
ドセタキセル(タキソテール)とは
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
ドセタキセルは、商品名「タキソテール」「ワンタキソテール」などとして知られる抗がん剤です。一般名は「ドセタキセル水和物」で、タキサン系に分類される薬剤です。
この薬は、細胞分裂に重要な役割を果たす「微小管」という構造に作用します。微小管は細胞が分裂する際に必要な構造ですが、ドセタキセルはこの微小管の脱重合(分解)を阻害することで、がん細胞の分裂を止め、細胞死へと導きます。
同じタキサン系の薬としてパクリタキセル(タキソール)がありますが、ドセタキセルは溶解性が改善されており、一部の副作用の発現頻度が低いという報告があります。ただし、骨髄抑制については、ドセタキセルのほうが強く現れる傾向があります。
対象となるがん種と保険適用
ドセタキセルは、2026年1月時点で以下のがん種に対して保険適用が認められています。
| がん種 | 主な使用方法 |
|---|---|
| 乳がん | 単剤療法、TC療法(シクロホスファミドとの併用)など |
| 非小細胞肺がん | 単剤療法、シスプラチンとの併用療法など |
| 胃がん | 術後補助化学療法、進行がんの治療 |
| 頭頸部がん | 進行・再発例への化学療法 |
| 卵巣がん | プラチナ製剤との併用療法など |
| 食道がん | 術前・術後の化学療法 |
| 子宮体がん | 進行・再発例への治療(術後補助療法の有効性は未確立) |
| 前立腺がん | 去勢抵抗性前立腺がんへの治療 |
これらのがん種に対して使用される場合、健康保険が適用されます。ただし、使用できる施設は限られており、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識と経験を持つ医師のもとでのみ投与が行われます。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
投与方法とスケジュール
投与方法
ドセタキセルは点滴静注で投与されます。他の薬剤との混注は避け、生理食塩液または5%ブドウ糖液250~500mLに混和して、1時間以上かけて点滴します。
標準的な投与量とスケジュール
| がん種 | 標準投与量 | 投与間隔 |
|---|---|---|
| 乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、頭頸部がん | 60mg/㎡ | 3~4週間ごと |
| 卵巣がん、食道がん、子宮体がん | 70mg/㎡ | 3~4週間ごと |
| 前立腺がん | 75mg/㎡ | 3週間ごと |
ただし、1回最高用量は75mg/㎡までとされており、患者さんの状態により適宜減量されます。
投与延期の基準
ドセタキセルの主な用量規制因子は好中球減少です。投与当日の好中球数が2,000/mm³未満の場合は、投与を延期することが定められています。この基準を守ることで、重篤な感染症のリスクを減らすことができます。
主な副作用とその特徴
重大な副作用
骨髄抑制
ドセタキセルで最も注意が必要な副作用は骨髄抑制です。特に好中球減少の発現率が高く、95.8%の患者さんに認められています。
| 血球の種類 | 発現頻度 | 主な症状・影響 |
|---|---|---|
| 好中球減少 | 95.8% | 感染症リスクの上昇、発熱 |
| 白血球減少 | 97.4% | 免疫力の低下 |
| ヘモグロビン減少(貧血) | 57.3% | 倦怠感、息切れ、動悸 |
| 血小板減少 | 11.8% | 出血しやすさ、あざができやすい |
好発時期は、投与後7~10日目くらいに減少のピークを迎え、14~21日目くらいには回復することが一般的です。この期間は感染予防のため、手洗い・うがいの徹底、人混みを避けるなどの注意が必要です。
過敏症(アナフィラキシー)
ドセタキセルには添加物としてポリソルベート80が含まれており、これが過敏症の誘因の一つと考えられています。過敏症の発現率は0.2%程度ですが、ショック症状に至る可能性があるため、投与初期の観察が重要です。
興味深いことに、ポリソルベート80は多くの薬剤に含まれており、ホルモン薬(リュープリン)、脳下垂体ホルモン薬(プロイメンド)、G-CSF製剤(グラン、ノイアップ)などにも使用されています。
その他の注意が必要な副作用
浮腫
ドセタキセルの累積投与量が300~400mg/㎡に達すると、浮腫の発現頻度が増加します。浮腫は下肢から始まり、3kg以上の体重増加を伴う全身性浮腫になる場合があります。
予防・軽減のためにステロイド薬(デキサメタゾンなど)が併用されることがあります。眼瞼や下肢のむくみを日常的に確認し、異常があれば早めに医療者に伝えることが大切です。
脱毛
ドセタキセルでは完全脱毛も珍しくなく、頭髪だけでなく眉毛やまつ毛なども抜けることが多くあります。治療終了後には再び生えてきますが、治療中はウィッグ(かつら)や帽子などを利用することで、日常生活への影響を軽減できます。
爪の変化
爪の変色や変形、爪が脆くなるなどの症状が出現することがあります。治療開始時から、爪の保清や保湿、保護を心がけることが推奨されます。具体的には、深爪を避ける、マニキュアなどの刺激物を控える、手袋を使用して爪を保護するなどの対策が有効です。
末梢神経障害
手足のしびれ、ピリピリ感などの末梢神経障害が起こることがあります。パクリタキセルに比べると発現頻度は低いとされていますが、治療が長期化する(約5回目以降)と症状が出てくることがあります。
症状が進行すると、「ボタンがかけにくい」「物を落とす」「つまづきやすい」など日常生活に影響が出る場合があります。早期発見が回復につながるため、しびれの強さや範囲、日常生活で困ることを医療者に伝えることが重要です。
消化器症状
下痢、口内炎、悪心・嘔吐などの消化器症状が現れることがあります。
口内炎は、投与後数日~14日目くらいに発症しやすくなります。できやすい場所は下唇の裏側、頬の内側、舌の側面などです。予防として、食後や就寝前の丁寧な歯磨き、低刺激性のマウスウォッシュでのうがいが推奨されます。
下痢については、投与後早期に出現しても長引くことは少ないですが、水分を多めに取って脱水を防ぐことが大切です。頻回の水様便や発熱を伴う場合は、すぐに医療機関に連絡してください。
血管外漏出
ドセタキセルは血管外漏出による皮膚障害のリスクが高い薬剤に分類されています。点滴中に痛み、腫れ、赤みなどを感じた場合は、すぐに医療者に伝えることが重要です。
日常生活での注意点と対策
感染予防
好中球減少により感染症にかかりやすくなるため、以下の対策が重要です。
- 手洗い・うがいの徹底
- 人混みや感染症が流行している場所を避ける
- マスクの着用
- 十分な睡眠と栄養
- 発熱(37.5℃以上)、悪寒、喉の痛みなどがあればすぐに連絡
出血への注意
血小板減少により出血しやすくなるため、以下に注意します。
- 歯磨きは柔らかい歯ブラシを使用
- 鼻を強くかまない
- 転倒や打撲に注意
- 鼻血、歯ぐきからの出血、あざが増えた場合は報告
食事と栄養
- 消化の良いものを中心に、少量ずつ頻回に食べる
- 口内炎がある場合は、刺激物(辛いもの、熱いもの、酸っぱいもの)を避ける
- 十分な水分摂取を心がける
- 食欲がない時は、食べられるものを食べられる時に摂取
その他の生活上の注意
- 過度な運動は避け、無理のない範囲で軽い運動を続ける
- 飲酒は控える(ドセタキセルには溶剤としてエタノールが含まれるため)
- 妊娠の可能性がある方は避妊を徹底する
- 予防接種については医師に相談する
治療費用と高額療養費制度
ドセタキセルの薬価
2026年1月時点での主な薬価は以下の通りです。
| 製品名 | 規格 | 薬価(1瓶あたり) |
|---|---|---|
| タキソテール点滴静注用80mg(先発品) | 80mg2mL | 18,890円 |
| ドセタキセル点滴静注80mg/4mL(後発品) | 80mg4mL | 10,166円 |
| タキソテール点滴静注用20mg(先発品) | 20mg0.5mL | 約5,000円前後 |
| ドセタキセル点滴静注20mg/1mL(後発品) | 20mg1mL | 2,927円 |
例えば、体表面積1.6㎡の患者さんに60mg/㎡を投与する場合、必要量は96mgとなり、80mg製剤と20mg製剤を組み合わせて使用します。後発品を使用した場合、薬剤費だけで約13,000円程度となります。
これに加えて、点滴の手技料、診察料、検査料などが加わるため、1回の治療で保険適用前の医療費は数万円から10万円程度になることがあります。
高額療養費制度の活用
ドセタキセル治療は保険適用となりますが、治療費の自己負担額が高額になる場合があります。そのような場合に利用できるのが高額療養費制度です。
この制度を利用すると、1ヵ月(月初から月末まで)の自己負担額が一定の上限額を超えた場合、超えた分が払い戻されます。上限額は年齢や所得によって異なります。
70歳未満の方の自己負担限度額(月額)
| 所得区分 | 自己負担限度額 | 多数回該当 |
|---|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 年収約770万~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 年収約370万~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
※多数回該当:過去12ヵ月以内に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目から適用される軽減措置
限度額適用認定証の利用
医療費が高額になることが事前にわかっている場合は、「限度額適用認定証」を取得することをお勧めします。
この認定証を医療機関の窓口に提示すると、最初から自己負担限度額までの支払いで済み、後日の払い戻し手続きが不要になります。また、マイナンバーカードを保険証として利用できる医療機関では、認定証がなくても同様の扱いを受けられる場合があります。
認定証の申請は、加入している公的医療保険(健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険など)の窓口で行います。
世帯合算と多数回該当
高額療養費制度には、さらに負担を軽減する仕組みがあります。
- 世帯合算:同じ健康保険に加入している家族の医療費を合算できます(69歳以下の場合、各自の自己負担額が21,000円以上である必要があります)
- 多数回該当:直近12ヵ月間で3回以上高額療養費の支給を受けた場合、4回目からは自己負担限度額がさらに引き下げられます
代表的な治療レジメン
ドセタキセルは単剤で使用されることもありますが、他の抗がん剤と併用されることも多くあります。
| レジメン名 | 対象がん種 | 併用薬 |
|---|---|---|
| TC療法 | 乳がん | シクロホスファミド |
| CDDP+DTX療法 | 非小細胞肺がん | シスプラチン |
| DTX+PSL療法 | 前立腺がん | プレドニゾロン |
投与に際しての禁忌・慎重投与
投与禁忌(投与してはいけない場合)
- 本剤または本剤の成分(ポリソルベート80を含む)に対して過敏症の既往がある方
- 重篤な感染症を合併している方
- 好中球数が2,000/mm³未満の方
慎重投与(注意して投与する必要がある場合)
- 骨髄抑制のある方
- 間質性肺炎または肺線維症のある方
- 肝機能障害のある方
- 腎機能障害のある方
- 浮腫のある方
- アルコールに過敏な方
- 妊娠している可能性のある方
併用に注意が必要な薬剤
ドセタキセルは肝臓で代謝されるため、肝代謝酵素(CYP3A4)に影響を与える薬剤との併用には注意が必要です。
- アゾール系抗真菌薬(ミコナゾールなど)
- エリスロマイシン、クラリスロマイシン
- シクロスポリン
- ミダゾラム
これらの薬剤を服用している場合は、必ず医師に伝えてください。
治療効果の評価
ドセタキセルの効果は、定期的な画像検査(CTやMRIなど)や腫瘍マーカーの測定によって評価されます。また、副作用の程度や患者さんの全身状態も考慮しながら、治療の継続や変更が判断されます。
奏効率(腫瘍が縮小した患者さんの割合)は、がん種や病期、併用薬によって異なりますが、多くの臨床試験で有効性が確認されています。ただし、長期投与に関するベネフィットを示すエビデンスは限られており、本邦では投与サイクル数について特に制限は設けられていません。
まとめ
ドセタキセルは、多くのがん種に対して保険適用が認められており、有効性が確認されている抗がん剤です。主な副作用は骨髄抑制、特に好中球減少であり、感染予防が重要です。その他、浮腫、脱毛、爪の変化、末梢神経障害などにも注意が必要です。
治療費については高額療養費制度を活用することで、自己負担額を軽減できます。限度額適用認定証を事前に取得しておくことで、窓口での支払いを最初から上限額までに抑えることが可能です。
副作用の多くは対策により軽減できるものです。症状が現れた場合は我慢せず、早めに医療者に相談しましょう。
参考文献・出典情報