
埼玉県における高精度放射線治療の選択肢
がん治療において、放射線治療は手術、薬物療法と並ぶ重要な治療法の一つです。近年の技術進歩により、正常組織へのダメージを最小限に抑えながら、がん細胞に集中的に放射線を照射できる高精度放射線治療が普及してきました。
埼玉県内には、サイバーナイフやトモセラピーといった最新の放射線治療機器を導入している医療機関が複数あります。これらの治療法は、従来の放射線治療と比較して、副作用を抑えながら効果的にがんを治療できる可能性があります。
この記事では、埼玉県で受けられる高精度放射線治療について、実施している医療機関の情報、各治療法の特徴、導入時期、対応可能ながんの種類、治療実績などを整理して説明します。
また、重粒子線治療や陽子線治療についても、利用可能な近隣施設の情報を含めて紹介します。
サイバーナイフ治療の特徴と仕組み
サイバーナイフは、ロボットアームに搭載された小型の直線加速器を使用して、がん組織に対して高精度な放射線を照射する治療装置です。「ナイフ」という名称が付いていますが、実際に切開する治療ではありません。放射線をナイフのように鋭く正確に照射できることから、この名前が付けられました。
サイバーナイフ治療の大きな特徴は、その高い位置精度にあります。ロボットアームが360度あらゆる角度から照射できるため、複雑な形状の腫瘍にも対応できます。また、リアルタイムで腫瘍の位置を追跡する機能があり、呼吸による体の動きにも対応できるため、肺や肝臓といった動きのある臓器のがんにも適用できます。
治療は通常、1回から5回程度の照射で完了します。1回の治療時間は30分から90分程度で、多くの場合、入院の必要がなく外来で治療を受けることができます。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
埼玉県でサイバーナイフ治療が受けられる病院
埼玉医科大学国際医療センター(入間郡毛呂山町)
埼玉医科大学国際医療センターは、埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38に位置する高度医療を提供する医療機関です。
放射線腫瘍科では、リニアック2台とサイバーナイフ1台を設備しており、年間1,300例を超える放射線治療を実施しています。この治療件数は全国でも上位に位置する実績です。
同センターでは、脳腫瘍、頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、前立腺がんなど、幅広いがん種に対してサイバーナイフ治療を実施しています。経験豊富な医療チームが、患者さん一人ひとりの状態に応じた治療計画を立案します。
さいたま赤十字病院(さいたま市中央区)
さいたま赤十字病院は、埼玉県さいたま市中央区新都心1番地5に位置し、2017年1月にサイバーナイフを導入しました。
放射線科部では、頭頚部がん、肺がん、肝臓がん、前立腺がんを中心にサイバーナイフ治療を行っています。さいたま新都心という交通アクセスの良い立地にあり、通院治療を希望する患者さんにとって利便性の高い施設です。
同院では、サイバーナイフ以外の放射線治療装置も併設しており、患者さんの病状や治療方針に応じて最適な治療法を選択できる体制が整っています。
関東脳神経外科病院(熊谷市)
関東脳神経外科病院は、埼玉県熊谷市代1120に位置する脳神経外科専門病院です。
同院のサイバーナイフは、主に脳腫瘍や頭頸部がんへの治療に特化しています。脳神経外科の専門性を活かし、手術が困難な部位の脳腫瘍や、手術後の再発例などに対して治療を実施しています。体幹部への照射は実施していないため、肺がんや肝臓がんなどの治療を希望する場合は、他の施設を検討する必要があります。
トモセラピー治療の特徴と仕組み
トモセラピーは、CT撮影と放射線治療を組み合わせた装置で、らせん状に回転しながら放射線を照射する治療法です。治療直前にCT画像を撮影することで、腫瘍の位置を正確に確認しながら照射できるため、位置精度が高い治療が可能です。
トモセラピーの特徴は、IMRT(強度変調放射線治療)という技術を用いて、放射線の強さを細かく調整しながら照射できる点にあります。これにより、複雑な形状の腫瘍や、重要な臓器に近接した腫瘍に対しても、正常組織へのダメージを最小限に抑えながら治療できます。
また、広い範囲に腫瘍が散在している場合でも、一度の治療で複数の病巣を同時に照射できるという利点があります。
埼玉県でトモセラピー治療が受けられる病院
埼玉県立がんセンター(北足立郡伊奈町)
埼玉県立がんセンターは、埼玉県北足立郡伊奈町小室780番地に位置する、がん治療を専門とする県立の医療機関です。
放射線治療科では、外照射装置3台のうち1台がトモセラピー対応機器(TomoHDシステム)となっています。年間の新規患者数は1,100名を超え、埼玉県内でも有数の放射線治療実績を誇ります。
同センターでは、頭頸部がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん、直腸がんなど、さまざまながん種に対してトモセラピー治療を実施しています。がん専門病院としての豊富な経験と、多職種による包括的なサポート体制が特徴です。
また、セカンドオピニオン外来も実施しており、他の医療機関で治療を受けている患者さんの相談にも対応しています。
埼玉県における重粒子線治療と陽子線治療の状況
重粒子線治療と陽子線治療は、粒子線を用いた放射線治療で、従来のX線やガンマ線を用いた治療と比較して、より精密にがん細胞を攻撃できる特徴があります。
重粒子線治療について
重粒子線治療は、炭素イオンを加速して照射する治療法です。がん細胞への殺傷効果が高く、X線抵抗性のがん(通常の放射線が効きにくいがん)にも効果が期待できます。
現時点では、埼玉県内に重粒子線治療施設はありません。埼玉県の患者さんが重粒子線治療を受ける場合、近隣の群馬大学重粒子線医学センター(群馬県前橋市)や、千葉県の量子科学技術研究開発機構QST病院などを利用することになります。
陽子線治療について
陽子線治療は、陽子(水素原子核)を加速して照射する治療法です。体内の特定の深さで線量のピークを迎える特性(ブラッグピーク)があり、がん組織の手前や奥の正常組織への影響を最小限に抑えることができます。
埼玉県内には陽子線治療施設もありませんが、近隣では筑波大学附属病院陽子線治療センター(茨城県つくば市)や、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)で治療を受けることができます。
各治療法の適応がん種と特徴の比較
| 治療法 | 主な適応がん種 | 治療期間 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| サイバーナイフ | 脳腫瘍、肺がん、肝臓がん、前立腺がん、頭頸部がん、脊椎腫瘍 | 1〜5回 | ロボットアームによる高精度照射。短期間で治療完了 |
| トモセラピー | 頭頸部がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん、直腸がん | 20〜40回程度 | CT画像による位置確認と強度変調照射。複雑な形状の腫瘍に対応 |
| 重粒子線 | 骨軟部腫瘍、頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、前立腺がん、膵臓がん | 1〜16回程度 | 高い生物学的効果。X線抵抗性がんにも有効 |
| 陽子線 | 小児がん、眼腫瘍、頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、前立腺がん | 10〜35回程度 | 正常組織への影響が少ない。小児がんに適している |
高精度放射線治療の費用と保険適用
サイバーナイフ・トモセラピーの費用
サイバーナイフとトモセラピーは、いずれも保険適用となる治療法です。費用は照射回数や治療部位によって異なりますが、3割負担の場合、総額で数十万円程度となることが一般的です。
ただし、高額療養費制度を利用することで、月額の自己負担額には上限が設けられます。所得に応じて自己負担限度額が異なりますが、一般的な所得の方の場合、月額8万円程度が上限となります。
重粒子線・陽子線治療の費用
重粒子線治療と陽子線治療については、2016年4月から一部のがん種で保険適用が開始されました。保険適用となるがん種は限定されており、以下のようなものが含まれます。
保険適用となるがん種(重粒子線・陽子線共通):
- 小児がん(限局性の固形悪性腫瘍)
- 骨軟部腫瘍(手術が困難または機能温存が必要な場合)
- 頭頸部がん(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)
重粒子線治療のみ保険適用となるがん種:
- 前立腺がん
- 限局性・局所進行性膵臓がん
- 肝細胞がん(長径4cm以上)
- 肝内胆管がん
- 局所進行性子宮がん
保険適用の場合、3割負担で約300万円程度の費用となります。高額療養費制度の適用により、実際の自己負担額はさらに軽減されます。
保険適用外の場合は、全額自己負担となり、300万円前後の費用が必要となります。
治療を受ける医療機関を選ぶ際のポイント
通院のしやすさ
放射線治療は、複数回の通院が必要となることが多い治療です。トモセラピーの場合、20回以上の照射が必要となることもあります。そのため、自宅からの通院時間や交通アクセスは重要な検討事項となります。
サイバーナイフのように短期間で治療が完了する場合でも、治療前の診察や治療計画のための通院、治療後の経過観察など、複数回の通院が発生します。
治療実績と専門性
各医療機関の治療実績や、特定のがん種に対する専門性も確認することが大切です。年間の治療件数が多い施設は、それだけ経験が蓄積されており、さまざまなケースに対応できる可能性が高くなります。
また、自分のがんの種類や病期に応じて、その治療に強みを持つ施設を選ぶことも重要です。例えば、脳腫瘍の治療であれば、関東脳神経外科病院のように脳神経外科の専門性を持つ施設が選択肢となります。
総合的なサポート体制
がん治療は、放射線治療だけで完結するとは限りません。手術や薬物療法と組み合わせた集学的治療が必要となることもあります。また、栄養管理や緩和ケアなど、多方面からのサポートも重要です。
がん専門病院や大学病院など、総合的な診療体制が整っている施設では、必要に応じて他の診療科との連携や、多職種によるサポートを受けることができます。
セカンドオピニオンの活用
放射線治療を含むがん治療の方針について、複数の医療機関で意見を聞くことは、患者さんの権利として認められています。埼玉県立がんセンターをはじめ、多くの医療機関でセカンドオピニオン外来を実施しています。
セカンドオピニオンを受けることで、自分の病状や治療選択肢についてより深く理解し、納得のいく治療方針を選択することができます。主治医に遠慮する必要はなく、むしろ積極的に活用することが推奨されています。
セカンドオピニオンを受ける際は、現在の担当医から紹介状や検査データを受け取り、それらを持参することで、より具体的な意見を得ることができます。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「放射線治療」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/radiotherapy/index.html - 日本放射線腫瘍学会「放射線治療について」
https://www.jastro.or.jp/customer/index.php - 埼玉医科大学国際医療センター 放射線腫瘍科
https://www.saitama-med.ac.jp/kawagoe/index.html - さいたま赤十字病院 放射線科
https://www.saitama-med.jrc.or.jp/ - 埼玉県立がんセンター 放射線治療科
https://www.pref.saitama.lg.jp/saitama-cc/ - 群馬大学重粒子線医学センター
https://heavy-ion.showa.gunma-u.ac.jp/ - 量子科学技術研究開発機構 QST病院
https://www.qst.go.jp/site/qst-hospital/ - 筑波大学附属病院 陽子線治療センター
https://www.pmrc.tsukuba.ac.jp/ - 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html - 日本粒子線治療臨床研究会(JaSPARC)「粒子線治療について」
https://www.jasparc.org/