
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの手術を受けられる患者さんやそのご家族にとって、「リンパ節郭清(かくせい)」という言葉は気になるものです。
この記事では、リンパ節郭清とは何か、なぜ行うのか、どのような後遺症があるのか、そして最近ではリンパ節郭清をしないケースもあるという最新の治療動向について、2026年時点の情報を基に詳しく解説します。
リンパ節郭清とは何か
リンパ節郭清(かくせい)とは、リンパ節が含まれる周囲の脂肪組織ごと一塊に切除する手術のことです。
乳がんの場合、最も乳房に近いのが脇の下(腋窩:えきか)のリンパ節であり、がん細胞が最初にたどり着く場所です。このため、腋窩リンパ節郭清が行われることがあります。
リンパ節郭清には2つの目的があります。1つは取り出した後でリンパ節を検査し、がん細胞の転移がないかを調べることです。もう1つは、転移の経路であるリンパ節そのものをなくして、腋窩での再発を防ぐことです。つまり、診断と治療の両方の目的を含んでいます。
リンパ節郭清の範囲とレベル分類
腋窩リンパ節は、その位置によってレベルⅠ、Ⅱ、Ⅲに分類されます。リンパ節転移は、乳房に近いレベルⅠから順にレベルⅡ、Ⅲへと進んでいくと考えられています。
| レベル | 位置 | 現在の治療方針 |
|---|---|---|
| レベルⅠ | 脇の下の外側部分 | 最も転移しやすい部位。基本的に郭清対象 |
| レベルⅡ | レベルⅠとⅢの中間 | レベルⅠと合わせて郭清されることが多い |
| レベルⅢ | 鎖骨の下の部分 | 明らかな転移がある場合のみ郭清 |
かつては、レベルⅠからⅢまで、さらには胸骨傍リンパ節まで広く郭清することが一般的でした。しかし、広く郭清しても生存率などに変わりはなく、むしろ腕のむくみなどの後遺症が強く出ることが分かってきました。
このため、現在ではレベルⅠからⅡまでにとどめ、レベルⅢに明らかな転移がある場合以外には、レベルⅢの郭清は行っていません。また、大胸筋と小胸筋の間にあるロッターリンパ節についても、触診で硬くなければ郭清は行っていません。
リンパ節郭清で取り出されるリンパ節の個数は、レベルⅠからⅡまで郭清すると通常10数個から20数個になりますが、個数そのものが問題ではありません。重要なのは、どの範囲まできれいに郭清されたかです。患者さんによってリンパ節の個数は違うため、数が多く取れたからよいというわけではありません。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
なぜリンパ節を郭清するのか
リンパ節郭清を行う理由は、主に以下の2つです。
第一に、診断目的です。リンパ節転移の個数や程度を調べることで、再発の危険性を予測し、術後の薬物療法の方針を決める重要な手がかりとなります。リンパ節転移の状況は、病期(ステージ)の決定や予後の予測に役立ちます。
第二に、局所治療の目的です。腋窩リンパ節に転移がある場合、それを取り除くことで腋窩での再発を予防します。ただし、腋窩リンパ節郭清に全身への転移を予防するという効果はないことが、多くの研究で明らかになっています。あくまでも局所治療としての意義であり、薬物療法のような全身治療の意味はありません。
がん細胞が乳管の中にとどまっている非浸潤性乳がんの場合には、理論上リンパ節転移は起こらないため、リンパ節郭清を行う必要はありません。ただし、針生検で非浸潤性乳がんと診断されても、マンモグラフィ上で広い範囲に石灰化像を認める場合や、しこりをつくる場合には、数ミリ程度の小さな浸潤性乳がんが存在することがあります。
センチネルリンパ節生検という選択肢
近年、リンパ節郭清の前に「センチネルリンパ節生検」という検査が広く行われるようになりました。センチネルとは「見張り」という意味で、がん細胞が最初にたどり着くリンパ節のことを指します。
センチネルリンパ節生検は、手術中に特殊な色素や放射性同位元素を使ってこのリンパ節を探し出し、そこに転移があるかどうかを調べる方法です。センチネルリンパ節に転移がなければ、その先のリンパ節にも転移がない可能性が高いため、腋窩リンパ節郭清を省略できます。
この方法により、現在では約70から80パーセントの患者さんが腋窩リンパ節郭清を避けることができるようになっています。これにより、後述するリンパ浮腫などの後遺症を大きく減らすことができました。
センチネルリンパ節生検の方法
センチネルリンパ節を見つける方法には、主に2つの方法があります。
色素法では、腫瘍の周囲に青い色素を注入します。リンパの流れに乗って色素が移動し、青く染まったリンパ節がセンチネルリンパ節です。
放射性同位元素(RI)法では、乳房にごく少量の放射性同位元素を注射し、ガンマプローブという検知器を使って放射線を追跡します。最も信頼性が高いのは、色素法とRI法を併用する方法です。
センチネルリンパ節生検で転移が見つかった場合でも、その転移が微小であった場合や、転移の数が2個以下の場合には、腋窩リンパ節郭清を省略できることが、2011年に報告されたZ-11試験などで明らかになっています。
2025年の新しいガイドライン
2025年4月には、米国臨床腫瘍学会(ASCO)から新しいガイドラインが発表されました。これによると、一部の早期乳がん患者さんにおいては、センチネルリンパ節生検そのものを省略できる可能性があるとされています。
具体的には、以下のような条件を満たす場合、センチネルリンパ節生検を省略しても再発率や生存率に差がないという研究結果(SOUND試験、INSEMA試験)が示されています。
- 乳がんの大きさが2センチメートル以下
- 術前の腋窩超音波検査でリンパ節転移陰性と診断された
- 術後に適切な放射線療法や薬物療法が予定されている
これは、センチネルリンパ節生検が比較的負担の少ない検査とはいえ、リンパ浮腫や腕の痛み、しびれなどの後遺症を伴うことがあるためです。リスクの低い患者さんにとっては、検査をしないという選択肢が身体的負担を軽減することにつながります。
ただし、この新しい方針はアメリカでのガイドラインであり、日本でも数年以内に導入される可能性はありますが、現時点では主治医とよく相談して決める必要があります。
リンパ節郭清に伴う後遺症
腋窩リンパ節郭清の最も大きな問題は、術後の後遺症です。主な後遺症として、以下のようなものがあります。
| 後遺症の種類 | 内容 |
|---|---|
| リンパ浮腫 | 腕や手にリンパ液がたまってむくんだ状態。軽いものも含めると、腋窩リンパ節郭清を受けた患者さんの約20から40パーセントに見られる |
| 知覚異常 | 上腕の内側や肩甲骨のしびれ感。約80パーセントの患者さんに見られるとの報告もある |
| 運動機能障害 | 肩や腕が動かしにくくなる、腕が上がりにくくなる |
| 疼痛 | 耐えがたい痛みが生じることがある(4から6パーセント) |
| リンパ液貯留 | 術後、脇の下にリンパ液が溜まることがある |
これに対して、センチネルリンパ節生検のみを受けた場合、後遺症の頻度は明らかに少なくなります。ただし、センチネルリンパ節生検でも数パーセントの患者さんで軽度の後遺症を認めることがあります。
リンパ浮腫について
リンパ浮腫は、乳がん手術後の後遺症の中で患者さんを最も悩ませるものの1つです。リンパ節郭清によって、腕からのリンパの流れが障害されたことが原因で起こります。
リンパ浮腫の症状には、むくみ、だるさ、痛み、知覚異常、挙上障害などがあります。手術後すぐに起こることもあれば、数ヶ月から2年ほど経ってから起こる場合もあり、中には10年以上経ってから起こる場合もあります。一生を通じて注意する必要があります。
ただし、最近の研究では、腋窩リンパ節郭清を行った側の腕で採血や血圧測定を行ってもリンパ浮腫のリスクにはならないことが分かっています。リンパ浮腫の主なリスク因子は、肥満と上肢の蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの感染です。
リンパ浮腫の予防と対策
リンパ浮腫は一度起こると完治は難しいとされていますが、適切な治療を受けることで症状を軽くしたり、悪化を防いだりすることができます。予防と早期発見が最も重要です。
日常生活での注意点
- 手術した側の腕の皮膚を傷つけない
- スキンケア(清潔と保湿)を心がける
- 重いものを長時間持たない
- 体を締め付ける衣類やアクセサリーは避ける
- ケガや虫刺され、やけどに注意する
- 長時間の入浴やサウナは避ける
- 適度な運動を続ける(過度なトレーニングは避ける)
- 肥満に注意する
最近の研究では、適度な筋力トレーニングがリンパ浮腫の予防につながることが報告されています。手術を受けた腕をまったく使わないのは、かえってよくありません。日常生活の中で、無理のない範囲で適度に腕を使うことが大切です。
リンパ浮腫が起きた場合の治療
リンパ浮腫が起きた場合は、複合的治療が行われます。これは、以下の治療を状態に応じて組み合わせるものです。
- 弾性着衣(弾性スリーブ、弾性グローブ)や弾性包帯による圧迫療法
- 運動療法
- 医療目的のリンパドレナージ(専門的なマッサージ)
- スキンケア
注意が必要なのは、一般のマッサージやエステなどで行われるリンパドレナージは、医療目的のものとは異なり、かえってリンパ浮腫を悪化させる可能性があることです。リンパ浮腫の治療として行われるリンパドレナージは、医師の指示のもと、訓練を受けた看護師や理学療法士、作業療法士などが行う専門的な手技です。
また、弾性着衣についても、リンパ浮腫を発症していない患者さんが予防目的で使用すると、かえって部分的な食い込みが生じて浮腫を発症させたり悪化させる可能性があります。弾性着衣は、リンパ浮腫の進行度に応じて適切なサイズを選ぶ必要があるため、必ずリンパ浮腫に詳しい医療者に相談してください。
術後のリハビリテーション
腋窩リンパ節郭清を行った後は、術後数日してドレーン(リンパ液を体の外に出す管)が抜けた後から、手や腕、肘、肩などを動かすリハビリテーションを開始する必要があります。
これは術後にリンパ液の流れが悪くなり、腕や肩が動かしにくくなったり、腫れ上がったりするのを防ぐためです。このリハビリテーションによって、肩の動きや背部のリンパ管の働きがスムーズになり、リンパ浮腫の予防となるため、手術直後だけではなく、しばらくの間は継続して行うことが大切です。
なお、センチネルリンパ節生検のみを受けた患者さんの場合は、基本的にリハビリテーションの必要は生じません。
具体的なリハビリテーション方法
以下のような運動を毎日続けることが推奨されます。
- 手・指のマッサージ
患側(患部がある側)の手を、手のひらから肩の方へ向けてマッサージします。じゃんけんをしたり、指を1本ずつ数えるように折り曲げる動作も有効です。 - ひじの曲げ伸ばし
ひじの関節だけを曲げたり、伸ばしたりします。 - ゆっくり肩回し
鎖骨を動かすことを意識して大きく肩を回します。速い動きにならないように注意します。 - 肩の開閉
両手を頭の後ろに置き、ゆっくりと両肘をつけるように前に寄せます。 - 手術した腕を上げる運動
前方に向けて、手術した腕を上げてみます。次は側面に向けて。上げにくいときは手術した手首を反対側の手でつかんで引き上げます。 - 体側のマッサージ
体の側面を下から上に向けて、円を描くようにマッサージします。 - 上腕のマッサージ
上腕の内側と外側を円を描くようにマッサージします。 - 手首・手指・前腕のマッサージ
手首、手指や前腕の内側と外側も円を描くようにマッサージします。
これらの運動は、医師や理学療法士の指導のもとで行うことが望ましいです。実施する際は必ず医師に確認しましょう。
リンパ節郭清をしない場合の予後
リンパ節郭清を省略しても予後(治療後の経過)に悪影響がないことは、多くの臨床試験で証明されています。
センチネルリンパ節生検で転移が見つからなかった患者さんにおいて、腋窩リンパ節郭清を省略しても、再発率や生存率に差がないことが確認されています。また、センチネルリンパ節に1から2個の転移があっても、乳房温存手術を行い術後に放射線療法を受ける場合には、腋窩リンパ節郭清を省略しても予後に影響しないことも明らかになっています。
これらの研究結果は、乳がん治療において、がんを治すという治療成績だけでなく、患者さんの治療後の生活の質(QOL)を守ることも重要であることを示しています。不必要な腋窩リンパ節郭清を避けることで、患者さんの身体的・精神的な負担を減らす治療が実現しつつあります。
蜂窩織炎への注意
リンパ浮腫が起きた状態で細菌感染が起きると、蜂窩織炎という炎症が広がることがあります。蜂窩織炎になると、虫刺されのような赤い斑点が出たり、腕全体が赤くなって高熱が出たりします。
蜂窩織炎になってしまったら、赤い部分を冷やして腕を高い位置に維持して安静にし、速やかに受診する必要があります。その際に重要なことは、安静を保つこと、そして医師が完全に治ったと判断するまで、処方された抗生物質をすべて飲み続けることです。
炎症が完全に収まる前に服用を止めてしまうと、腕の中に細菌が残ってしまい、何かのきっかけで蜂窩織炎が再発することがあります。治療中は飲酒も厳禁です。
まとめ
乳がんのリンパ節郭清は、診断と治療の両方の目的を持つ重要な手術です。しかし、医学の進歩により、センチネルリンパ節生検という方法が開発され、多くの患者さんで腋窩リンパ節郭清を省略できるようになりました。
2025年には、一部の早期乳がん患者さんにおいては、センチネルリンパ節生検そのものを省略できる可能性も示されています。これらの変化は、患者さんの身体的負担を軽減し、生活の質を保ちながら適切な治療を行うという方向に向かっています。
リンパ節郭清を行う場合でも、適切なリハビリテーションと日常生活での注意により、後遺症を最小限に抑えることができます。リンパ浮腫の予防には、早期発見と適切なケアが最も重要です。
リンパ節郭清を行うかどうか、どの範囲まで行うかは、患者さんの病状、がんの進行度、術前の検査結果などを総合的に判断して決定されます。担当医とよく相談し、自分に最も適した治療法を選択することが大切です。