
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
レトロゾール(商品名:フェマーラ)は、閉経後の乳がん患者さんに使用されるホルモン療法薬です。
アロマターゼ阻害薬という種類に分類され、体内の女性ホルモン(エストロゲン)の生成を抑えることで、乳がん細胞の増殖を抑制します。
この記事では、レトロゾールの作用機序、効果、副作用、投与方法、費用など、患者さんが治療を受ける際に知っておくべき情報を詳しく解説します。
レトロゾール(フェマーラ)とはどんな薬か
レトロゾールは、閉経後の乳がん治療に用いられる経口薬です。2006年に日本で承認され、世界90カ国以上で使用されている標準的な治療薬となっています。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | レトロゾール |
| 商品名 | フェマーラ錠2.5mg |
| 製造販売会社 | ノバルティスファーマ、中外製薬 |
| 薬効分類 | アロマターゼ阻害薬(第3世代非ステロイド性) |
| 投与経路 | 経口投与 |
| 薬価(2025年時点) | 172.7円(2.5mg1錠) |
レトロゾールの作用機序と特徴
乳がんには、エストロゲン(女性ホルモン)によって増殖するタイプがあり、全体の約6~7割を占めています。このようなホルモン受容体陽性の乳がんに対しては、エストロゲンの働きを抑えるホルモン療法が効果的です。
閉経後のエストロゲン産生メカニズム
閉経前の女性では、エストロゲンは主に卵巣で作られます。しかし、閉経後は卵巣機能が低下するため、別の経路でエストロゲンが産生されます。
閉経後の女性では、副腎から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)が、脂肪組織や筋肉組織などに存在する「アロマターゼ」という酵素の働きによって、エストロゲンに変換されます。この経路が、閉経後の主なエストロゲン供給源となります。
レトロゾールの作用
レトロゾールは、アロマターゼの活性を選択的に阻害することで、アンドロゲンからエストロゲンへの変換を抑制します。その結果、体内のエストロゲン濃度が低下し、エストロゲン依存性の乳がん細胞の増殖が抑えられます。
非ステロイド性の選択的アロマターゼ阻害薬として、アナストロゾール(アリミデックス)、エキセメスタン(アロマシン)とともに第3世代に分類されています。
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
がん治療。
何を信じれば?
不安と恐怖で苦しい。
がん治療を左右するのは
治療法より“たった1つの条件”です。
まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
対象となる患者さんと保険適応
主な適応
レトロゾールは、以下の患者さんに使用されます。
- 閉経後のホルモン受容体陽性乳がん患者さん
- 術後補助療法として
- 進行・再発乳がんの治療として
なお、2022年4月からは、多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発、原因不明不妊における排卵誘発、生殖補助医療における調節卵巣刺激にも保険適応が追加されましたが、本記事では乳がん治療に焦点を当てて解説します。
レトロゾールの効果と臨床試験の結果
タモキシフェンとの比較
海外で行われた大規模な臨床試験では、レトロゾールの効果が確認されています。
手術直後から投与した術後補助療法では、レトロゾール群はタモキシフェン群と比較して、再発のリスクを19%低下させました。5年時点での無病生存率は、レトロゾール群で84%、タモキシフェン群で81.4%でした。
また、腋窩リンパ節転移陽性例では29%、遠隔再発については27%、それぞれ再発リスクが低下したという結果が報告されています。
タモキシフェン治療終了後の使用
タモキシフェンによる術後補助療法を5年間終了した患者さんを対象とした試験では、レトロゾールを追加投与することで、プラシーボ群(無治療群)と比較して再発のリスクを42%低下させました。4年時点での無病生存率は、レトロゾール群で94.4%、プラシーボ群で89.8%でした。
アロマターゼ阻害薬のメタアナリシス
2015年に報告されたメタアナリシスでは、アロマターゼ阻害薬5年間の内服は、タモキシフェン5年間の内服と比較して、10年間の乳がん再発を20%減少させ、乳がん死亡を15%減少させることが示されています。
投与方法と投与スケジュール
標準的な投与量
閉経後乳がんの治療では、通常、成人にはレトロゾールとして1日1回2.5mgを経口投与します。毎日決まった時間に服用することが推奨されます。
投与期間
術後補助療法における投与期間は、患者さんの状態や再発リスクに応じて決定されます。効果が実証されている投与法としては、以下のパターンがあります。
| 投与パターン | 内容 |
|---|---|
| パターン1 | アロマターゼ阻害薬を5年間継続して内服 |
| パターン2 | タモキシフェンを2~3年内服後、アロマターゼ阻害薬に切り替えて2~3年内服(計5年間) |
| パターン3 | タモキシフェンを5年内服後、アロマターゼ阻害薬を3~5年内服 |
再発リスクが高い患者さんでは、内分泌療法5年終了後にアロマターゼ阻害薬を2~5年追加投与することで、無病生存期間が改善することが報告されています。ただし、骨痛や骨粗しょう症などの副作用も増加するため、再発リスクと副作用を考慮して判断されます。
レトロゾールの主な副作用
レトロゾールは、従来の抗がん剤と比べて副作用が軽く、長期間安定した投与が続けられるという利点があります。しかし、副作用がないわけではなく、ホルモンに作用する性格上、更年期障害のような症状が現れることがあります。
重大な副作用
| 副作用 | 症状と注意点 |
|---|---|
| 血栓症・塞栓症 | 血液が固まりやすくなり、肺塞栓症や下肢静脈血栓症などが起こる可能性があります。息苦しさ、下肢のむくみや痛み、しびれなどの症状に注意が必要です。 |
| 心不全・狭心症 | 心臓の機能に影響が出る可能性があります。動悸、息切れ、胸の痛みなどを感じた場合は、すぐに医師に相談してください。 |
| 肝機能障害・黄疸 | 肝臓の機能が低下することがあります。定期的な血液検査で肝機能をチェックします。 |
その他注意が必要な副作用
比較的よく見られる副作用としては、以下のようなものがあります。
- ほてり(ホットフラッシュ)
- 関節痛・関節のこわばり
- 頭痛
- 悪心(吐き気)
- 発疹
- めまい
- 血中コレステロール増加
- 肝酵素(AST、ALT等)上昇
関節痛と骨粗しょう症への対策
アロマターゼ阻害薬の代表的な副作用は、関節痛と骨密度低下による骨粗しょう症です。特に関節痛や関節のこわばり感による不快感は、患者さんの内服継続の意欲を妨げることがあります。
関節痛の原因は完全には解明されていませんが、関節周囲の浮腫、腱鞘の肥厚、関節包内への関節液貯留などによるものと考えられています。国立がん研究センターによると、アロマターゼ阻害薬服用中の1~3%の患者さんに関節のこわばりや体の節々の痛みが報告されています。
関節痛への具体的な対策
| 対策方法 | 詳細 |
|---|---|
| 薬物療法 | NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)やCOX2阻害薬の内服を検討します。症状がつらい場合は、アロマターゼ阻害薬の種類変更も選択肢となります。 |
| 運動・リハビリ | 関節のこわばり感は、動かしていると軽減することが多いため、入浴中のマッサージや手指の曲げ伸ばし運動が有効です。水泳やウォーキングなどの適度な運動も推奨されます。 |
| 生活習慣の改善 | 長時間同じ姿勢を続けることを避け、定期的に体を動かすことが大切です。 |
骨粗しょう症の予防
エストロゲンは骨量を保つように働いているため、アロマターゼ阻害薬の服用により体内のエストロゲン量が減少すると、骨量が減少し、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まります。
骨粗しょう症の予防と対策には、以下のような方法があります。
- 治療前と治療開始後は年に1回程度、骨密度の測定を行う
- カルシウムやビタミンDを含んだバランスのよい食事を心がける
- 定期的なウォーキングなど、適度な運動を続ける
- 日光浴を適度に行う(ビタミンDの生成を促進)
- 骨粗しょう症の程度が強い場合は、治療のための薬剤を使用することがある
投与時の注意点と併用注意薬
代謝経路
レトロゾールは主として肝臓で代謝され(肝代謝酵素CYP3A4およびCYP2A6)、腎臓から排泄されます。
併用注意
肝代謝酵素CYP3A4およびCYP2A6の活性に影響を及ぼす薬剤との併用には注意が必要です。
- アゾール系抗真菌薬
- リファンピシン
- タモキシフェン
- メトキサレン など
慎重投与が必要な方
- 重度の肝機能障害がある方
- 腎機能障害がある方
レトロゾールの費用と自己負担について
薬価と月額費用
2025年時点での薬価は以下の通りです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| フェマーラ錠2.5mg(先発品) | 172.7円/錠 |
| 1日あたりの薬剤費 | 172.7円 |
| 1ヶ月(30日)の薬剤費 | 約5,181円 |
保険適応と自己負担
レトロゾールは保険適応となっており、患者さんの自己負担割合に応じて費用が決まります。
| 自己負担割合 | 1ヶ月あたりの自己負担額(概算) |
|---|---|
| 3割負担 | 約1,554円 |
| 2割負担 | 約1,036円 |
| 1割負担 | 約518円 |
注:上記は薬剤費のみの概算です。実際には診察料、検査料などが別途かかります。また、高額療養費制度の適用により、月額の医療費には上限が設けられています。
ジェネリック医薬品について
レトロゾールにはジェネリック医薬品(後発医薬品)も発売されています。ジェネリック医薬品を選択することで、薬剤費をさらに抑えることができます。ジェネリック医薬品の使用を希望される場合は、主治医や薬剤師に相談してください。
日常生活への影響と注意点
服用方法
レトロゾールは経口薬のため、自宅で服用できます。毎日決まった時間に服用することで、血中濃度を安定させることができます。
飲み忘れに気づいた場合は、気づいた時点でできるだけ早く服用してください。ただし、次の服用時間が近い場合は、忘れた分は服用せず、次回から通常通り服用します。2回分を一度に服用しないでください。
通院と検査
レトロゾールの服用中は、定期的な通院と検査が必要です。
- 定期的な血液検査(肝機能、脂質など)
- 骨密度測定(年1回程度)
- 画像検査(乳がんの経過観察)
日常生活での工夫
副作用を軽減し、治療効果を高めるために、以下のような生活習慣を心がけることが推奨されます。
- バランスの良い食事(カルシウム、ビタミンD、ミネラルの摂取)
- 適度な運動(ウォーキング、水泳など)
- 日光浴(ビタミンDの生成促進)
- 水分摂取(血栓予防)
- 禁煙(心血管系のリスク低減)
- 長時間同じ姿勢を避ける(血栓予防、関節のこわばり軽減)
他のアロマターゼ阻害薬との比較
現在、日本で使用されているアロマターゼ阻害薬には、レトロゾール(フェマーラ)のほか、アナストロゾール(アリミデックス)、エキセメスタン(アロマシン)があります。
これらの薬剤間における有効性に明確な差はないと考えられていますが、一部の報告では、レトロゾールは効きが早く、リンパ節転移がある場合や抗がん剤治療を受けたことがある症例に対して高い効果を上げやすいとされています。
副作用の出方には個人差があるため、ある薬剤で副作用が強く出た場合、別のアロマターゼ阻害薬に変更することで改善する可能性があります。
治療を続けるうえで大切なこと
レトロゾールによる術後補助療法は、通常5年間、場合によっては10年間継続する必要があります。長期間の治療となるため、副作用と上手に付き合いながら治療を継続することが重要です。
医療チームとのコミュニケーション
副作用がつらい場合や日常生活に支障が出ている場合は、我慢せずに医師、薬剤師、看護師に相談してください。対症療法や薬剤の変更など、さまざまな対処法があります。
定期的な受診の重要性
自覚症状がなくても、定期的な受診と検査を受けることで、副作用の早期発見や乳がんの再発の早期発見につながります。医師の指示通りに通院することが大切です。
治療の継続
副作用があっても、自己判断で服用を中止せず、必ず医師に相談してください。治療を中断すると、再発のリスクが高まる可能性があります。
まとめ
レトロゾール(フェマーラ)は、閉経後のホルモン受容体陽性乳がん患者さんに対して、高い効果が証明されているアロマターゼ阻害薬です。経口薬のため自宅で服用でき、通常の抗がん剤と比較して副作用が軽いという特徴があります。
主な副作用として関節痛や骨粗しょう症がありますが、適切な対策を行うことで症状を軽減できます。長期間の治療となりますが、医療チームと相談しながら、副作用と上手に付き合い、治療を継続することが大切です。
治療について不安や疑問がある場合は、遠慮なく医師や薬剤師に相談しましょう。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター中央病院 薬剤部「アロマターゼ阻害薬(ホルモン)療法」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」
- 日経メディカル処方薬事典「フェマーラ錠2.5mg」
- がん情報サイト「オンコロ」フェマーラ(レトロゾール)
- がんサポート「フェマーラ(一般名:レトロゾール)閉経後乳がんに効果を発揮する、新しい「アロマターゼ阻害剤」」
- 日医工株式会社「薬剤師のためのBasic Evidence(乳癌編)」
- Wikipedia「レトロゾール」
- Cochrane「早期乳がんにみられるアロマターゼ阻害薬誘発性筋骨格症状の予防と治療のための全身療法」
- Ubie「レトロゾール(フェマーラⓇ)の効果は何ですか?」
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)フェマーラ添付文書