こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
抗がん剤は、がん治療における重要な選択肢の一つです。手術や放射線治療と並んで、がんの三大療法として位置づけられています。
しかし、「抗がん剤はどうやってがん細胞を攻撃するのか」「なぜ副作用が起きるのか」といった疑問をお持ちの患者さんは多いのではないでしょうか。
この記事では、抗がん剤の作用メカニズムから種類、正常細胞への影響まで、基礎から最新の情報まで詳しく解説していきます。
抗がん剤はどのようにしてがん細胞を攻撃するのか
抗がん剤の作用を理解するためには、まず細胞分裂の仕組みを知る必要があります。
人間の体を構成している細胞は、必要なときだけ分裂し、十分な数になると分裂を止めます。これは正常な細胞の特徴です。
一方、がん細胞は細胞分裂をコントロールする仕組みが壊れており、無秩序に増殖し続けます。その場で浸潤して大きくなったり、他の臓器や器官に転移したりして、人体の正常な機能を妨げていきます。
細胞周期という仕組み
細胞が分裂する際には、「細胞周期」というサイクルを必ずたどります。細胞周期にはG1期、S期、G2期、M期という4つの段階があります。このほか、細胞分裂を休止するG0期に入ることもあります。
| 段階 | 内容 | 所要時間 |
|---|---|---|
| G1期 | DNA合成の準備として、たんぱく質やRNAを合成します。チェックポイント機構が働き、DNA合成のための準備が整っているかチェックされます | 細胞により様々 |
| S期 | 遺伝物質であるDNAを合成します。DNAが複製されます | 6~8時間 |
| G2期 | たんぱく質やRNAを合成し、次のM期に備えます | 2~4時間 |
| M期 | 細胞が2つに分裂します | 30分~1時間 |
| G0期 | 細胞分裂を休止している状態です。正常細胞の多くはこの状態にあります | - |
抗がん剤は、これらの段階のどれか、あるいは複数を妨げることにより、がん細胞を死滅させたり、増殖を抑えたりします。
抗がん剤の種類とその仕組み
2026年時点での抗がん剤は、作用メカニズムによって大きく3つのタイプに分類されます。
2022年4月から2025年3月までの間だけでも、国内で100種類以上の新しい抗がん剤が承認されており、治療の選択肢は広がっています。
細胞障害性抗がん剤(従来型の抗がん剤)
細胞障害性抗がん剤は、細胞の増殖メカニズムの一部を阻害することで効果を発揮します。がん細胞だけでなく、正常な細胞にも影響を与えるという特徴があります。
細胞障害性抗がん剤は、さらに以下のように分類されます。
アルキル化剤
アルキル化剤は、DNAの塩基にアルキル基を結合させます。これによってDNAが複製できなくなったり、DNAの遺伝情報を正確に読み取ってたんぱく質を作ることができなくなります。
アルキル化剤の特徴は、細胞が分裂しているときだけでなく、G0期(休止期)にも効果を発揮することです。そのため、成長の遅いがんに対しても治療効果があります。
代表的な薬剤には、シクロホスファミド(エンドキサン)、ダカルバジン、テモゾロミド(テモダール)などがあります。
プラチナ製剤(白金製剤)
その名の通り、プラチナ(白金)が成分に含まれている薬剤です。DNAの鎖に結合したまま離れないため、DNAの複製だけでなくたんぱく質の合成などもできなくなります。
プラチナ製剤は、がん細胞が細胞周期のどこにいても作用します。代表的な薬剤には、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンなどがあります。
代謝拮抗剤
代謝拮抗剤とは、がん細胞の代謝を邪魔する薬であり、一般にDNAを合成するS期に作用します。
この薬は、DNAやRNAの材料となる分子に性質や構造が似ています。そのため、本来の材料の代わりにDNA鎖に取り込まれたり、DNAの複製に必要な酵素の働きを妨げたりします。
その結果、DNA鎖が不完全に複製されたり、切断されたりし、がん細胞が死に至ります。代表的な薬剤には、フルオロウラシル(5-FU)、ゲムシタビン、シタラビンなどがあります。
抗がん性抗生物質
細菌や菌類などの微生物が作る抗生物質の中には、抗がん作用を持つものがあります。このような抗生物質は、抗がん性抗生物質と呼ばれます。
抗がん性抗生物質は、DNA鎖の途中に橋のような結合を作ったり、たんぱく質を作るために必要なRNAの合成を妨げるなど、様々な作用によってがん細胞を死に導きます。
代表的な薬剤には、ドキソルビシン(アドリアシン)、エピルビシン(ファルモルビシン)、マイトマイシンC、ブレオマイシンなどがあります。
トポイソメラーゼ阻害剤
トポイソメラーゼとは、細胞内にしっかり折りたたまれたDNA鎖をほどいたり緩めたりするときに使われる酵素です。DNA鎖を一時的に切断したり再び結合させたりし、DNAの複製やたんぱく質の合成などがスムーズに進むようにします。
トポイソメラーゼ阻害剤は、この酵素と結合することにより、DNAの合成を妨げたり、DNAを切断したままにします。分裂を繰り返すがん細胞は、この薬によってダメージを受けやすいといえます。
代表的な薬剤には、イリノテカン(カンプト、トポテシン)、ノギテカンなどがあります。
微小管阻害剤
微小管は細胞内で様々な働きをする物質です。とりわけ細胞分裂のときには染色体を2つの細胞に分配する役割を持っています。
微小管はチュブリンというたんぱく質がいくつも連なって作られます。微小管阻害剤には、微小管がばらばらにならないようにするタイプ(タキサン系)と、逆にチュブリンが連なって微小管になるのを妨げるタイプ(ビンカアルカロイド系)があります。
タキサン系の代表的な薬剤には、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテール)があります。ビンカアルカロイド系には、ビンクリスチン、ビノレルビンなどがあります。
分子標的薬
分子標的薬は、がん細胞の発生や増殖に関わる特定の分子を標的として、その機能を抑えることでがんを攻撃する薬です。
分子標的薬には、細胞の中に入り込んで作用する「小分子化合物」と、がん細胞の表面や周りにある分子を標的とする「抗体薬」の2つのタイプがあります。
小分子化合物は主に飲み薬として、抗体薬は主に点滴として投与されます。代表的な薬剤には、イマチニブ(グリベック)、ゲフィチニブ(イレッサ)、トラスツズマブ(ハーセプチン)などがあります。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、私たちの体の免疫システムを利用してがん細胞を攻撃する薬です。
がん細胞は、免疫細胞の攻撃を逃れるために「免疫チェックポイント」という仕組みを利用します。免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを外すことで、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにします。
代表的な薬剤には、ニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)などがあります。
抗体薬物複合体(ADC)
2025年以降、注目されている新しいタイプの抗がん剤が抗体薬物複合体(ADC)です。
ADCは、抗体と強力な抗がん剤、そしてそれらをつなぐリンカーを組み合わせた薬です。抗体ががん細胞の表面にある特定の目印に結合すると、リンカーが切断され、強力な抗がん剤ががん細胞の内部で放出されます。
これにより、がん細胞にピンポイントで薬剤を届けることができ、正常細胞への影響や副作用を抑えつつ、治療効果の最大化を目指すことができます。
ADCは、通常の細胞障害性抗がん剤と違い、がん細胞に薬剤をピンポイントで送り届ける「ミサイル療法」とも呼ばれています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
なぜ正常細胞も影響を受けるのか
抗がん剤治療で副作用が起きる最も大きな理由は、がん細胞と正常細胞がとても似通っているためです。
がん細胞は、患者さん自身の正常な細胞が変異を起こして生じた細胞です。そのため、がん細胞はもとになった正常細胞と多くの共通点を持っています。
現在使用されている抗がん剤の多くは、がん細胞と正常細胞との間のわずかな違い、特に「細胞分裂の速さ」を狙って働きます。
がん細胞は細胞周期が速く進む(分裂が速い)という特徴があります。抗がん剤の多くは、この分裂の速さを標的にしています。
しかし、正常細胞の中にも細胞分裂が盛んな組織があります。具体的には以下のような組織です。
| 組織 | 影響を受ける理由 | 主な副作用 |
|---|---|---|
| 骨髄 | 血液細胞を作り続けるため、細胞分裂が盛ん | 白血球減少、血小板減少、貧血(骨髄抑制) |
| 消化管粘膜 | 常に新しい細胞に置き換わるため、細胞分裂が盛ん | 口内炎、悪心・嘔吐、下痢、食欲不振 |
| 毛根(毛包) | 髪の毛が伸びるため、細胞分裂が盛ん | 脱毛 |
| 生殖器官 | 卵子や精子を作るため、細胞分裂が盛ん | 不妊、ホルモン環境の変化 |
| リンパ組織 | 免疫細胞が活発に活動 | 免疫機能低下、感染症リスク上昇 |
これらの組織は、G0期(休止期)の細胞があまり多くないため、がん細胞と同様に抗がん剤の影響を受けやすいのです。
一方で、心臓や神経など、細胞分裂がほとんど起こらない組織に対しては、抗がん剤の影響は比較的少ないといえます。
抗がん剤の投与方法と治療サイクル
通常、抗がん剤投与は「1クール=投与期間と休薬期間」という単位で行われます。1クールを複数回繰り返すことが基本です。
なぜ休薬期間を設けるのかというと、正常細胞の回復を待つためです。
投薬と休薬のバランス
一般にがん細胞よりも正常細胞の方が回復が速いという特性があります。また、正常組織にはG0期の細胞が多いため、がん組織よりも死滅する細胞の数が少なくて済みます。
休薬期間中、G0期にある正常細胞が細胞周期に入って増殖し、元の状態に戻ります。正常細胞が元の数に戻るまでの期間を休薬期間として設定することにより、副作用は最小限に抑えられます。
一方、休薬している間に生き残ったがん細胞のいくつかが増殖します。しかし、がん細胞が元の数に戻る前に次のクールの投薬を行うことで、がん細胞の数は減少し、腫瘍が縮小していきます。
このように投薬と休薬を上手く組み合わせることにより、少ない副作用で高い効果が得られるのです。
ですので「1クールだけやって抗がん剤は完全に休止する」ということだと、治療の効果はほぼ期待できません。継続することを前提に体調面に配慮したり、計画を立てたりすることが重要です。
副作用の出現時期と対策
抗がん剤の副作用には、出現する時期がある程度予測できるものがあります。
治療直後から1週間以内
急性悪心・嘔吐、アレルギー反応、血圧低下などが起こることがあります。その後、遅延性悪心・嘔吐、食欲低下、全身倦怠感、便秘などが見られることがあります。
1週間後から2週間
口内炎、下痢、肝機能障害、腎機能障害などが出現することがあります。また、白血球・好中球低下、血小板低下などの骨髄抑制がピークを迎えます。
4週間後以降
脱毛、手足のしびれ感(末梢神経障害)などが出現することがあります。
これらはあくまで一般的な目安であり、実際の発現頻度や程度、時期については個人差があります。
副作用への対策
現在では、副作用を予防したり和らげたりする薬の開発が進んでいます。
たとえば、制吐剤の進歩により、治療中も食事摂取が可能な場合が増えてきました。また、G-CSFという薬を投与することで骨髄抑制からの回復を早めることができるようになりました。
副作用がつらいときは、遠慮なく主治医や担当看護師に相談しましょう。より体への負担が少ない方法を提案してもらえることがあります。
分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の副作用
分子標的薬は、特定の分子を標的としますが、その標的はがん細胞だけでなく正常細胞にも存在することがあります。そのため、標的となる分子によって特徴的な副作用が出現します。
主な副作用としては、皮膚障害、高血圧、間質性肺炎、タンパク尿などがあります。抗体薬では、投与開始直後から24時間以内にインフュージョンリアクションと呼ばれる副作用(悪寒、発熱、皮疹、血圧低下など)が見られることがあります。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫反応を強めるため、がんのない部位でも免疫反応が強くなることがあります。これが副作用の原因となり、免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれます。
主な副作用としては、皮膚障害、肺障害、甲状腺機能障害、消化器症状、糖尿病などがあります。症状が出現する時期は予測が困難で、治療開始後数か月経ってから出現することもあります。
抗がん剤治療を受ける際の心構え
抗がん剤治療の目標は、「患者さんが望むような生き方で、できるだけ長く生きられるようにすること」です。
そのためには、寿命の延長、がんの縮小、症状の緩和にバランス良く配慮しながら治療を進めていく必要があります。
抗がん剤治療は、確かに副作用を伴います。しかし、がん細胞にダメージを与える際に、どうしてもがん細胞と類似した正常細胞にもダメージを与えてしまうという構造上の問題があるからです。
治療は日々進歩しており、新規抗がん剤の開発にとどまらず、副作用を予防する薬の開発や、抗がん剤投与方法(投与量、投与間隔、投与順、投与時間など)の工夫など多岐にわたっています。
患者さんによって、がんの種類、病期、全身状態、併存疾患などは異なります。どの抗がん剤をどのように使用するかは、これらの要素を総合的に判断して決定されます。
治療について不安や疑問がある場合は、遠慮なく主治医に相談し、十分に納得した上で治療を受けることが大切です。
参考文献・出典情報
国立がん研究センター がん情報サービス - 薬物療法 もっと詳しく
東洋経済オンライン - がん細胞に侵入し内側から破壊する最新抗がん剤「ADC」について
瀬田クリニック東京 - 抗がん剤とは?基本的な知識と治療のメリット・デメリット
