
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん治療を受ける際、医師から「完全奏功(CR)です」「部分奏功(PR)になりました」といった説明を受けることがあります。
これらは治療効果を示す専門用語ですが、正確に理解している患者さんは少ないのが現状です。
治療効果の評価基準を理解することは、ご自身の病状を把握し、今後の治療方針について医師と話し合う上で重要です。この記事では、2026年現在使用されている治療効果測定の基準について、分かりやすく解説します。
がん治療における効果測定の重要性
がんの治療効果を正確に測定することは、治療方針を決定する上で欠かせません。効果測定の基準が統一されていなければ、治療の有効性を客観的に判断することができないからです。
現在、世界中の医療機関で使用されている標準的な効果判定基準は「RECIST(レシスト)」と呼ばれるものです。RECISTは「Response Evaluation Criteria in Solid Tumors」の略で、固形がんに対する治療効果を評価するための国際的なガイドラインです。
2026年現在、最も広く使用されているのは「RECIST version 1.1」で、世界中の臨床試験や日常診療で標準的な評価基準として採用されています。また、免疫療法が普及した近年では、免疫療法特有の反応パターンに対応した「iRECIST」という評価基準も開発されています。
RECIST基準による治療効果の4つの分類
RECIST基準では、CT検査やMRI検査などの画像診断によってがん病巣の大きさを測定し、その変化に基づいて治療効果を4つのカテゴリーに分類します。
治療開始前に腫瘍の大きさをCTなどの画像診断で計測し、大きな腫瘍を標的病変として選びます。RECIST 1.1では、臓器ごとに最大5個まで、全体で10個までの病変を標的病変として選択します。
| 分類 | 英語表記 | 略称 | 定義 |
|---|---|---|---|
| 完全奏功 | Complete Response | CR | すべての標的病変が消失、またはリンパ節の場合は短径10mm未満に縮小した状態 |
| 部分奏功 | Partial Response | PR | 標的病変の長径の和が治療開始前と比較して30%以上縮小した状態 |
| 安定 | Stable Disease | SD | 部分奏功の基準を満たす縮小も、進行の基準を満たす増大もない状態 |
| 進行 | Progressive Disease | PD | 標的病変の長径の和が治療中の最小値と比較して20%以上増大、かつ絶対値で5mm以上増加した状態、または新しい病変が出現した状態 |
完全奏功(CR)について理解しておくべきこと
完全奏功(CR)と判定された場合、画像検査でがん病巣が見えなくなった状態を意味します。これは治療効果として最も良好な結果です。
ただし、重要な点として、完全奏功=完治ではないということを理解しておく必要があります。CT検査やMRI検査には解像力の限界があり、画像で見えなくなったからといって、がん細胞が完全に消滅したとは証明できません。
実際、画像検査で検出できない微小ながん細胞が残っている可能性があり、時間の経過とともに再増殖して再発や転移を起こすことがあります。そのため、完全奏功と判定された後も、定期的な経過観察が必要になります。
部分奏功(PR)の臨床的意味
部分奏功(PR)は、がん病巣の大きさが治療開始前と比較して30%以上縮小した状態です。これは「長径の和」で評価されます。
例えば、治療前に3つの病巣があり、それぞれの長径が40mm、30mm、20mmだった場合、長径の和は90mmです。治療後にこれが63mm以下(30%減少)になれば、部分奏功と判定されます。
部分奏功は治療が一定の効果を示していることを意味しますが、がん細胞は残存しているため、治療を継続する必要があります。
安定(SD)と進行(PD)の判定
安定(SD)は病巣の大きさに大きな変化がない状態です。がんが縮小していないため一見効果がないように思えますが、がんの進行を抑えているという意味では治療効果があると考えられます。
進行(PD)は、病巣が20%以上増大した場合、または新しい病巣が出現した場合に判定されます。この場合、現在の治療法では効果が不十分と判断され、治療方針の変更が検討されます。
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
がん治療。
何を信じれば?
不安と恐怖で苦しい。
がん治療を左右するのは
治療法より“たった1つの条件”です。
まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
奏功率とは何か|正しい理解のために
医師から説明を受けたり、臨床試験の結果を見たりする際に「奏功率」という言葉を耳にすることがあります。この言葉の意味を正確に理解することが重要です。
奏功率とは、完全奏功(CR)と部分奏功(PR)を合わせた割合のことです。例えば、100人の患者さんに治療を行った結果、完全奏功が20人、部分奏功が25人だった場合、奏功率は45%(20%+25%)になります。
| 用語 | 意味 | 臨床的解釈 |
|---|---|---|
| 奏功率 | CR + PR の割合 | 治療によってがんが縮小または消失した患者さんの割合 |
| 病勢制御率 | CR + PR + SD の割合 | 治療によってがんの進行を抑えられた患者さんの割合 |
| 奏功期間 | 奏功が確認されてから進行するまでの期間 | 治療効果が持続する期間 |
奏功率と生存率の違い
ここで最も重要なのは、奏功率は生存率や治癒率とは異なるということです。奏功率が高い治療法であっても、必ずしも生存期間の延長につながるとは限りません。
奏功率は、画像診断上でがんの大きさが縮小し、それが一定期間(通常4週間以上)続いたということを示すだけです。患者さんにとって最も重要なのは、どれだけ長く生きられるか、どれだけ良い状態で生活できるかという点です。
そのため、治療法を選択する際には、奏功率だけでなく、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、生活の質(QOL)なども含めて総合的に判断する必要があります。
パフォーマンスステータス(PS)による全身状態の評価
治療効果の判定とともに重要なのが、患者さんの全身状態を評価する指標です。これをパフォーマンスステータス(Performance Status:PS)といいます。
2026年現在、最も広く使用されているのは、ECOG(米国東海岸癌臨床試験グループ)が定めたECOG PSです。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)による日本語訳が標準的に使用されています。
| PS | 全身状態の説明 | 日常生活への影響 |
|---|---|---|
| PS 0 | まったく問題なく活動できる | 発症前と同じ日常生活が制限なく行える |
| PS 1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で軽作業や座っての作業は行える | 軽い家事や事務作業は可能 |
| PS 2 | 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない | 日中の50%以上はベッド外で過ごす |
| PS 3 | 限られた自分の身の回りのことしかできない | 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす |
| PS 4 | まったく動けない | 自分の身の回りのことができず、完全にベッド上の生活 |
PSと治療方針の関係
パフォーマンスステータスは、治療方針を決定する上で重要な役割を果たします。一般的に、積極的な治療(手術、化学療法、放射線療法)を行うことができるのは、PS 0から2の患者さんです。
PS 3以上の患者さんでは、治療による身体的負担が効果を上回る可能性があるため、慎重な検討が必要になります。ただし、治療効果が高いことが期待される特定のがん(卵巣がん、胚細胞腫瘍、血液腫瘍など)や、効果的な分子標的薬がある場合は、PSが不良でも治療を行うことがあります。
2025年に発表された研究では、ECOG PSは単なる治療適応の指標にとどまらず、患者さんの予後を予測する独立した因子であることが確認されています。上部尿路がん患者2,473例を対象とした大規模研究では、ECOG PS 2以上の患者さんは、PS 0から1の患者さんと比較して予後が不良であることが示されました。
2026年の最新動向|免疫療法時代の評価基準
近年のがん治療において、免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法が広く使用されるようになってきました。免疫療法には従来の化学療法とは異なる特徴的な反応パターンがあります。
擬似進行(Pseudo-progression)とは
免疫療法では「擬似進行」と呼ばれる現象が起こることがあります。これは、免疫細胞ががん組織に浸潤することで一時的に腫瘍が大きくなって見えるものの、その後縮小に転じるという現象です。
従来のRECIST 1.1基準では、この擬似進行を「進行(PD)」と判定してしまう可能性があり、有効な治療を中止してしまうリスクがありました。
iRECIST基準の開発
この問題に対応するため、2016年に免疫療法に特化した評価基準「iRECIST」が開発されました。iRECISTでは、新しい病変が出現した場合や腫瘍が増大した場合でも、すぐに進行と判定せず、次回の画像検査で確認してから最終判定を行います。
2025年から2026年にかけて発表された研究論文では、iRECISTの臨床実装に関する詳細なガイドラインや実例が報告されています。ただし、iRECISTは複雑で実施が難しい面もあり、現在も標準化に向けた取り組みが続いています。
放射線治療における評価基準
放射線治療後の評価についても、従来のRECIST基準では不十分な場合があることが分かってきました。2024年から2025年にかけて、肝臓がんに対する放射線治療の効果を評価するための新しい基準「LI-RADS radiation treatment response assessment v2024」が開発されています。
この基準は、放射線治療特有の画像変化や遅延反応パターンに対応しており、より正確な治療効果判定が可能になると期待されています。
患者さんが治療効果判定について知っておくべきこと
治療効果の判定について、患者さんとご家族が理解しておくべき重要なポイントをまとめます。
1. 評価基準は画像診断による客観的指標
CR、PR、SD、PDという分類は、CT検査やMRI検査などの画像診断に基づいた客観的な評価です。医師の主観的な判断ではなく、測定可能な数値に基づいて判定されます。
2. 完全奏功(CR)は完治を意味しない
画像検査でがんが見えなくなっても、微小ながん細胞が残っている可能性があります。そのため、完全奏功後も定期的な経過観察が重要です。
3. 安定(SD)も治療効果の一つ
がんが縮小していなくても、進行を抑えているという意味では治療効果があります。特に進行が速いがんの場合、病状を安定させることは重要な治療目標になります。
4. 治療方針は総合的に判断される
治療効果の判定結果だけでなく、パフォーマンスステータス、副作用の程度、患者さんの希望なども含めて、総合的に治療方針が決定されます。
5. 定期的な評価が重要
治療効果は一度の検査だけでなく、定期的に評価されます。RECIST基準では、治療効果の確認には通常4週間以上の間隔をあけた2回の測定が必要とされています。
まとめ
がん治療における効果測定基準は、治療方針を決定し、患者さんの状態を正確に把握するために不可欠なものです。完全奏功(CR)、部分奏功(PR)、安定(SD)、進行(PD)という4つの分類を理解することで、医師からの説明をより正確に理解できるようになります。
また、パフォーマンスステータス(PS)は全身状態を評価する重要な指標であり、治療適応の判断や予後予測に用いられます。
2026年現在、免疫療法の普及に伴いiRECISTなどの新しい評価基準も開発されており、より精密な治療効果判定が可能になってきています。
治療効果の判定結果について疑問や不安がある場合は、遠慮せずに担当医に質問することが大切です。正確な理解に基づいて、最適な治療を選択しましょう。
参考文献・出典情報
- RECIST レシスト | がん情報サイト「オンコロ」
- 日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)
- 治療効果判定 | 国立がん研究センター がん情報サービス
- 奏効率 | 国立がん研究センター がん情報サービス
- ECOGのPerformance Status(PS)の日本語訳 | JCOG
- パフォーマンスステータス(PS)について | おしえて 肺がんのコト
- ECOG PS;Performance Status | がん情報サイト「オンコロ」
- 奏効率・奏効期間 | がん情報サイト「オンコロ」
- iRECIST: A Case Based Users Guide for Radiologists. Can Assoc Radiol J. 2026 Feb
- Evaluation of the LI-RADS radiation treatment response assessment v2024. Eur Radiol. 2025 Dec