
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
卵巣がんは「silent disease」(沈黙の病気)と呼ばれ、自覚症状がほとんど出ない病気として知られています。
気がついたときには進行がんになっている例が少なくなく、早期発見が難しいがんの一つです。
この記事では、卵巣がんの症状やチェックすべきポイント、生理やおりものとの関係、検診の重要性について詳しく解説します。
卵巣がんで症状が出にくい理由
卵巣は骨盤内に左右2つ存在します。
片方の卵巣にがんが発生しても、もう一方の卵巣が正常に機能していれば、年齢相応の性機能は保たれます。そのため、身体の変化として自覚できる症状が出にくいのです。
また、子宮がんのように不正性器出血が起こることもありません。
このため、生理の異常、おりものの変化、月経不順といった症状は、卵巣がんとはほとんど関係がないといえます。
卵巣は骨盤内(腹腔内)に固定がゆるい状態で存在しているため、腫瘍が大きくなっても周囲の臓器を圧迫しにくいという特徴があります。
これも症状が出にくい理由の一つです。
卵巣がんの初期症状チェック表
卵巣がんの初期段階では、ほとんど症状がありません。
人によっては、原因不明の身体症状が出たり消えたりする不定愁訴が、上腹部や下腹部に現れることがあります。
以下の症状が卵巣がんのチェック項目として挙げられます。
| 症状 | 詳細 |
|---|---|
| 下腹部の違和感 | おなかが張る、重い感じがするといった程度の軽い症状 |
| 腹部膨満感 | おなかがふくれた感じ、最近太ったように感じる |
| 下腹部のしこり | 腫瘍が大きくなると触れることがある |
| スカートのウエストがきつい | 卵巣の腫れや腹水の貯留による |
| あお向けに寝られない | がん病巣や腹水が増えると苦しくなる |
| 原因不明の上腹部不快感 | 消化器症状と間違えやすい |
ただし、おなかが張るとか、重いといった程度の症状では、この時点で卵巣がんを疑って婦人科を受診する人はほとんどいません。
多くの場合、別の理由で受診した際に偶然発見されるか、症状が進行してから気づくことになります。
生理やおりものの変化との関係
卵巣がんでは、生理不順やおりものの異常はほとんど起こりません。
これは、子宮がんや子宮頸がんとの大きな違いです。
子宮がんや子宮頸がんでは、不正性器出血やおりものの異常が初期症状として現れることがありますが、卵巣がんではこうした症状は期待できません。
したがって、「生理が正常だから大丈夫」「おりものに変化がないから問題ない」という判断は、卵巣がんに関しては当てはまらないのです。
月経周期や性機能への影響が少ない理由
卵巣は2つあるため、片方にがんが発生しても、もう一方が正常に機能していれば、ホルモン分泌や排卵機能は維持されます。
このため、月経周期が乱れることも少なく、閉経前の女性であれば、普段どおりの生理が続くことが一般的です。
閉経後の女性の場合は、もともと月経がないため、さらに症状に気づきにくい状況となります。
卵巣がんが進行したときの症状
卵巣がんが大きくなると、以下のような症状が現れやすくなります。
腹部膨満感と腹水の貯留
卵巣がんが進行すると、腹腔内にがん細胞が播種(種をばらまくような状態で転移すること)することがあります。
この結果、腹膜の機能が低下し、多量の腹水がたまることがあります。
腹水が溜まると、腹部が膨れ上がり、本人は「最近太った」「スカートのウエストがきつくなった」と感じることがあります。
卵巣がんの組織型によって、腹水の貯留しやすさには違いがあります。
| 組織型 | 腹水の特徴 |
|---|---|
| 漿液性がん | 腹水が貯留しやすいタイプ |
| 移行上皮がん | 腹水が貯留しやすいタイプ |
| 類内膜がん | 腹水が多量にたまることはまれ |
| 明細胞がん | 腹水が多量にたまることはまれ |
| 粘液性がん | 腹水が多量にたまることはまれ |
がん病巣がさらに大きくなると、腹部膨満感が強くなり、あお向けに寝られないほど苦しくなることもあります。
下腹部のしこり
卵巣の腫瘍が大きくなると、下腹部にしこりを感じることがあります。
ただし、この段階ではすでにある程度進行していることが多く、早期発見とはいえない状況です。
卵巣がんの病期別発見率と生存率
卵巣がんは、発見される時期によって予後が大きく異なります。
| 病期 | 状態 | 発見率 | 5年生存率 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ期 | 卵巣内にとどまっている | 約30% | 約80% |
| Ⅱ期 | 骨盤内に広がっている | 約10% | 約60% |
| Ⅲ期 | 腹腔内に広がっている | 約50% | 約30% |
| Ⅳ期 | 遠隔転移がある | 約10% | 約10% |
Ⅰ期で発見できれば、約8割の患者さんで良好な経過が期待できます。
しかし、Ⅰ期で発見できるのは全体の約30%に過ぎません。
6割以上がⅢ期、Ⅳ期の進行がんに至ってから発見されており、この段階では5年生存率が大きく低下します。
早期発見が難しい理由
卵巣がんの早期発見が難しい理由は、以下の点にあります。
1. 初期段階ではほとんど症状がない
2. ある程度大きくならないと画像診断でもとらえられない
3. 骨盤内で固定がゆるく、周囲の臓器を圧迫しにくい
4. 腹水が溜まっても、本人は少々太ったという認識しかないことが多い
これらの理由から、定期的な検診や、わずかな症状でも見逃さない意識が重要になります。
卵巣がんに関連する緊急症状:茎捻転
卵巣に腫瘍ができ、それ自体で重みを増してくると、卵巣を支える靭帯が引き伸ばされて、靭帯のつけ根部分が茎のようになります。
その部分が何らかのきっかけでねじれてしまうことがあり、これを「茎捻転」といいます。
茎捻転の症状
茎捻転を起こすような腫瘍は、一般的には良性のものが多いのですが、捻転がひどくなると以下の症状が現れます。
- 下腹部の激痛
- 吐き気
- 発熱
捻転が徐々に起こる場合には、痛みもだんだん強くなってきます。
茎捻転を放っておくと、靭帯を通る血管が圧迫され、組織が壊死して周囲と癒着したり、場合によっては破裂や出血を起こして命にかかわります。
このような急性の激しい腹痛が起きた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
卵巣がんと似た症状を起こす卵管炎
卵巣がんと似た症状を起こす疾患として、卵管炎があります。
卵管炎は、分娩、流産、人工妊娠中絶、性感染症のクラミジア、その他の細菌感染(ブドウ球菌、大腸菌など)によって、卵管で炎症を起こすものです。
卵管炎の症状
急性期の症状は以下のとおりです。
| 症状 | 特徴 |
|---|---|
| 腹痛 | 部位がはっきりしない、下腹部とは限らない、不定期に起こる |
| 腹部膨満感 | 進行すると腹水がたまり、さらに強まる |
| 発熱 | 炎症による |
| おりものの増加 | 水様性のおりもの |
進行すると腹水がたまって腹部膨満感がさらに強まり、歩行困難になって入院が必要になる場合もあります。
慢性化すると、激烈な症状は治まりますが、下腹部の重み、痛み、張り、ひきつり、腰の痛みなどが続きます。
卵管炎の治療
卵管炎の治療法としては、抗生物質(クラリス、ジスロマック内服、ミノマイシン点滴)が用いられ、90%以上の患者さんでほぼ完治します。
ただし、放置すると卵管内や周囲に癒着が生じ、卵子が通過できなくなって不妊になったり、卵管の輸送機能が低下して子宮外妊娠を起こしたりします。
卵管閉塞や癒着を起こした場合は、手術が必要になることもあります。
炎症がひどくなると、卵管閉塞が起こり、閉塞部の一部に浸出液がたまる卵管留水腫や、うみがたまる卵管留膿腫ができることがあります。
また、炎症が卵巣にまで及んだ場合、卵巣炎を併発することがあり、さらに骨盤まで広がると、骨盤腹膜炎を起こします。
卵巣がんの検診と検査方法
卵巣がんは症状が出にくいため、定期的な検診が重要です。
検診で行われる主な検査
| 検査方法 | 内容 |
|---|---|
| 内診 | 医師が膣から指を入れ、卵巣の腫れや異常を触診で確認 |
| 経腟超音波検査 | 膣内に超音波プローブを挿入し、卵巣の状態を画像で確認 |
| 腹部超音波検査 | 腹部から超音波を当て、卵巣や腹腔内の状態を確認 |
| CT検査・MRI検査 | より詳しく卵巣の状態や腹腔内の広がりを確認 |
| 腫瘍マーカー検査 | 血液検査でCA125、CA19-9などの数値を測定 |
特に経腟超音波検査は、卵巣の状態を詳しく観察できるため、卵巣がんの早期発見に有効です。
検診を受けるべき人
以下のような方は、定期的な検診を受けることが推奨されます。
- 40歳以上の女性
- 家族に卵巣がんや乳がんの既往がある方
- 出産経験のない方
- 不妊治療を受けた経験のある方
- 子宮内膜症の既往がある方
卵巣がんは遺伝性の要素もあるため、家族歴がある場合は特に注意が必要です。
腫瘍マーカーの意義
卵巣がんでは、CA125という腫瘍マーカーが上昇することがあります。
ただし、CA125は子宮内膜症や卵巣嚢腫などの良性疾患でも上昇することがあるため、この数値だけで卵巣がんと診断することはできません。
また、早期の卵巣がんではCA125が上昇しないこともあるため、画像検査と組み合わせて総合的に判断することが重要です。
卵巣がんを早期に発見するために
卵巣がんは「沈黙の病気」と呼ばれるほど症状が出にくいがんですが、以下のような心がけで早期発見につなげることができます。
1. 定期的な婦人科検診を受ける
自治体のがん検診では子宮がん検診が中心で、卵巣がん検診は含まれていないことが多いです。
そのため、婦人科での定期的な検診を自主的に受けることが大切です。
2. わずかな症状も見逃さない
下腹部の違和感、腹部膨満感、スカートのウエストがきつくなったなどの症状が続く場合は、婦人科を受診しましょう。
「太っただけ」と自己判断せず、医師に相談することが重要です。
3. 家族歴を把握する
家族に卵巣がんや乳がんの既往がある場合は、遺伝性卵巣がん症候群の可能性があります。
遺伝カウンセリングを受けることも検討しましょう。
4. リスク因子を理解する
出産経験がない、初経が早い、閉経が遅い、子宮内膜症の既往があるなどのリスク因子を持つ方は、より注意深く自分の身体の変化を観察することが大切です。
卵巣がんの症状に関するよくある誤解
卵巣がんについては、いくつかの誤解があります。
誤解1:生理不順があれば卵巣がんかもしれない
前述のとおり、卵巣がんでは生理不順はほとんど起こりません。
生理不順は他の原因(ホルモンバランスの乱れ、ストレス、多嚢胞性卵巣症候群など)によるものが多いです。
誤解2:おりものの異常で気づける
卵巣がんでは、おりものの変化はほとんど起こりません。
おりものの異常は、子宮頸がんや膣炎などの他の疾患を疑うべきサインです。
誤解3:若い人はかからない
卵巣がんは40歳以上に多いですが、若い女性でも発症することがあります。
特に胚細胞腫瘍という種類の卵巣がんは、10代から30代の若い女性に多く見られます。
検査で異常が見つかったら
検診や検査で卵巣に異常が見つかった場合、すぐにがんと確定されるわけではありません。
卵巣の腫瘍には良性のものも多く、卵巣嚢腫や成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)などがあります。
精密検査を受けて、良性か悪性かを判断することになります。
最終的な診断は、手術で摘出した組織を病理検査することで確定します。
異常が見つかった場合は、専門医とよく相談し、適切な検査や治療を受けることが大切です。

