインでは、一部の早期乳がん患者さんにおいて、センチネルリンパ節生検を省略できる可能性が示されました。特に、腫瘍が小さく(2センチメートル以下)、画像検査でリンパ節転移が疑われない場合などが対象とされています。リンパ節を取らなくても再発率や生存率に差がないという研究結果に基づき、体への負担を軽減する方向で検討が進められています。
リンパ節転移とステージ分類の関係
リンパ節転移の有無や範囲は、がんのステージ分類において重要な要素となります。ただし、がんの種類によってステージの定義は異なります。
| がんの種類 | リンパ節転移とステージの関係 |
|---|---|
| 乳がん | リンパ節転移が認められるとステージII以上。腋窩リンパ節への転移はステージII、内胸リンパ節への転移はステージIIIAまたはIIIB、鎖骨上リンパ節への転移はステージIIICとなります |
| 大腸がん | がんの大腸壁への浸潤の程度にかかわらず、リンパ節転移が見られるとステージIII以上と診断されます |
| 胃がん | リンパ節転移の個数や範囲によってステージが決まります。転移しているリンパ節の数が多いほどステージが高くなります |
| 子宮頸がん | がん細胞のサイズや浸潤の程度にかかわらず、リンパ節転移が認められるとステージIIIC以上と診断されます |
一般的に、ステージ1から3は原発部位やその周囲のリンパ節にとどまっている状態を示し、ステージ4は肺、肝臓、骨、脳などへの遠隔転移が見られる状態を指します。
リンパ節転移は「原発部分に近い部分で起こる転移」であり、遠隔転移とは区別されます。例えば、乳がんの場合、骨や肺に転移すると遠隔転移としてステージ4になりますが、リンパ節転移があったとしても軽度な転移ならステージ2です。
リンパ節転移の治療法
初期治療の場合
リンパ節転移が原発がんの周辺に限られ、数も少ない場合は「リンパ節郭清(かくせい。切除すること)」が行われることがあります。これはがんの部位によっても対応が異なります。
胃がんの場合、リンパ節転移が早い段階で起こりやすいため、ごく初期でないかぎり、胃を切除するとともに胃をとりまくリンパ節も広範囲に郭清します。
乳がんでも、ある程度進行しており、リンパ節転移の疑いがある場合はわきの下のリンパ節を郭清することがあります。ただし、リンパ節を切除すると、腕や脚がむくむ(リンパ浮腫)、腹に水がたまるなどの後遺症が現れることがあります。
そのため、センチネルリンパ節生検で転移が見られたときにのみ周辺のリンパ節を切除するという方法が広まっています。
がんの手術でリンパ節を切除したときには、その後病理検査が行われ、がんが転移していないかどうかが顕微鏡で詳しく調べられます。リンパ節に転移が認められたときには、遠隔転移も始まっている可能性があるため、化学療法(抗がん剤投与)などの補助療法を行い、残っているかもしれないがん細胞を攻撃するようにします。
再発・転移の場合
基本的にリンパ節郭清などの手術が行われるのは初期治療のケースです。初期治療後(早期がんとして手術後)に再発や転移があり、その中でリンパ節転移がみつかったとしても、それを手術で取り除くことが提案されることは極めて稀です。
がん治療において手術をするのは「がんが取りきれる場合のみ」であるため、リンパ管の広い範囲にがんが存在していると思われる再発・転移の場合は適応となりません。
放射線治療も同様に、再発・転移の場合は適応外ですが、特定のリンパ節転移が増悪したり肥大したりしている場合、局所制御の一環として放射線を当てることがあります。
原則としては、化学療法(抗がん剤などの薬を使うこと)が第一選択肢となります。近年では、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬など、新しい治療薬も登場しており、治療の選択肢が広がっています。
リンパ節転移の予後と生存率について
リンパ節転移の有無や範囲は、予後に影響を与える重要な指標です。一般的に、リンパ節転移が多いほど予後は厳しくなる傾向がありますが、これはがんの種類やステージ、患者さんの全身状態によって異なります。
予後を示す指標として、5年生存率があります。5年生存率とは、がんと診断されてから5年後に生存している割合を示したものです。
| がんの種類とステージ | 5年生存率の目安 |
|---|---|
| 乳がんステージII(リンパ節転移あり) | 約95.7% |
| 乳がんステージIII(広範なリンパ節転移) | 約80.6% |
| 子宮体がんステージIII(リンパ節転移あり) | 約60~70% |
| 大腸がんステージIII(リンパ節転移あり) | 約70~80% |
これらの数値は平均値であり、個々の症例によって大きく異なります。また、近年では治療法の進歩により、生存期間の延長や生活の質(QOL)の向上が期待されるようになっています。
リンパ節転移があっても余命を考えるのは適切ではないケース
ステージ2の段階では進行がんではないため、余命という概念で考えることは適切ではありません。医師に余命について尋ねても「まだそんな話をする段階ではない」と言われるでしょう。
胃がんや大腸がんでも同じことが言えるため、リンパ節転移があったからといって直ちに余命を考えたり、余命を推測したりするのは適切ではありません。リンパ節転移の有無よりも、遠隔転移の有無、がんの性質、患者さんの全身状態などを総合的に評価して治療方針を決めることが重要です。
リンパ節転移が見つかった場合に考えること
リンパ節転移が見つかったとき、多くの患者さんやご家族が不安を感じることは当然です。しかし、リンパ節転移があるからといって、すべてのケースで予後が悪いわけではありません。
重要なのは、がんの種類、転移の範囲、患者さんの体力や年齢、がん細胞の性質などを総合的に評価し、最も適切な治療法を選択することです。医療技術の進歩により、リンパ節転移があっても適切な治療を受けることで、良好な経過をたどることができるケースが増えています。
また、治療後の定期的な検査やフォローアップも重要です。再発や新たな転移を早期に発見することで、迅速な対応が可能になります。
担当医とよく相談し、治療の選択肢、期待できる効果、起こりうる副作用などについて十分に理解したうえで、自分に合った治療法を選ぶことが大切です。

