
乳がん手術費用の全体像を理解する
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんと診断され、手術を検討される患者さんにとって、治療費の問題は切実です。
治療に専念するためには、実際にどのくらいの費用がかかるのかを把握し、経済的な見通しを立てることが大切になります。
乳がん手術にかかる費用は、手術の種類、入院日数、リンパ節の処理の有無などによって異なります。また、手術前の検査費用や術後の治療費なども発生します。
本記事では、2026年時点での乳がん手術に関する費用について、手術の種類ごとに詳しく解説していきます。保険適用後の自己負担額や、利用できる制度についても説明しますので、治療計画を立てる際の参考にしてください。
乳がん手術の自己負担額の目安
健康保険が適用される乳がん手術では、医療費の3割が自己負担となります。手術費用と入院費用を合わせた自己負担額は、一般的におよそ15万円から40万円程度です。
実際の金額は、手術の種類、入院日数、個室を利用するかどうか、リンパ節郭清の有無などによって変わります。
入院期間は手術の内容によって異なりますが、乳房温存手術の場合は2泊3日から3泊4日程度、乳房全摘手術の場合は3泊4日から5泊6日程度が一般的です。
リンパ節郭清を行った場合は、ドレーン(排液管)を挿入するため、ドレーンが抜けるまで5日から6日程度の入院となることが多くなります。
ただし、リンパ節郭清によるドレーンは皮下に入っているだけなので、医師の判断によってはドレーンを入れたまま退院することも可能です。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
手術の種類別の費用詳細
乳房温存手術(部分切除術)の費用
乳房温存手術は、乳房の一部のみを切除する手術です。腫瘍とその周囲の正常な乳腺組織を切除し、乳房の形をできるだけ残します。
この手術は早期の乳がんで、腫瘍が小さく、乳房の大きさに対して切除範囲が限定的な場合に選択されます。
乳房温存手術の費用は、リンパ節の処理方法によって異なります。
| 手術の内容 | 自己負担額(3割負担の場合) |
|---|---|
| 乳房温存手術(腋窩リンパ節郭清を伴わない場合) | 約8万円~10万円 |
| 乳房温存手術(腋窩リンパ節郭清を伴う場合) | 約12万円~15万円 |
乳房温存手術後は、通常、放射線治療が必要になります。放射線治療の費用は別途かかることを念頭に置いておく必要があります。
乳房全摘手術の費用
乳房全摘手術は、乳房全体を切除する手術です。腫瘍が大きい場合、複数の腫瘍がある場合、乳房温存手術が適さない場合などに選択されます。
乳房全摘手術の費用も、リンパ節の処理によって異なります。
| 手術の内容 | 自己負担額(3割負担の場合) |
|---|---|
| 乳房全摘手術(腋窩リンパ節郭清を伴わない場合) | 約6万円~8万円 |
| 乳房全摘手術(腋窩リンパ節郭清を伴う場合) | 約12万円~15万円 |
乳房全摘手術を受けた患者さんの中には、乳房再建を希望される方もいます。乳房再建については後述します。
センチネルリンパ節生検の費用
センチネルリンパ節生検は、乳がん細胞が最初に到達するリンパ節(センチネルリンパ節)を特定し、そのリンパ節に転移があるかどうかを調べる検査です。
この検査で転移が認められない場合、腋窩リンパ節郭清を省略できるため、患者さんの負担を軽減できます。
| 検査の方法 | 自己負担額(3割負担の場合) |
|---|---|
| 放射線同位元素および色素の併用法 | 約1万5千円 |
| 色素単独法 | 約9千円 |
センチネルリンパ節生検は、多くの場合、乳房の手術と同時に行われます。
乳房再建手術の費用
乳房再建の時期と方法
乳房再建には、乳房切除と同時に行う「一次再建(同時再建)」と、乳房切除後、一定期間を経てから行う「二次再建」があります。
再建方法には、人工乳房(インプラント)を使用する方法と、自分の体の組織(腹部や背中の皮膚・脂肪・筋肉)を使用する方法があります。
2013年以降、人工乳房による乳房再建が保険適用となり、経済的負担が軽減されました。
人工乳房による再建の費用
人工乳房による再建は、通常、2段階で行われます。
まず、乳房切除手術と同時に、ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)を挿入します。これは、皮膚を徐々に伸ばすための医療機器です。
数か月かけて皮膚が十分に伸びたら、ティッシュ・エキスパンダーを人工乳房(シリコンインプラント)に入れ替えます。
人工乳房による再建は保険適用となるため、高額療養費制度を利用できます。
実際の費用例では、1回目の入院(乳がん手術とティッシュ・エキスパンダー挿入)で約9万円、2回目の入院(人工乳房への入れ替え)で約8万円程度の自己負担となるケースが報告されています。
自家組織による再建の費用
自家組織による再建は、患者さん自身の腹部や背中の皮膚、脂肪、筋肉を用いて乳房を再建する方法です。
この方法も保険適用となりますが、手術が複雑で時間がかかるため、費用は人工乳房による再建よりも高くなる傾向があります。
入院期間も長くなることが一般的で、2週間から3週間程度必要になることもあります。
入院に関連する費用
食事代と差額ベッド代
入院中の食事代は、1食あたり約460円から490円程度です(2026年時点)。1日3食で計算すると、1日あたり約1,400円前後になります。
個室を希望する場合は、差額ベッド代(差額室料)が発生します。厚生労働省の調査によると、差額ベッド代の平均は1日あたり約6,600円ですが、施設によって大きく異なります。
個室の種類や設備によっては、1日1万円を超える場合もあります。個室を利用する場合は、事前に料金を確認することが重要です。
なお、差額ベッド代は保険適用外のため、高額療養費制度の対象にはなりません。
その他の費用
手術後に使用する専用の下着(術後用ブラジャー)は、3千円から5千円程度です。
乳房を全摘した場合、補正用のパッドやブラジャーが必要になることもあります。これらの費用は患者さんの状況によって異なります。
手術前の検査費用
乳がんの診断や手術前の検査には、さまざまな費用がかかります。主な検査の自己負担額(3割負担の場合)は以下のとおりです。
| 検査の種類 | 自己負担額(3割負担の場合) |
|---|---|
| マンモグラフィ(乳房X線撮影) | 約1,700円~2,000円 |
| 乳房超音波検査(エコー) | 約1,100円~1,500円 |
| CT検査 | 約4,000円~5,000円 |
| MRI検査 | 約6,000円~10,000円 |
| 針生検(組織診) | 約5,000円~6,000円 |
| 胸部レントゲン検査 | 約700円~1,000円 |
転移が疑われる場合は、より詳しい検査が必要になることがあります。検査の組み合わせや回数によって、トータルの費用は変わります。
初診でマンモグラフィと超音波検査を受けた場合、3割負担で約3,600円程度が一般的です。さらに細胞診や針生検が必要になった場合は、プラス1,000円から4,000円程度が追加されます。
高額療養費制度の活用
高額療養費制度とは
高額療養費制度は、1か月(1日から末日まで)に支払った医療費が一定の上限額を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。
自己負担限度額は、年齢と所得によって異なります。70歳未満の一般的な所得区分(年収約370万円から770万円)の場合、自己負担限度額は月額約8万円から9万円程度です。
この制度を利用することで、実質的な負担額を軽減できます。
限度額適用認定証の利用
医療費が高額になることが事前に分かっている場合は、加入している健康保険から「限度額適用認定証」を取得することをおすすめします。
限度額適用認定証を医療機関の窓口に提示すれば、窓口での支払いが自己負担限度額までで済みます。一度に高額な医療費を支払う必要がなくなり、後日の払い戻し手続きも不要です。
限度額適用認定証は、加入している健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険の窓口に申請して取得します。
世帯合算と多数回該当
高額療養費制度には、負担をさらに軽減する仕組みがあります。
世帯合算は、同じ世帯で同じ医療保険に加入している家族の医療費を合算できる制度です。患者さん一人では自己負担限度額に達しない場合でも、家族の医療費と合算して限度額を超えれば、払い戻しを受けられます。
多数回該当は、過去12か月以内に自己負担限度額に達した月が3回以上ある場合、4回目からは限度額がさらに下がる制度です。70歳未満の一般所得区分の場合、4回目以降の限度額は月額約4万4千円になります。
その他の支援制度
医療費控除
1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費が10万円を超えた場合、確定申告をすることで所得税の一部が還付される医療費控除を受けられます。
医療費控除の対象には、通院のための交通費や、治療に必要な医療用品の購入費なども含まれます。
医療費控除を受けるには、領収書を保管し、確定申告の際に提出する必要があります。
傷病手当金
会社員など勤務先の健康保険に加入している方は、病気で仕事を休んだために給与を受けられなくなった場合、傷病手当金の支給を受けられる可能性があります。
傷病手当金は、休業4日目から最長1年6か月間、給与の約3分の2が支給されます。申請方法や支給条件については、加入している健康保険組合に確認してください。
がん相談支援センターの活用
全国のがん診療連携拠点病院には、がん相談支援センターが設置されています。
がん相談支援センターでは、看護師やソーシャルワーカーが、医療費の負担、利用できる制度、療養生活についてなど、患者さんの治療から生活面にわたる相談に無料で応じています。
がん相談支援センターは、その病院にかかっていない患者さんやご家族も利用できます。経済的な不安や疑問がある場合は、遠慮なく相談してみることをおすすめします。
費用に関する注意点
施設による費用の違い
本記事で紹介した費用は、あくまで目安です。実際の費用は、医療機関によって異なります。
医療機関の規模、地域、設備などによって、手術費用や入院費用に差が生じることがあります。治療を受ける前に、具体的な費用について担当医や医療機関の窓口に確認することが大切です。
保険適用外の費用について
差額ベッド代、先進医療の技術料、一部の検査や治療などは、保険適用外となります。
これらの費用は全額自己負担となり、高額療養費制度の対象にもなりません。事前に保険適用の有無を確認し、費用の見通しを立てることが重要です。
術後の治療費も考慮する
乳がん治療では、手術後に放射線治療や薬物療法(抗がん剤治療、ホルモン療法、分子標的薬治療)が必要になることが多くあります。
これらの治療は数か月から数年にわたって続くことがあり、その費用も考慮に入れる必要があります。
特に分子標的薬や新しい抗がん剤は高額になることがあるため、トータルの治療費について医師や医療ソーシャルワーカーに相談することをおすすめします。
費用計画を立てるために
乳がんの治療には、手術だけでなく、検査、入院、術後の治療など、さまざまな費用がかかります。
治療に専念するためには、経済的な見通しを立て、利用できる制度を活用することが重要です。
まず、担当医から治療方針の説明を受けた際に、おおよその費用について尋ねてみましょう。医療機関の医事課や相談窓口でも、費用に関する説明を受けられます。
次に、加入している健康保険に、利用できる制度や給付金について確認します。限度額適用認定証の申請も、早めに行っておくと安心です。
民間の医療保険に加入している場合は、給付金の対象になるかどうかも確認しましょう。
がん相談支援センターでは、医療費だけでなく、生活費や就労に関する相談もできます。一人で悩まず、専門家のサポートを受けることで、経済的な不安を軽減し、治療に集中できる環境を整えることができます。
乳がんの治療は、医学の進歩により選択肢が広がっています。経済的な負担を理解し、利用できる制度を活用しながら、自分に合った治療を選択していくことが大切です。
参考文献・出典情報
患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 - 日本乳癌学会
知っておきたい医療保険制度 - 乳がんinfoナビ
高額療養費制度について - 乳がん.jp
乳がんの手術費用について - 乳がん.jp
乳がん治療にかかるお金 - おしえて 乳がんのコト(中外製薬)
乳房再建術の費用 - 乳房再建ナビ
部位別がんの治療費:乳がんの治療費 - がん治療費ドットコム
がん相談支援センター - 国立がん研究センター がん情報サービス
高額療養費制度を利用される皆さまへ - 厚生労働省
医療費を支払ったとき(医療費控除) - 国税庁