免疫システムと腸内細菌の深い関係
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
「免疫力を高めれば病気にならない」という情報を耳にすることが増えました。確かに免疫は健康に欠かせませんが、実は免疫力は「高ければよい」というものではありません。
免疫システムが過剰に働くことで、花粉症やアトピー性皮膚炎、関節リウマチなど様々な病気が引き起こされることが分かっています。現在、日本人の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患に悩んでいるとされており、これは免疫の暴走が関係しています。
この記事では、免疫異常がなぜ起きるのか、そしてどうすれば正常な状態に保てるのかについて、最新の研究成果を交えながら解説します。特に注目されているのが、腸内細菌の一種である「クロストリジウム菌」と、免疫を制御する「Tレグ(制御性T細胞)」の関係です。
腸が担う2つの重要な役割
私たちの腸は、主に小腸と大腸から構成されています。腸の神経細胞は約1億個存在し、脳に次いで多いことから「第二の脳」と呼ばれています。

腸の内壁には無数の絨毛と呼ばれる突起があり、この絨毛を通じて栄養が吸収されます。絨毛の内部には血管が網目状に張り巡らされており、ここから栄養が血液に乗って全身へ運ばれていきます。この「栄養の消化吸収」が腸の第一の役割です。

そして第二の役割として注目されているのが、「免疫システムの管理とコントロール」です。
全身に存在する免疫細胞は約2兆個ありますが、その約7割が腸の内部に配置されていることが研究で明らかになっています。腸は外敵の侵入を防ぐ最前線であると同時に、全身の免疫細胞を訓練する場所でもあるのです。
腸内で行われる免疫細胞の訓練
腸の絨毛が存在する表面には、腸内細菌を吸収する特殊な場所があります。この場所の内部には免疫細胞が待機しており、取り込まれた細菌を「有害か有益か」を識別しています。
この場所で学習された情報は、全身に配備される免疫細胞に伝えられます。そのため私たちの体は、全身の至るところで適切に病原菌やウイルスと、そうでない細菌を見極めて対応できるのです。
この免疫の訓練システムが正常に機能していれば問題ありませんが、このバランスが崩れることで様々な問題が生じます。
免疫が暴走するとどうなるか
免疫システムには「攻撃役」と「制御役」の両方が存在します。免疫が弱っている状態は免疫力の低下ですが、逆に免疫が過剰に働いている状態は「免疫の暴走」といえます。
免疫システムが暴走すると、本来攻撃する必要のない物質に対しても過剰に反応し、自分自身の細胞まで攻撃してしまいます。これがアレルギー症状の正体です。
日本で急増するアレルギー疾患
厚生労働省のデータによると、アレルギー疾患の患者数は2005年時点で日本人の約3人に1人でしたが、2011年には約2人に1人と増加しています。

具体的な疾患別でみると、1970年代と比較して以下のような増加が報告されています。
| 疾患名 | 1970年代と比較した増加率 |
|---|---|
| アレルギー性鼻炎 | 約6倍 |
| アトピー性皮膚炎 | 約3倍 |
| 気管支喘息 | 約5倍 |
花粉症は多くの日本人が経験する身近なアレルギー症状です。本来、花粉は病原菌や有害物質ではありません。しかし免疫システムが過剰に反応することで、くしゃみ、鼻水、目のかゆみなどの症状が現れます。
このアレルギー症状が重症化すると、花粉や食物だけでなく、香水、煙、ハウスダスト、洗剤、さらには自分の汗や涙までも異物と認識して攻撃しようとする状態になることがあります。
免疫細胞が暴走する仕組み
顕微鏡で免疫細胞の動きを観察すると、暴走状態にある免疫細胞は激しく動き回りながら、仲間の免疫細胞を興奮させる物質を放出していることが分かります。
この物質を受け取った周囲の免疫細胞も興奮状態になり、連鎖的に活性化していきます。そして増殖した免疫細胞は、人体にとって無害な物質(花粉や特定の食材など)まで攻撃し、様々な症状を引き起こしてしまうのです。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
クロストリジウム菌とTレグの重要な役割
重篤なアレルギー症状を持つ患者さんの便を調べると、クロストリジウム菌の特定の種類、ラクトバチルス菌、バクテロイデス菌などが明らかに少ないことが研究で分かってきました。
腸内には約100兆個、1000種類もの腸内細菌が生息しています。ビフィズス菌やバクテロイデス菌など様々な菌が知られていますが、その中でも免疫の暴走に深く関連しているのが「クロストリジウム菌」です。
Tレグ(制御性T細胞)の発見
大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授は、免疫細胞の中に「異常な免疫細胞を制御するための免疫細胞」が存在することを発見しました。この細胞は「Tレグ(制御性T細胞)」と名付けられ、世界中で注目されています。
Tレグは暴走している免疫細胞を見つけると、興奮を鎮める物質を放出して暴走を抑えようとします。このTレグは腸の中で生み出されることが分かっており、その働きはクロストリジウム菌と密接に関連しています。
クロストリジウム菌がTレグを生み出す仕組み
東京大学大学院医学系研究科の本田賢也教授らの研究により、クロストリジウム属細菌が制御性T細胞の産生を強力に誘導することが明らかになりました。
クロストリジウム菌は約100種類存在するとされており、中には病気の原因になるものもありますが、特定の種類は免疫の制御に重要な役割を果たしています。
研究では、健康な人の糞便から分離された17種類のクロストリジウム属菌が、Tレグ細胞を増やす効果を持つことが同定されています。これらの菌の混合物をマウスに投与すると、大腸のTレグ細胞が増加し、腸炎や下痢が抑制されることが確認されました。
さらに研究が進み、クロストリジウム菌が発生させる「酪酸」という物質により、免疫細胞がTレグに変化することが分かってきました。
腸で生まれたTレグは、血流に乗って全身をめぐり、皮膚や脳など様々な場所で起きている免疫の暴走を鎮静化し、正常な状態に戻していくのです。
Tレグを活用した治療研究
脳の免疫異常によって起きる多発性硬化症などの治療では、Tレグを生み出すためのメッセージ物質を治療薬として用いる臨床試験が行われています。
慶應義塾大学の研究グループは、クロストリジウム・ブチリカムという菌株の細胞壁成分(ペプチドグリカン)が、腸管の樹状細胞を刺激してTGF-β(トランスフォーミング増殖因子-β)という免疫を抑える物質の分泌を促進することを突き止めました。
このTGF-βによってTレグが誘導され、炎症が抑制されるという全体像が明らかになっています。
クロストリジウム菌を増やすための食物繊維
クロストリジウム菌が少ないと、免疫暴走を起こす可能性が高くなります。では、どうすればクロストリジウム菌を正常な状態に保てるのでしょうか。
その鍵を握るのは「食物繊維」です。
食物繊維とTレグの関係
理化学研究所の粘膜システム研究グループの研究により、食物繊維がクロストリジウム菌とTレグの関係において重要な役割を果たすことが明らかになっています。
実験では、クロストリジウム菌を多く保有しているマウスに食物繊維を多く含んだ餌を与えると、Tレグも増加することが分かりました。一方、同じクロストリジウム菌を保有しているマウスでも、食物繊維の少ない餌を与え続けると、Tレグは増えませんでした。
この結果から、クロストリジウム菌は食物繊維を摂ることでTレグを生み出すと考えられています。クロストリジウム菌は食物繊維を餌として「酪酸」を盛んに放出し、この酪酸が腸壁を通って免疫細胞に受け取られることで、Tレグへの変化が促されるのです。
食物繊維の推奨摂取量
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、食物繊維の摂取目標量が以下のように設定されています。
| 年齢・性別 | 1日あたりの目標量 |
|---|---|
| 男性18~29歳 | 20g以上 |
| 男性30~64歳 | 22g以上 |
| 男性65~74歳 | 21g以上 |
| 女性18~74歳 | 18g以上 |
| 男性75歳以上 | 20g以上 |
| 女性75歳以上 | 17g以上 |
しかし実際には、令和4年の国民健康・栄養調査によると、食物繊維の摂取量の平均値は男性が19.1g、女性が17.2gであり、多くの年代で目標に届いていません。
専門家の間では、健康への利益を考えた場合、少なくとも1日あたり25g以上の食物繊維を摂取することが望ましいとされています。
どのような食品から食物繊維を摂るか
食物繊維は主に以下の食品に豊富に含まれています。
・野菜類(ごぼう、にんじん、ブロッコリー、キャベツなど)
・穀類(玄米、大麦、オートミール、全粒粉パンなど)
・豆類(納豆、大豆、小豆など)
・きのこ類(しいたけ、えのき、しめじなど)
・海藻類(わかめ、ひじき、もずくなど)
・いも類(さつまいも、里芋など)
食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があり、両方をバランスよく摂取することが重要です。納豆は水溶性と不溶性の食物繊維がバランスよく含まれている優れた食品です。
野菜は生のままではかさが多く量を摂ることが難しいため、煮たりゆでたりして調理すると効率的に食物繊維を摂取できます。また、精製度の高い白米よりも、玄米や雑穀米を主食にすることで食物繊維の摂取量を増やせます。
日本人の食生活の変化とアレルギーの関係
日本人がアレルギー疾患に悩まされるようになった時期と、食事内容の欧米化(肉食、脂肪食の増加)が進んだ時期は一致しています。
アレルギー症状は1970年頃から増え始めました。約70年前の戦後の日本では、アレルギー疾患はほとんど見られませんでした。
日本人古来の食事と腸内細菌
日本人の伝統的な食事は、木の実、海藻、きのこ、根菜、穀物などが中心で食物繊維が豊富でした。
長い時間をかけて日本人の腸には食物繊維を好む腸内細菌が多く住み着くようになったと考えられています。その結果、免疫力を適切にコントロールする仕組みが備わっていました。
理化学研究所の研究では、日本人は外国人(アメリカ、ロシアなど)に比べても免疫をコントロールする力が高いことが明らかになっています。
食生活の欧米化がもたらした影響
日本人が古来の食生活を続けている限り、免疫異常は起こしにくい体質でした。しかし肉食やファストフードの増加により、食物繊維の摂取量が減少しました。
この栄養バランスの乱れが、免疫システムの異常につながっているのではないかと考えられています。
アレルギーの原因は、花粉やハウスダストなどの物質そのものではなく、人体に備わっている免疫の異常だと考えるほうが論理的です。
かつては「部屋を掃除してハウスダストを避けなさい」「これは食べてはいけません」といった指導が中心でした。しかし現在では、「ハウスダストや特定の食物を過度に気にするのではなく、自分自身の免疫システムを正常に保つことが重要だ」という考え方に変わりつつあります。
免疫バランスを保つための実践的なアプローチ
ここまで見てきたように、免疫システムを正常に保つには腸内細菌が適度なバランスを保ち、必要な菌が必要な数だけ存在することが重要です。
クロストリジウム菌は免疫暴走に歯止めをかけるために重要な存在ですが、少ないことはもちろん、多すぎる状態になることも問題です。
食物繊維摂取の目安
1日の食物繊維摂取量として、まずは20g以上を心がけることが推奨されます。理想的には25g以上が望ましいとされていますが、現実的な目標として20g以上から始めるとよいでしょう。
ただし、摂りすぎにも注意が必要です。通常の食事では過剰摂取の心配はありませんが、サプリメントなどを利用する場合は1日40~50g程度を上限の目安とし、過度な摂取は避けましょう。
バランスの重要性
上記の情報から学べる最も重要なことは、何事も「バランス」が大切だということです。
「これがよい」「あれがよい」という情報は世の中にあふれていますが、バランスを欠く極端な主張には疑問を持つべきです。
糖質を完全に断って肉食や脂肪食に偏る食事法など、がんに関しても様々な食事療法が提唱されていますが、このような極端な方法については慎重に判断する必要があります。
免疫システムは「高ければよい」というものではなく、「バランスのとれた正常な状態」を保つことが重要です。
日常生活で実践できること
以下のような食習慣を意識することで、免疫バランスの維持に役立ちます。
・主食に玄米や雑穀米、大麦を取り入れる
・野菜を毎食2品以上摂取する
・海藻類やきのこ類を日常的に食べる
・納豆などの発酵食品を定期的に摂る
・果物を1日1個は摂取する
・食物繊維が豊富な豆類を活用する
野菜だけで25gの食物繊維を摂ろうとすると、にんじん1本、トマト1個、きゅうり1本、かぼちゃ100g、ごぼう半本、もやし1袋、ピーマン1個、玉ねぎ半個、キャベツ4分の1玉、ほうれん草半袋といった量が必要になります。
このため、野菜だけでなく穀類、豆類、きのこ類、海藻類など多様な食材を組み合わせることが現実的です。
まとめ
免疫システムの異常によって起きるアレルギー疾患は、日本人の約2人に1人が悩む現代の健康課題です。
その解決の鍵となるのが、腸内細菌のクロストリジウム菌とTレグ(制御性T細胞)の関係です。クロストリジウム菌は食物繊維を餌として酪酸を産生し、これがTレグの誘導につながります。Tレグは暴走した免疫細胞を鎮静化し、免疫バランスを正常に保つ働きをします。
日本人の伝統的な食事は食物繊維が豊富で、長い歴史の中で日本人の腸内環境に適した細菌叢を育んできました。しかし食生活の欧米化により食物繊維の摂取量が減少し、それがアレルギー疾患の増加と関連していると考えられています。
免疫力は「高ければよい」のではなく、「バランスのとれた正常な状態」を保つことが重要です。そのためには、1日20~25g以上の食物繊維を多様な食材から摂取し、腸内細菌のバランスを整えることが推奨されます。
極端な食事制限や偏った栄養摂取ではなく、伝統的な日本食の知恵を活かしたバランスの良い食生活が、免疫システムを正常に保つ基本となります。
参考文献・出典情報
- JST「免疫を抑制する細胞を増やす腸内細菌を発見」
- 東京大学「制御性T細胞を誘導するヒトの腸内細菌の同定と培養に成功」
- JST・慶應義塾大学「腸内細菌が免疫調節たんぱく質と免疫制御細胞を誘導し腸管免疫の恒常性を保つしくみを解明」
- 慶應義塾大学病院「腸管免疫の恒常性における腸内細菌の役割」
- 健康長寿ネット「食物繊維の働きと1日の摂取量」
- 日本スポーツ栄養協会「厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2025年版)』報告書を公表」
- 厚生労働省「アレルギー疾患の現状等」
- 厚生労働省広報誌「子どものアレルギー疾患お悩み相談室」
- 環境再生保全機構「近年のアレルギー疾患の動向」
- アクティブシニア「食と栄養」研究会「日本人の食事摂取基準(2025年版)の特長と主な改定ポイント」