「がん治療中、口内炎が痛いけど何を食べたらいい?」「口がパサパサして食事がつらい」。
そんな疑問や心配は、決してあなた一人だけのものではありません。
この記事では、がん治療中に口内炎や口の渇きが起こる理由から、それらを乗り切るための「食べやすい食事のヒント」や「具体的なケア方法」について詳しくご紹介します。口の不快感に悩むあなたや、大切な方の食事が少しでも楽になるよう、ぜひ参考にしてください。
なぜ口内炎や口の渇きが起こるの?その原因と食事への影響
口内炎や口の渇きは、がん治療の様々な段階で起こり得ます。その主な原因を知ることで、症状への理解を深め、適切な対処ができるようになります。
主な原因
- 抗がん剤の影響: 特定の抗がん剤は、細胞の増殖を抑える作用があるため、口の中の粘膜のように新陳代謝が活発な部分にダメージを与えやすいです。これにより、口内炎や粘膜の炎症が起こりやすくなります。
- 放射線治療の影響: 頭頸部(口、喉、鼻など)への放射線治療は、唾液腺に深刻なダメージを与え、唾液の分泌が極端に減少します。これが口の渇き(ドライマウス)の主な原因となります。また、放射線によって口内炎もできやすくなります。
- 薬剤の影響: がん治療で使われる薬だけでなく、抗ヒスタミン剤や一部の鎮痛剤など、がん治療以外で使われる薬の中にも唾液の分泌を抑制し、口の渇きを引き起こす副作用を持つものがあります。
- 免疫力の低下: 治療によって免疫力が低下すると、口の中の常在菌のバランスが崩れ、感染症が起こりやすくなります。これが口内炎や炎症を悪化させる原因になることがあります。
- 栄養状態の変化: ビタミンB群や亜鉛などの栄養素が不足すると、口内炎ができやすくなったり、治りにくくなったりすることがあります。
- 口腔ケア不足: 口の中が清潔に保たれていないと、細菌が繁殖しやすくなり、口内炎や感染症のリスクが高まります。
- 精神的な要因: 治療へのストレスや不安も、唾液の分泌を抑制し、口の渇きを感じやすくすることがあります。
口内炎があると痛みで食事を摂ることが苦痛になり、口の渇きがあると食べ物がパサついて飲み込みにくくなったり、味が感じにくくなったりします。
これらの症状によって、食欲が低下し、栄養状態が悪化する悪循環に陥ることがあります。
口内炎・口の渇きでも食べやすい食事の「基本の考え方」
口内炎や口の渇きがある時に食事をするのは大変ですが、いくつかのポイントを押さえることで、不快感を最小限に抑え、無理なく栄養を摂ることができます。
1. 口に刺激を与えない工夫
痛みを悪化させないことが最優先です。
- 温度に注意: 熱すぎるものや冷たすぎるものは避け、人肌程度の温かさか、常温のものがおすすめです。冷たすぎると痛みを感じやすい口内炎には注意が必要です。
- 味付けは控えめに: 香辛料(唐辛子、ワサビなど)、酸味の強いもの(酢、レモン汁など)、塩辛いもの、甘すぎるものは、口内炎を刺激することがあります。だしを効かせた薄味や、素材の味を活かしたシンプルな味付けにしましょう。
- 固いもの、刺激の強いものは避ける: せんべい、ナッツ類、パンの耳、揚げ物など、口の中を傷つけやすい固い食べ物や、柑橘系の果物、トマトなど酸味の強い生野菜は避けましょう。
2. 口当たりと消化のしやすさ
スムーズに食べられ、胃腸に負担をかけないことが大切です。
- やわらかく、なめらかなもの: プリン、ゼリー、スープ、お粥、豆腐、茶碗蒸しなどがおすすめです。ミキサーにかけてペースト状にするのも良いでしょう。
- とろみをつける: 片栗粉やコーンスターチなどでとろみをつけると、食べ物がまとまりやすくなり、飲み込みやすくなります。あんかけ料理や、とろみをつけたスープなどが良いでしょう。
- 水分が多いもの: 水分を多く含む食品は、口の中を潤しながら食べられるため、口の渇きがある時に特に有効です。果物(スイカ、メロンなど)、ゼリー、プリン、スープ、煮物などが挙げられます。
- 消化しやすいもの: 食物繊維が多いものや、消化に時間のかかる肉類、脂質の多いものは控えめにし、白身魚、柔らかく煮込んだ野菜などを選びましょう。
3. 食事の量とタイミング
無理なく食べ続けるための重要なポイントです。
- 少量頻回食: 一度にたくさん食べようとせず、少量ずつ、回数を増やして食べましょう。2~3時間おきに軽食を摂るなど、食べられる時に少しずつ口にするのが効果的です。
- 無理に食べない: 食欲がない時は、無理に食べる必要はありません。無理強いは、かえって食事への嫌悪感を増してしまいます。食べられる時に、食べられる量を口にする、という柔軟な気持ちでいましょう。
- 食前・食後すぐの行動に注意: 食事の直前や直後は、体を激しく動かしたり、横になったりしない方が胃への負担が少なく、不快感を軽減できます。
口内炎・口の渇きを乗り切る!食事の「実践的な工夫」
ここからは、口内炎や口の渇きがある時に役立つ、具体的な食事のアイデアと工夫をさらに詳しくご紹介します。
1. 口内炎がある時の食事アイデア
- 主食の工夫:
- お粥、軟飯: 柔らかく、水分が多いので口内炎に優しいです。
- パン: 耳を切り落とし、スープに浸して柔らかくすると食べやすくなります。
- うどん、そうめん: 柔らかく茹でて、だしを効かせた薄味のつゆで食べましょう。
- おかずの工夫:
- 豆腐料理: 冷奴、湯豆腐、あんかけ豆腐など、柔らかく調理できる豆腐はおすすめです。
- 卵料理: 茶碗蒸し、スクランブルエッグ、卵とじなど、口当たりの良いものが良いでしょう。
- 白身魚: 煮魚や蒸し魚など、柔らかく調理し、骨を取り除いて食べやすくしましょう。
- 鶏ひき肉: 鶏ひき肉を柔らかく煮込んだり、あんかけにしたりすると食べやすくなります。
- 野菜: 柔らかく煮込んだり、ミキサーでポタージュ状にしたりして摂りましょう。大根、カブ、ナス、カボチャなどがおすすめです。
- デザート・間食:
- プリン、ゼリー、アイスクリーム: 冷たくてなめらかなので、口内炎への刺激が少ないです。
- バナナ、りんごのすりおろし: 柔らかく、自然な甘みがあるので食べやすいです。
2. 口の渇き(ドライマウス)がある時の食事アイデア
口の渇きは、食べ物がパサついて飲み込みにくくなる原因になります。水分やとろみを加えることが重要です。
- 汁物・とろみのあるもの:
- スープ、味噌汁、ポタージュ: 汁気があり、口の中を潤しながら食べられます。
- あんかけ料理: 片栗粉などでとろみをつけたあんかけは、食べ物をまとまりやすくし、飲み込みやすくします。
- カレーやシチュー: ルーにとろみがあるので、比較的食べやすいことがあります。
- 水分が多い食品:
- 果物: スイカ、メロン、ぶどう、みかんなど、水分を多く含む果物は口の中を潤してくれます。
- ゼリー、寒天: 水分と栄養を同時に摂れるため、口の渇きがある時に最適です。
- 口の中で溶けやすいもの:
- アイスクリーム、シャーベット: 冷たくて口の中で溶けるので、爽快感があり、食べやすいです。
- 飲み物の工夫:
- こまめな水分補給: 水、麦茶、ほうじ茶など、刺激の少ない飲み物を常に手元に置き、こまめに摂りましょう。
- 氷をなめる: 氷をゆっくりなめると、口の中が潤い、不快感が和らぎます。
- 市販の口腔保湿剤: 唾液の代わりとなるスプレーやジェルも有効です。
食事以外の「口腔ケア」と「過ごし方」のヒント
口内炎や口の渇きの症状を和らげ、食事を快適にするためには、日々の口腔ケアと過ごし方も非常に重要です。
1. 丁寧な口腔ケアの徹底
- やさしい歯磨き: 柔らかい歯ブラシを選び、強く磨きすぎないように注意しましょう。口内炎の部分は避けるか、綿棒などでそっと清潔にする程度に留めます。
- マウスウォッシュの活用: アルコールを含まない、低刺激性のマウスウォッシュを使用し、口の中を清潔に保ちましょう。うがいは、口内炎や粘膜の炎症を落ち着かせる効果も期待できます。
- 食後のうがい・歯磨き: 食事の後は、すぐに口の中をきれいにしましょう。食べかすが残っていると、細菌が繁殖し、口内炎を悪化させる原因になります。
2. 口の乾燥対策(ドライマウスケア)
- こまめな水分摂取: 水、お茶などを少しずつ頻繁に摂りましょう。枕元に飲み物を置いておくのも良いでしょう。
- 加湿器の利用: 部屋の空気が乾燥していると、口の渇きが悪化します。加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりして、湿度を保ちましょう。
- 保湿剤の活用: 市販の口腔保湿スプレーやジェル、洗口液などを利用することで、口の中の乾燥を和らげることができます。夜間の乾燥対策にも有効です。
- 唾液腺マッサージ: 唾液腺(耳の下、顎の下、舌の下など)を優しくマッサージすることで、唾液の分泌を促すことができます。
3. 日常生活での過ごし方
- 喫煙・飲酒を控える: 喫煙や飲酒は、口の中の粘膜を刺激し、口内炎や口の渇きを悪化させる可能性があります。
- 刺激物を避ける: 辛いもの、熱すぎるもの、冷たすぎるもの、酸味が強いものなど、口に刺激を与えるものはできるだけ避けましょう。
- 十分な休息: 体の疲労やストレスは、口内炎の悪化や口の渇きにつながることがあります。十分な休息を取り、心身のバランスを保つことが大切です。
4. 医療者への相談の重要性
口内炎や口の渇きが続く場合は、我慢せずに必ず主治医や看護師、歯科医、管理栄養士に相談してください。
- 薬の処方: 痛みが強い口内炎には、痛みを和らげる塗り薬やうがい薬が処方されることがあります。
- 口腔ケアの指導: 歯科医や歯科衛生士から、個別の口腔ケア方法について指導を受けることができます。
- 栄養指導: 管理栄養士は、口内炎や口の渇きがある時の具体的な食事プランや、栄養補助食品の活用についてアドバイスしてくれます。
まとめ:諦めずに「食べられる工夫」と「ケア」で乗り切ろう!
がん治療中の口内炎や口の渇きは、食事の楽しみを奪い、心身に大きな負担を与えるつらい副作用です。しかし、全く食べられないわけではありません。
口に優しい食事を選んだり、食べ方を工夫したり、そして何よりも日々の口腔ケアを丁寧に行うことで、症状を和らげ、無理なく栄養を摂る道は必ず見つかります。
「完璧に食べなくても大丈夫」という気持ちで、ご紹介した食事のヒントやケア方法を参考に、今のあなたに合った無理のない方法を探してみましょう。
一人で抱え込まず、医療者や周囲のサポートを積極的に利用しながら、口の不快感を乗り切り、「食べる」喜びを取り戻していきましょう。