こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
小細胞肺がんの治療で再発した場合、アムルビシン(商品名:カルセド)という薬を提案されることがあります。この薬はどのような特徴があり、どの程度の効果が期待でき、どのような副作用に注意すべきなのでしょうか。
この記事では、小細胞肺がん治療におけるアムルビシンについて、その特徴、対象となる患者さん、効果、副作用、投与方法、費用まで、治療を考えるうえで知っておきたい情報を整理してお伝えします。
アムルビシンとはどんな薬か
アムルビシンは、日本で開発されたアントラサイクリン系の抗がん剤です。世界で初めて完全に合成された抗がん剤として、従来のアントラサイクリン系薬剤と比べて心臓への負担が少ないという特徴があります。
この薬は、がん細胞のDNAに働きかけて、その増殖を止める仕組みです。DNAの間に入り込んでその合成を阻害するとともに、トポイソメラーゼⅡという酵素の働きを妨げることで、がん細胞の分裂を防ぎます。
商品名は「カルセド」で、住友ファーマから販売されています。2002年に保険収載され、現在まで小細胞肺がんの治療において重要な役割を果たしてきました。
対象となるがんと患者さん
主な適応
アムルビシンが保険適用となっているのは、小細胞肺がんと非小細胞肺がんです。特に小細胞肺がんの再発症例に対して高い効果を示すことが確認されています。
日本肺癌学会の肺癌診療ガイドライン2024年版および2025年版では、再発小細胞肺がんに対する標準治療の一つとして推奨されています。
再発のタイプによる使い分け
小細胞肺がんの再発は、初回治療後どのくらいの期間で再発したかによって2つのタイプに分けられます。
| 再発のタイプ | 定義 | アムルビシンの位置づけ |
|---|---|---|
| Sensitive relapse(感受性再発) | 初回治療終了後60〜90日以降の再発 | 推奨される治療選択肢の一つ |
| Refractory relapse(難治性再発) | 初回治療終了後60〜90日以内の再発 | 第一選択として推奨 |
特に難治性再発(Refractory relapse)の場合、アムルビシン単独療法が標準治療として強く推奨されています。
期待できる効果と奏効率
臨床試験で示された効果
アムルビシンの効果については、複数の臨床試験で検証されてきました。
国立がん研究センター中央病院の情報によると、初発の小細胞肺がんに対して抗がん剤治療を行った後に再発した患者さんに対する効果として、がん病巣が治療前と比較して明らかに小さくなる割合は約50%(10人中5人)とされています。
日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインに記載されている第Ⅲ相試験のサブグループ解析では、以下のような結果が報告されています。
| 再発のタイプ | 奏効率 | 生存期間中央値 | 1年生存率 |
|---|---|---|---|
| Sensitive relapse | 約52% | 4.2カ月 | 約46% |
| Refractory relapse | 約50% | 2.6カ月〜6.2カ月 | 約40% |
日本人のRefractory relapse症例に対するアムルビシンの効果を検証した複数の試験をまとめた解析では、奏効率38%、1年生存率34%という結果が示されています。
効果に影響する要因
初回治療終了後から再発までの期間が3カ月以内の場合、効果が多少劣ることが知られています。また、患者さんの全身状態(パフォーマンスステータス)も治療効果に影響します。
投与方法と治療スケジュール
標準的な投与方法
アムルビシンは点滴による静脈内投与で行われます。標準的な投与方法は以下の通りです。
投与量: 45mg/m²(体表面積あたり)
投与期間: 1日1回、3日間連続で投与
休薬期間: 3〜4週間
投与時間: 約5分間(生理食塩液または5%ブドウ糖注射液に溶解して投与)
この3日間の投与と休薬期間を合わせて「1クール」とし、効果が確認され、副作用が許容範囲内である限り、このサイクルを繰り返します。
投与前の確認事項
投与を開始する前には、血液検査で骨髄機能を確認することが必須です。
初回投与時の基準:
- 白血球数: 4,000〜12,000/mm³
- 血小板数: 100,000/mm³以上
- ヘモグロビン値: 10g/dL以上
次コース以降の投与時の基準:
- 白血球数: 3,000/mm³以上
- 血小板数: 100,000/mm³以上
減量規定
投与後に以下のような状況が発生した場合、次クールの投与量を減量します。
- 白血球数1,000/mm³未満が4日以上持続
- 血小板数の最低値が50,000/mm³未満
この場合、前クースよりも5mg/m²減量して投与します。
制吐対策
アムルビシンは中等度の吐き気を引き起こす可能性があるため、以下の制吐薬が併用されます。
- 5-HT3受容体拮抗薬(投与1日目)
- デキサメタゾン9.9mg静脈内投与(1日目)、8mg経口投与(2〜3日目)
主な副作用とその対策
骨髄抑制(血液への影響)
アムルビシンで最も頻度が高く、注意が必要な副作用は骨髄抑制です。
| 副作用 | 発現頻度 | 最低値到達時期 |
|---|---|---|
| 白血球減少 | 90%以上 | 投与後約8〜14日 |
| 好中球減少 | 95%以上 | 投与後約8〜14日 |
| ヘモグロビン減少(貧血) | 約80% | 投与後約10〜17日 |
| 血小板減少 | 約50% | 投与後約10〜17日 |
骨髄抑制により白血球や好中球が減少すると、感染症にかかりやすくなります。重篤な感染症(敗血症、肺炎など)による死亡例も報告されているため、投与中は感染徴候に十分注意する必要があります。
対策として重要なのは、以下の点です。
- 手洗いとうがいの徹底
- 人混みを避ける
- 生ものを避け、食品の十分な加熱
- 発熱(37.5度以上)があればすぐに医療機関に連絡
- マスクの着用
消化器症状
| 副作用 | 発現頻度 |
|---|---|
| 食欲不振 | 約66% |
| 悪心・嘔吐 | 約59% |
制吐薬を使用することで、吐き気や嘔吐はある程度コントロールできます。食事は無理せず、食べられるものを少量ずつ摂取することが大切です。
脱毛
脱毛の発現頻度は約70%です。治療開始から2〜3週間後に抜け毛が目立ち始めることが多く、頭髪だけでなく、眉毛やまつ毛なども抜けることがあります。
ただし、脱毛は一時的なものです。治療終了後、通常2〜3カ月程度で髪の毛は再び生え始めます。治療中は、ウィッグ(かつら)や帽子、スカーフなどの使用を検討するとよいでしょう。
肝機能障害
| 副作用 | 発現頻度 |
|---|---|
| ALT(GPT)上昇 | 約23% |
| AST(GOT)上昇 | 約17% |
肝機能の変化は血液検査で確認できます。定期的な検査により早期に発見し、対応することが重要です。
その他の重大な副作用
頻度は低いものの、以下のような重大な副作用が報告されています。
間質性肺炎: 発熱、から咳、呼吸困難などの症状があれば、すぐに医師に連絡してください。
心筋障害: アムルビシンは他のアントラサイクリン系薬剤と比べて心毒性は低いですが、ゼロではありません。特に、他のアントラサイクリン系薬剤による前治療歴がある患者さんでは注意が必要です。
胃・十二指腸潰瘍: みぞおちの痛み、吐血、下血などの症状に注意が必要です。
日常生活への影響
治療スケジュールと通院
アムルビシンは3日間連続で点滴を受ける必要があります。各回の点滴時間は約5分と短いものの、前後の診察や準備を含めると、1回の通院で数時間かかることがあります。
その後3〜4週間の休薬期間がありますので、この期間は外来通院の頻度は少なくなります。ただし、副作用のチェックのための血液検査などで通院が必要になることがあります。
仕事や日常生活
副作用の程度は個人差がありますが、骨髄抑制により白血球が減少する時期(投与後1〜2週間)は感染症のリスクが高まるため、人混みを避けるなどの注意が必要です。
また、貧血や倦怠感により、日常生活に支障が出ることもあります。仕事については、可能であれば投与後1〜2週間は休息をとれるようにスケジュールを調整することが望ましいでしょう。
家族のサポート
治療中は、感染予防のため家族にも協力してもらうことが大切です。家族が風邪をひいている場合は、患者さんとの接触を避ける、手洗いを徹底するなどの配慮が必要です。
また、吐き気や倦怠感が強い時期には、家事や買い物などのサポートがあると助かります。
保険適用と費用
保険適用
アムルビシンは、小細胞肺がんおよび非小細胞肺がんに対して保険適用となっています。医師が医学的に必要と判断した場合に、保険診療として使用できます。
薬価
2025年時点での薬価は以下の通りです。
| 製剤 | 薬価(1瓶あたり) |
|---|---|
| カルセド注射用20mg | 4,542円 |
| カルセド注射用50mg | 10,565円 |
1クールあたりの費用目安
体表面積を1.6m²(身長160cm、体重60kgの場合)として計算すると、1回の投与量は約72mg(45mg/m² × 1.6m²)となります。
これを3日間投与すると、総投与量は約216mgとなり、カルセド注射用50mgを5瓶程度使用することになります。薬剤費だけで約52,000円(10,565円 × 5瓶)となります。
ただし、実際の医療費には、診察料、注射手技料、血液検査料、制吐薬などの費用も加わります。1クールの総医療費は、10万円前後になることが一般的です。
自己負担額
3割負担の場合、1クールあたりの自己負担額は約3万円前後となります。
ただし、がん治療は高額になるため、高額療養費制度の利用を検討することをお勧めします。この制度を利用すると、年齢や所得に応じた月額の自己負担上限額が設定されます。
例えば、70歳未満で年収約370万〜約770万円の方の場合、月額の自己負担上限額は約8万円(多数回該当の場合は約4.4万円)となります。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払いが自己負担上限額までとなり、一時的な経済的負担を軽減できます。
2026年時点での治療の位置づけ
最新の治療動向
2025年6月、アムジェン社の「イムデトラ(一般名:タルラタマブ)」という新しい薬が、プラチナ製剤をベースとした一次化学療法後に進行した小細胞肺がんの二次治療として承認されました。
DeLLphi-304試験という国際共同第Ⅲ相試験では、イムデトラが標準化学療法(日本ではアムルビシン、他国ではノギテカンやルルビネクテジン)と比較して、死亡リスクを40%低下させ、生存期間中央値を5カ月以上延長させたという結果が示されました。
この結果を受けて、小細胞肺がんの二次治療における治療選択肢が広がりつつあります。
ガイドラインでの位置づけ
日本肺癌学会の肺癌診療ガイドライン2024年版および2025年版では、再発小細胞肺がんに対する治療として、アムルビシンは引き続き推奨されています。
特に、難治性再発(Refractory relapse)に対しては、アムルビシン単独療法が第一選択として推奨されています(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:C)。
治療選択における考え方
2026年現在、小細胞肺がんの再発治療には複数の選択肢があります。アムルビシン、イムデトラ、ノギテカンなど、それぞれに特徴があり、患者さんの状態、前治療の内容、副作用のプロファイルなどを総合的に考慮して選択されます。
主治医とよく相談し、自分の状況に最も適した治療を選ぶことが大切です。
まとめ
アムルビシンは、小細胞肺がんの再発治療において重要な役割を果たしてきた薬です。特に難治性再発に対して効果が認められており、約50%の患者さんで腫瘍の縮小効果が期待できます。
主な副作用は骨髄抑制で、感染症への注意が必要ですが、適切な対策により管理可能です。投与スケジュールは3日間の点滴と3〜4週間の休薬というサイクルで、外来治療が可能です。
費用面では保険適用となっており、高額療養費制度を利用することで自己負担を軽減できます。
2026年現在、新しい治療薬の登場により、小細胞肺がんの治療選択肢は広がっています。主治医とよく相談し、自分に最適な治療を選択しましょう

