アテゾリズマブ併用療法とは
小細胞肺がんは肺がんの中でも進行が速く、診断時にすでに広範囲に転移している「進展型」と診断されることが多い病型です。
この進展型小細胞肺がんに対して、近年、免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)と、従来から用いられてきた抗がん剤であるカルボプラチンとエトポシドを組み合わせた治療法が標準治療として確立されています。
この併用療法は、従来の化学療法単独と比較して生存期間の延長が確認されており、2019年に日本でも承認されました。免疫療法と化学療法を組み合わせることで、がん細胞への攻撃を多角的に行うことができます。
治療の適応対象となる患者さん
この治療法は「進展型小細胞肺がん」と診断された患者さんが対象となります。進展型とは、がんが片側の肺とその周囲のリンパ節を超えて広がっている状態を指します。
具体的には、反対側の肺への転移、胸水や心嚢液中へのがん細胞の存在、遠隔臓器への転移がある場合などが該当します。
治療開始前には、患者さんの全身状態、臓器機能、特に腎機能と肝機能の評価が重要です。これらの機能が低下している場合には、薬剤の投与量を調整する必要があるためです。
治療スケジュールと投与方法
この治療は3つの薬剤を組み合わせて点滴で投与します。各薬剤の標準的な投与方法は以下のとおりです。
各薬剤の投与量と投与時間
| 薬剤名 | 投与量 | 投与時間 |
|---|---|---|
| アテゾリズマブ | 1,200mg | 初回60分、2回目以降は30分に短縮可能 |
| カルボプラチン | AUC5(体表面積と腎機能から計算) | 30分以上 |
| エトポシド | 100mg/㎡ | 30~60分以上 |
治療は通常21日を1サイクルとして繰り返されます。最初の4サイクルは3剤すべてを投与し、その後はアテゾリズマブ単独での維持療法を継続します。
吐き気予防のための対策
化学療法では吐き気が生じやすいため、あらかじめ制吐剤を使用します。この治療では以下の薬剤が標準的に用いられます。
| 制吐剤の種類 | 投与量と投与日 |
|---|---|
| 5-HT3受容体拮抗薬 | 治療開始日(Day1) |
| アプレピタント | 125mg(Day1)、80mg(Day2~3) |
| デキサメタゾン | 4.95mg点滴(Day1)、4mg内服(Day2~3) |
治療効果と生存期間のデータ
この併用療法の臨床試験では、以下のような治療効果が報告されています。
主要な治療成績
| 評価項目 | 結果(中央値) |
|---|---|
| 奏効率(腫瘍が縮小した割合) | 60.2% |
| 無増悪生存期間 | 5.2カ月 |
| 全生存期間 | 12.3カ月 |
奏効率が60.2%ということは、約6割の患者さんでがんが縮小する効果が得られたことを意味します。無増悪生存期間は、治療を開始してからがんが進行するまでの期間、全生存期間は治療開始から生存している期間の中央値です。
従来のカルボプラチン+エトポシド療法単独と比較すると、全生存期間が約2カ月延長することが確認されており、この延長効果は統計学的にも意義があるとされています。
起こりうる副作用とその頻度
この治療で起こりうる副作用には、化学療法によるものと免疫療法によるものがあります。それぞれの発現頻度を理解しておくことが大切です。
血液に関する副作用
| 副作用 | 全Grade発現率 | Grade3以上発現率 |
|---|---|---|
| 好中球減少 | 36.3% | 23.2% |
| 貧血 | 38.9% | 14.1% |
| 血小板減少 | 16.2% | 10.1% |
| 発熱性好中球減少症 | 3.0% | 3.0% |
好中球減少は感染症のリスクを高めます。発熱や悪寒などの感染症状が現れた場合には、速やかに医療機関に連絡する必要があります。
消化器系の副作用
| 副作用 | 全Grade発現率 | Grade3以上発現率 |
|---|---|---|
| 悪心 | 31.8% | 0.5% |
| 食欲減退 | 20.7% | 1.0% |
| 下痢 | 9.6% | 2.0% |
悪心や食欲減退は比較的多くの患者さんに見られますが、重症化することは少ないです。ただし、食事がとれない状態が続く場合には、脱水や栄養状態の悪化を防ぐために医師に相談することが重要です。
その他の副作用
| 副作用 | 全Grade発現率 | Grade3以上発現率 |
|---|---|---|
| 疲労 | 21.2% | 1.5% |
| 脱毛 | 34.8% | 0% |
| 皮疹 | 18.7% | 2.0% |
| 注入に伴う反応 | 5.1% | 2.0% |
脱毛は多くの患者さんに生じますが、治療終了後には回復します。注入に伴う反応は、点滴中または点滴直後に発熱、悪寒、発疹などが現れるもので、症状に応じて投与速度を調整します。
免疫関連有害事象について
アテゾリズマブは免疫チェックポイント阻害薬であり、特有の副作用として免疫関連有害事象(irAE)が知られています。これは免疫系が活性化されることで、正常な臓器にも影響が及ぶことがある反応です。
主な免疫関連有害事象の発現頻度
| 免疫関連有害事象 | 全Grade発現率 | Grade3以上発現率 |
|---|---|---|
| 甲状腺機能亢進症 | 5.6% | 0% |
| 甲状腺機能低下症 | 12.6% | 0% |
| 肝炎(検査値異常) | 7.1% | 1.5% |
| 間質性肺疾患 | 2.0% | 0.5% |
| 大腸炎 | 1.5% | 1.0% |
| 糖尿病 | 0.5% | 0% |
免疫関連有害事象は治療中だけでなく、治療終了後にも発現することがあります。そのため、治療終了後も定期的な経過観察が必要です。
腎機能・肝機能による投与量調整
エトポシドは腎機能と肝機能の影響を受けやすい薬剤であり、これらの機能が低下している場合には投与量を調整する必要があります。
腎機能低下時の調整基準
| 腎機能の指標 | 投与量調整 |
|---|---|
| 血清クレアチニン1.4mg/dL超 | 30%減量 |
| クレアチニンクリアランス15~50mL/分 | 25%減量 |
| クレアチニンクリアランス15mL/分未満 | さらなる減量調整が必要 |
肝機能低下時の調整基準
| 肝機能の指標 | 投与量調整 |
|---|---|
| 総ビリルビン1.5~3.0mg/dLまたはAST正常上限の3倍超 | 50%減量 |
| 総ビリルビン3.0mg/dL超 | 投与中止 |
カルボプラチンの投与量は、Calvert式という計算式を用いて、患者さんの腎機能と体表面積から個別に算出されます。
特に注意が必要な副作用とその対策
間質性肺疾患への対応
間質性肺疾患は重篤な副作用の一つです。息切れ、呼吸困難、空咳、発熱などの症状が現れた場合には、速やかに医療機関を受診する必要があります。
診断された場合の治療中止基準は以下のとおりです。Grade2(中等度)の場合、症状が軽快するまでアテゾリズマブを休薬します。12週間を超えても回復しない場合や、Grade3以上(重度)の場合、または再発した場合には、アテゾリズマブの投与を中止します。
治療としては、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン換算で1~2mg/kg)の投与が検討されます。重症例でステロイド治療に反応しない場合には、免疫抑制薬の使用が考慮されることもあります。
甲状腺機能障害への対応
甲状腺機能障害は比較的頻度の高い免疫関連有害事象です。甲状腺機能亢進症では動悸、発汗、暑がり、体重減少、不眠、手の震えなどが、甲状腺機能低下症では疲れやすさ、脱力感、寒がり、便秘、体重増加、むくみなどが現れます。
興味深いことに、破壊性甲状腺炎により一時的に甲状腺機能亢進症を経て、その後甲状腺機能低下症に移行する症例も報告されています。無症状で進行することもあるため、定期的に甲状腺刺激ホルモン(TSH)、遊離T3、遊離T4を測定することが推奨されます。
治療としては、甲状腺機能低下症の場合は甲状腺ホルモン補充療法、甲状腺機能亢進症の場合は対症療法が行われます。重要な点として、副腎機能障害を併発している場合には、甲状腺ホルモン補充よりも先にヒドロコルチゾン投与を行う必要があります。
副腎皮質機能低下症への対応
副腎皮質機能低下症では、コルチゾール欠乏により疲れやすさ、食欲不振、吐き気などが、アルドステロン欠乏により低ナトリウム血症、高カリウム血症、低血圧などが生じます。
疑われる場合には、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とコルチゾールを測定し、内分泌専門医と連携しながら、ヒドロコルチゾン10~20mg/日から開始します。
ヒドロコルチゾン補充療法を開始した患者さんは、自己判断で服薬を中断すると副腎クリーゼという生命に関わる状態を引き起こす可能性があるため、継続的な服用が必要です。また、発熱や感染症など身体的ストレスがかかる状況では、通常の1.5~3倍量に増量する必要があり、事前に対応方法を確認しておくことが重要です。
大腸炎と重度の下痢への対応
免疫関連有害事象として大腸炎が生じることがあります。下痢が続く場合には、脱水を防ぐために十分な水分摂取が必要です。症状が急激に悪化した場合や長引く場合には、速やかに医療機関を受診してください。
止瀉薬(ロペラミドなど)は免疫関連有害事象による下痢の症状を覆い隠してしまう可能性があるため、使用には注意が必要です。Grade3以上の重症例や、Grade2でも症状が続く場合には、ステロイドやインフリキシマブの投与が検討されます。ただし、腸穿孔や敗血症を合併している場合には、インフリキシマブの使用は推奨されません。
1型糖尿病への対応
まれではありますが、劇症1型糖尿病が報告されています。口の渇き、多飲、多尿などの高血糖症状や、激しい倦怠感、吐き気、嘔吐などの糖尿病性ケトアシドーシス症状が現れた場合には、緊急の対応が必要です。
1型糖尿病が疑われる場合には、内分泌専門医と連携し、アテゾリズマブの投与を中止したうえで、補液、電解質補充、インスリン投与を開始します。この場合、ステロイドの使用は効果が証明されておらず推奨されていません。
投与中の注意点と相互作用
カルボプラチンは腎毒性と聴器毒性を有する薬剤です。アミノグリコシド系抗菌薬など、同様に腎臓や聴覚器官に影響を与える薬剤と併用すると、腎障害や聴覚障害のリスクが高まる可能性があります。他の薬剤を使用している場合や、新たに薬剤が処方される場合には、必ず医師や薬剤師に伝えることが大切です。
また、アテゾリズマブの点滴中には注入に伴う反応が起こることがあります。Grade1(軽度)の場合は投与速度を50%に減速し、軽快後30分間経過観察して問題なければ元の速度に戻すことができます。Grade2(中等度)の場合は一旦投与を中断し、軽快後に50%の速度で再開します。Grade3以上(重度)の場合は直ちに投与を中止します。
治療を受ける患者さんへの情報
この治療を受けるにあたって、患者さん自身が体調の変化に注意を払い、異常を感じた場合には速やかに医療スタッフに相談することが重要です。特に免疫関連有害事象は、さまざまな臓器に現れる可能性があり、症状も多岐にわたります。
定期的な検査では、通常の血液検査に加えて、心電図、胸部X線検査、血糖値、甲状腺機能検査、副腎皮質機能検査などが行われることがあります。これらは副作用の早期発見のために重要な検査です。
また、免疫関連有害事象は治療終了後にも発現することがあるため、治療が終了した後も一定期間は経過観察が必要です。治療期間中だけでなく、治療終了後も定期的な受診を継続することが大切です。
治療効果と副作用のバランスを見ながら、患者さん一人ひとりの状態に応じた治療が行われます。不安なことや疑問に思うことがあれば、遠慮せずに担当医や看護師、薬剤師に相談してください。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「小細胞肺がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung_sclc/index.html - 日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン2024年版
https://www.haigan.gr.jp/guideline/ - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) テセントリク点滴静注添付文書
https://www.pmda.go.jp/ - 日本臨床腫瘍学会 がん免疫療法ガイドライン
https://www.jsmo.or.jp/guide/ - 国立がん研究センター中央病院 薬剤部「免疫チェックポイント阻害薬の副作用マネジメント」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/pharmacy/ - 日本癌治療学会 がん診療ガイドライン
https://www.jsco-cpg.jp/ - 日本肺癌学会「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン」
https://www.haigan.gr.jp/ - 日本内分泌学会「内分泌代謝科専門医に期待される免疫関連有害事象(irAE)の診療」
https://www.j-endo.jp/ - がん情報サービス「免疫療法」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/ - 日本癌学会 Cancer Science誌
https://onlinelibrary.wiley.com/journal/13497006

