がんの診断を受けられた患者さんの中には、「がんでも障害者手帳がもらえるのか」という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。実は、がんの治療によって身体機能に障害が残った場合、身体障害者手帳の交付を受けられる可能性があります。
この記事では、がんでの障害者手帳取得について、最新の情報を交えながら詳しく解説いたします。
がんでも障害者手帳の対象になるケース
がんの患者さんが身体障害者手帳の対象となるのは、がんの治療や病気そのものが原因で身体機能に障害が生じた場合です。具体的には以下のようなケースが該当します。
直腸がん・膀胱がんによる機能障害
人工肛門(ストーマ)や人工膀胱(ウロストミー)を造設した場合、膀胱又は直腸機能障害として1級、3級、4級の等級が認定される可能性があります。これらの手術を受けた場合は、造設と同時に申請手続きが可能となります。
頭頸部がんによる機能障害
喉頭部摘出により声を出す機能を失った場合、音声・言語機能障害として3級の認定を受けられる場合があります。また、手術や治療により咀嚼機能に障害が生じた場合も対象となります。
肺がんによる呼吸器機能障害
呼吸機能の低下により在宅酸素療法を行う必要がある場合、呼吸器機能障害として認定される可能性があります。障害の程度により1級から4級までの等級が設定されています。
その他の機能障害
がんの治療により心臓、腎臓、小腸の機能障害、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、平衡機能障害、免疫機能障害などが生じた場合も対象となります。
身体障害者手帳の等級制度について
身体障害者手帳には1級から6級までの等級があり、1級と2級が重度、3級以下が中度・軽度の障害と区分されています。7級の障害については、単独では手帳の対象となりませんが、2つ以上重複する場合は対象となる場合があります。
等級 | 障害の程度 | 受けられるサービス |
---|---|---|
1級・2級 | 重度 | 手厚い支援サービス |
3級・4級 | 中度 | 中程度の支援サービス |
5級・6級 | 軽度 | 基本的な支援サービス |
障害者手帳と障害年金の違い
多くの患者さんが混同されがちですが、身体障害者手帳と障害年金は全く別の制度です。それぞれの特徴を理解しておくことが大切です。
身体障害者手帳の特徴
- 都道府県が運営する制度
- 1級から6級までの等級
- 福祉サービスを受けるための証明書
- 原則として更新は不要
- 障害の状態が固定した段階で申請可能
障害年金の特徴
- 日本年金機構が運営する制度
- 1級から3級までの等級(障害手当金含む)
- 経済的支援としての現金給付
- 偶数月に年金として支給
- 働きながらでも受給可能
重要なポイントは、障害者手帳の等級と障害年金の等級は連動しないということです。身体障害者手帳1級であっても、障害年金が必ず受給できるわけではありません。
申請方法と必要書類
申請の流れ
- お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で申請書類を入手
- 指定医師による診断書・意見書の作成
- 必要書類を揃えて申請書を提出
- 審査(通常1ヶ月程度)
- 手帳の交付
必要書類
- 身体障害者手帳交付申請書
- 身体障害者診断書・意見書(指定医師作成)
- 本人の写真(縦4cm×横3cm、1年以内撮影、上半身・無帽)
- マイナンバーが分かるもの
- 本人確認書類
- 印鑑(申請書が自筆の場合は不要な場合あり)
注意すべきポイント
診断書を作成できるのは都道府県知事が指定した指定医師のみです。かかりつけの主治医が指定医でない場合は、指定医を紹介してもらう必要があります。また、診断書の作成には費用がかかります。
障害の固定について
身体障害者手帳は、原則として「障害の状態が固定した」段階で申請手続きが可能となります。これは、障害が永続することを前提とした制度だからです。
固定時期の目安
- 人工肛門・人工膀胱:造設直後から申請可能
- 咽頭摘出:手術後から申請可能
- 呼吸器機能障害:治療開始から一定期間経過後
- その他の障害:障害の種類により異なる
疾病を発病してまもない時期や、治療に伴う一時的な障害については、認定の対象とならない場合があります。詳しい固定時期については、お住まいの自治体や指定医師にご相談ください。
障害者手帳で受けられる支援サービス
医療費の軽減
身体障害者手帳をお持ちの場合、指定医療機関での医療費自己負担が原則1割となります。また、地方自治体による医療費助成制度も利用できます。
補装具費の支給
車椅子、補聴器、盲人安全杖、義肢、歩行器などの補装具の購入・修理費用の助成が受けられます。自己負担額は原則1割です。
税制上の優遇措置
- 所得税・住民税の障害者控除
- 相続税の障害者控除
- 自動車税・自動車取得税の減免(一定条件下)
公共料金等の割引
- JR等公共交通機関の運賃割引
- NHK受信料の減免
- 携帯電話料金の割引
- 公共施設入館料の減免
住宅関連の支援
手すりの設置や段差解消などの住宅リフォーム費用の助成が受けられる場合があります。
就労支援
障害者雇用促進法に基づく企業の障害者採用枠での就職活動が可能になります。また、職業訓練や職業適性検査などの就労支援サービスも利用できます。
最新の制度変更点(2025年)
2025年現在、身体障害者手帳制度には以下のような変更点があります。
デジタル化の推進
マイナンバー連携を活用したデジタル障害者手帳アプリ「ミライロID」が利用可能になっています。手帳情報をスマートフォンで管理し、各種サービスの利用時に提示できます。
手帳のカード化
東京都では2024年1月以降、身体障害者手帳がカード形式で発行されており、顔写真もカラーになっています。他の自治体でも順次導入が進んでいます。
オンライン申請の拡充
一部の自治体では、手帳の再交付申請について郵送での受付を開始しています。また、マイナポータルを活用したオンライン申請も段階的に拡大されています。
がん患者さんが知っておきたい障害年金との併用
がんの患者さんは、身体障害者手帳と併せて障害年金の受給も検討する価値があります。2025年度の障害年金支給額は以下の通りです。
年金の種類 | 1級 | 2級 | 3級 |
---|---|---|---|
障害基礎年金 | 年額1,039,625円 | 年額831,700円 | 対象外 |
障害厚生年金 | 報酬比例額×1.25倍 | 報酬比例額 | 報酬比例額 |
障害年金は、人工肛門の造設や咽頭摘出などの目に見える障害だけでなく、抗がん剤の副作用による倦怠感や末梢神経障害、貧血、下痢、嘔吐などの内部障害でも受給できる可能性があります。
よくある質問と回答
Q: がんの病名だけで障害者手帳はもらえますか?
A: 病名だけでは判断できません。疾病の結果として生じた障害の程度や日常生活への支障などにより認定されます。
Q: 治療中でも申請できますか?
A: 障害の状態が固定していることが前提ですが、人工肛門造設などの場合は治療中でも申請可能です。
Q: 手帳を持つことで不利になることはありますか?
A: 障害者手帳は必要なときに提示するものであり、所持していることで不利益を受けることはありません。
Q: 再認定はありますか?
A: 原則として更新はありませんが、障害の程度が変化する可能性がある場合は再認定が実施されることがあります。
申請時の注意点
指定医師の確認
診断書を作成できるのは都道府県知事が指定した医師のみです。事前に主治医が指定医かどうか確認し、指定医でない場合は紹介を受ける必要があります。
診断書の有効期限
診断書は申請時から3ヶ月以内または1年以内の日付のものが必要です(自治体により異なる)。作成後は速やかに申請することをお勧めします。
写真の準備
手帳用の写真は厳格な規定があります。上半身、無帽、1年以内撮影、縦4cm×横3cmのサイズが必要です。
処理期間
申請から交付まで通常1ヶ月程度かかりますが、診断書の内容によっては指定医への照会が必要となり、さらに時間がかかる場合があります。
相談窓口と支援機関
市区町村の相談窓口
お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口では、申請に関する相談や手続きの説明を受けることができます。
がん相談支援センター
全国のがん診療連携拠点病院等に設置されているがん相談支援センターでは、障害者手帳に関する情報提供や相談を行っています。
患者団体・支援団体
各種がん患者団体では、実際に手帳を取得した患者さんの体験談や情報を得ることができます。
まとめ
がんの診断を受けられた患者さんであっても、治療により身体機能に障害が生じた場合は身体障害者手帳の取得が可能です。手帳を取得することで、医療費の軽減や各種サービスの利用、就労支援など様々なメリットが得られます。
障害者手帳と障害年金は別の制度であり、それぞれ独立して申請することができます。がんの患者さんの場合、両方の制度を活用することで、より手厚い支援を受けられる可能性があります。
申請を検討される場合は、まずお住まいの自治体の障害福祉担当窓口やがん相談支援センターにご相談ください。適切な情報提供と支援を受けながら、手続きを進めることが大切です。
なお、制度や認定基準は変更される場合がありますので、最新の情報については必ず公的機関にご確認ください。