
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんは男性ホルモンの影響を受けて進行するため、ホルモンを抑える薬を使ってがんの進行を抑制する治療が基本となります。この治療法をホルモン療法といいます。
ホルモン療法は副作用が抗がん剤と比べて軽く、効果が持続する期間も長いため、前立腺がん治療において重要な役割を担っています。
しかし、ホルモン療法を続けていくうちに、いずれ効果がなくなる時期が訪れます。この状態を「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」といいます。かつては「ホルモン不応性前立腺がん」と呼ばれていましたが、より正確には「去勢したときと同じレベルの微量のホルモンでも増殖するがん」という事実を表すために、現在の名称に変更されました。
去勢抵抗性前立腺がんと骨転移の関係
去勢抵抗性前立腺がんの状態になると、およそ80%という高い確率で骨転移を生じることが知られています。
前立腺のある下腹部に近い骨盤、大腿骨、脊椎、肋骨など、体の中心付近にある骨に転移が起きやすい傾向があります。
骨転移は患者さんの生活に大きな影響を与える症状を引き起こします。がん細胞が骨の内部に浸潤することで、骨内部にある神経群に影響を及ぼし、痛みや痺れなどの症状が起きやすくなります。
また、転移した箇所を中心に骨の強度が弱まるため、少しの衝撃でも骨折しやすくなります。この状態を「病的骨折」といい、一度起きると元に戻すことが難しく、患者さんの生活の質を低下させる大きな要因となります。
その他にも、骨に含まれるカルシウムが血液中に流れ出す「高カルシウム血症」により、吐き気や食欲不振、強い倦怠感、多尿といった症状が現れることもあります。
骨転移が起きたときの治療戦略
前立腺がんが進行して骨転移が起きた場合、まず重要なのは「前立腺がん自体の進行を止める」ことです。
ホルモン療法が効かなくなった去勢抵抗性前立腺がんに対しては、イクスタンジやザイティガといった新しいタイプのホルモン剤を使用します。これらの薬は従来のホルモン療法とは異なる作用機序を持ち、去勢抵抗性になった後でも効果を発揮する可能性があります。
また、抗がん剤としてはドセタキセル(商品名タキソテール)やカバジタキセル(商品名ジェブタナ)が使用されます。これらの薬で前立腺がんの進行を抑え、できるだけ退縮させることを目指します。
骨転移に対しては、従来はゾメタやランマークといった骨転移専用の薬剤が使われてきました。これらの薬は骨転移に伴う痛みや骨折などを起こしにくくする作用がありますが、がん細胞自体を殺す薬ではありません。そのため、生存期間の延長にはあまり寄与せず、副作用として顎骨壊死や腎機能障害といったデメリットもありました。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
ゾーフィゴとはどんな薬か
2016年に日本で承認された「ゾーフィゴ(一般名:塩化ラジウム223Ra)」は、ゾメタやランマークとは作用機序が異なる「骨転移向け治療薬」として注目されています。
ゾーフィゴは世界で初めてアルファ線を放出する放射性医薬品です。ゾーフィゴを静脈注射で投与すると、薬剤が骨転移のある部位に取り込まれ、そこでアルファ線を放出することで、がん細胞に対して殺傷効果を発揮します。
アルファ線の特徴
従来の放射性医薬品はベータ線を利用していました。ベータ線はDNA二重鎖のうち一本のみを切断する程度の効果でしたが、アルファ線は二本鎖ともに切断できる強力な力を持っています。DNA二重鎖が両方とも切断されると、細胞の修復は不可能になり、がん細胞は死滅します。
さらに重要な特徴として、体内におけるアルファ線の届く範囲は0.1mm未満と非常に短いため、正常細胞に大きな影響を与えることが比較的少ない薬だといえます。
骨への集積メカニズム
ゾーフィゴに含まれるラジウム223は、骨の成分であるカルシウムと似た性質を持っています。このため、注射で体内に投与されると、骨代謝が活発になっているがんの骨転移巣に積極的に運ばれます。
骨への放射能の取り込みは投与2時間後までに最大となり、骨中放射能の投与放射能に対する割合は平均52%です。心臓、肝臓、腎臓などの臓器への特異的な取り込みは認められないため、ターゲットとなる骨転移巣に選択的に作用します。
ゾーフィゴの対象となる患者さん
ゾーフィゴの適応となるのは、以下の条件を満たす方です。
| 適応条件 | 内容 |
|---|---|
| 病態 | 去勢抵抗性前立腺がん(CRPC) |
| 骨転移 | 2か所以上の骨転移があり、症候性(痛みなどの症状がある) |
| 内臓転移 | 内臓転移がないこと |
| リンパ節転移 | 短径3cmを超えるリンパ節腫脹がないこと |
| 去勢術の継続 | 外科的または内科的去勢術を継続していること |
内臓転移がある患者さんにおける有効性と安全性は確立していないため、適応とはなりません。
ゾーフィゴの投与方法とスケジュール
投与方法の詳細
ゾーフィゴは4週間に1回、静脈注射で投与します。投与量は体重1kgあたり55kBqで、最大6回まで受けることができます。つまり、約半年間の治療期間となります。
注射は外来で可能であり、1回の注射は1分程度で終わるため、患者さんのライフスタイルに大きな影響を与えるものではありません。
投与スケジュールの制約
ただし、ゾーフィゴは放射性医薬品であるため、いくつかの制約があります。
まず、取り扱うためには設備や安全管理体制、放射線専門医の常勤などの条件を満たす必要があります。大学病院などでも取り扱い基準を満たせないこともあるため、投薬が実施できる医療機関は限られています。
また、放射性医薬品の特性上、有効期限が極めて短く、投与日を決めた上で製薬会社に発注するというプロセスが必要になります。このため、原則として注射日の変更はできません。
4週間に1回の注射ですが、その注射日を必ず守る必要があります。あらかじめスケジュールを綿密に計画し、予約通りに投与することが求められます。対象となる患者さんのコンディションは進行した状態であるため、予約通りに通院できないケースも考えられます。そのため、治療開始前に担当医とよく相談し、6回の投与を完遂できる見込みがあるかを検討することが大切です。
ゾーフィゴの効果と臨床試験結果
ゾーフィゴの有効性は、国際共同第3相臨床試験(ALSYMPCA試験)で検証されました。
臨床試験の概要
この試験では、骨転移を有する症候性の去勢抵抗性前立腺がん患者さん921例が登録されました。患者さんはゾーフィゴ群(614例)とプラセボ群(307例)に2対1の割合で割り付けられ、標準的治療を併用しながら4週間ごとに6回の投与を受けました。
生存期間の延長
主要評価項目である全生存期間について、プラセボ群に対するゾーフィゴ群の優越性が検証されました。
全生存期間の中央値は、ゾーフィゴ群で14.9ヵ月、プラセボ群で11.3ヵ月でした。ハザード比は0.69(95%信頼区間:0.58~0.83、p=0.00005)であり、統計学的に有意な生存期間の延長が示されました。
骨関連事象の発現抑制
症候性骨関連事象(SSE)発現までの期間についても、ゾーフィゴ群で有意な延長が認められました。
SSE発現までの期間の中央値は、ゾーフィゴ群で15.6ヵ月、プラセボ群で8.1ヵ月でした。ハザード比は0.62(95%信頼区間:0.50~0.78、p=0.00004)です。
骨関連事象には、骨症状緩和のための外部照射の使用、新たな症候性の病的骨折の発現、脊髄圧迫の発現、骨転移に対する整形外科的処置などが含まれます。
腫瘍マーカーの改善
投与開始後12週時点でのALP(アルカリホスファターゼ)の変化率は、ゾーフィゴ群では平均で32.2%低下したのに対し、プラセボ群では37.2%の上昇が認められました。
日本人患者さんでの試験結果
日本人の症候性去勢抵抗性前立腺がん患者さん49例を対象とした国内第2相臨床試験でも、投与開始後12週時点における総ALPのベースラインからの変化率の平均値は-19.3%(95%信頼区間:-28.0~-10.7%)であり、有効性が確認されました。
ゾーフィゴの副作用
国外第3相試験において、ゾーフィゴ群600例中386例(64.3%)に副作用が認められました。
主な副作用
| 副作用 | 国外試験での発現率 | 国内試験での発現率 |
|---|---|---|
| 悪心 | 20.8% | 10.2% |
| 貧血 | 18.3% | 30.6% |
| 下痢 | 16.7% | 10.2% |
| 血小板減少 | 11.5% | 12.2% |
| リンパ球減少 | 0.8% | 24.5% |
最も重要な副作用は「骨髄抑制」です。これは薬の作用によって造血細胞がダメージを受け、血液を作る機能が阻害されることです。
骨髄抑制によって起きる具体的な症状には、貧血、血小板減少、好中球減少、白血球減少、リンパ球減少、汎血球減少などがあります。これらの症状が現れた場合は、重症度に応じて投与を延期または中止することがあります。
その他、疲労、骨痛、食欲減退、嘔吐なども報告されています。ただし、プラセボ群と比較して著しく高い頻度ではなく、管理可能な範囲の副作用といえます。
日常生活への影響
ゾーフィゴ投与後は、通常の日常生活を送ることができます。ただし、放射性医薬品を使用するため、いくつかの注意点があります。
投与後1週間程度は、排泄物(尿や便)に放射性物質が含まれるため、トイレ使用後は必ず水を流すこと、手をよく洗うことが推奨されます。
また、性交渉の際はコンドームを使用することが推奨されます。これらの注意事項は、家族や周囲の方への放射線曝露を最小限にするためのものです。
ゾーフィゴの保険適応と費用
保険適応
ゾーフィゴは保険適用の薬剤です。骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんという適応症で、健康保険が適用されます。
薬価と治療費用
ゾーフィゴの薬価は1回あたり68万4930円です。これは1バイアル(5.6mL)の薬価で、体重によって使用量が異なるため、実際の費用は患者さんの体重により変動します。
6回投与を完遂した場合、薬剤費だけで約410万円となります。これに診察料や検査料などが加わります。
自己負担額
健康保険が適用されるため、窓口での支払いは3割負担(または1割、2割)となります。ただし、医療費が高額になる場合は「高額療養費制度」が利用できます。
高額療養費制度を利用すると、1ヶ月の自己負担額には上限が設けられます。上限額は年齢や所得によって異なりますが、例えば70歳未満で年収約370万円~770万円の方の場合、1ヶ月の自己負担上限額は約9万円(4回目以降は約4万4千円)となります。
事前に「限度額適用認定証」を取得し、医療機関に提示することで、窓口での支払いが自己負担上限額までとなります。マイナ保険証を利用している場合は、認定証がなくても同様の扱いとなります。
ゾーフィゴ使用時の注意事項
併用薬との関係
化学療法未治療で無症候性または軽度症候性の骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん患者さんに対する、ゾーフィゴとアビラテロン(ザイティガ)およびプレドニゾロンの併用投与は推奨されません。
国際共同第3相試験(ERA223試験)において、ゾーフィゴとアビラテロンを併用した群では、プラセボとアビラテロンを併用した群と比較して、死亡率および骨折の発現率が高い傾向が認められたためです。
定期的な検査の必要性
ゾーフィゴ投与中は、骨髄抑制の早期発見のため、定期的な血液検査が必要です。投与前には必ず血液学的検査を実施し、投与基準を満たしていることを確認します。
放射線曝露のリスク
放射線曝露により、二次発がんや遺伝子異常のリスクが増加する可能性があります。ただし、ゾーフィゴのアルファ線は飛程が短いため、周辺組織への影響は限定的です。
出典情報・参考文献
バイエル薬品株式会社 ゾーフィゴ静注 患者さん向け情報サイト
がん情報サイト オンコロ 去勢抵抗性前立腺がん Ra223『ゾーフィゴ』発売