乳がんの標準治療で使われている主な抗がん剤の種類は次のとおりです。
・アンスラサイクリン系薬剤
抗がん性抗生物質の1つで、DNA合成阻害剤です。乳がん治療に最もよく使用されています。アドリアマイシン(略号Aを汎用)を含む併用療法にはACやCAF、エピルビシン(略号Eを汎用)を含む治療にはECやFECなどを3週毎に投与します。
・タキサン系薬剤
植物アルカロイドに属し、パクリタキセル(略号Pを汎用)またはドセタキセル(略号Dを汎用)があります。タキサン系薬剤は、細胞をかたちづくる際に重要な微小管に結合して抗腫瘍効果を発揮します。パクリタキセルは毎週投与または3週毎投与を、ドセタキセルは3週毎投与が標準治療です。
・サイクロフォスファミド
アルキル化剤の1つで、DNAを構成する核酸の塩基と呼ばれる部分にアルキル基を結合することで、細胞死に誘導します。AやE、またはタキサン系薬剤と併用して使います(略号Cを汎用)。
・5-フルオロウラシル
代謝拮抗剤の中のピリミジン拮抗剤の1つで、がん細胞の中で核酸合成を阻害します。AやE、またはCと併用して使います(略号Fを汎用)。
・メトトレキサー卜
代謝拮抗剤の中の葉酸拮抗剤の1つで、やはり核酸合成を阻害します(略号Mを汎用)。CとFと組み合わせたCMF療法は乳がんの化学療法の元祖です。アンスラサイクリン系やタキサン系に主役を奪われた感はありますが、高齢者の人や悪性度の高くない人に投与されています。
※抗がん剤の量は身長と体重で決められます
抗がん剤の量は、通常「体表面積当たり何mg」という表し方をします。体表面積は身長と体重から計算します。身長160cm、体重50kgの人では、1.5m2となります。これは投与量を、1人ひとりの体格に合わせて決めるためです。
代表的な副作用について
術前化学療法でも術後化学療法でも、1剤のみの抗がん剤を使うことはほとんどなく、多剤併用といって作用の異なる抗がん剤を2、3種類併せて使用する方法が標準治療です。よく起こる副作用は次のとおりです。
・血液毒性
最も多く見られる副作用です。体の抵抗力の指標である白血球(特に好中球)や酸素と二酸化炭素の運搬役である赤血球などが減少します。抗がん剤の投与後7日から12日目あたりに好中球が減少します。極度に好中球が減少した場合や感染がなくても38度を超える高熱が出た場合には、顆粒球コロニー刺激因子を投与したり、抗生物質を内服したりして、感染に対する予防処置を施します。
・吐き気・嘔吐
吐き気や嘔吐は、抗がん剤の投与量にもよりますが、現在は制吐剤やステロイド剤によってほぼコントロールできます。
・神経毒性
パクリタキセルなどで出現しますが、今のところ十分なコントロール方法はありません。副作用対策として精神科領域の薬や漢方が試みられています。治療終了後、半年くらいで副作用はほぼなくなってきます。
・口内炎
程度の差こそあれ、化学療法中に約半数の人が経験します。うがい薬や軟膏で治療します。
・全身倦怠
ドセタキセルなど、多くの抗がん剤で見られます。ただし、抗がん剤の治療を受ける心の反応からも起こり得ます。
・アレルギーによる過敏性反応
タキソールやタキソテールを使った場合、数パーセントの患者さんで重篤なアレルギー反応が出るので、投与に当たっては、あらかじめアレルギー反応を抑える薬を投与して細心の注意を払います。
・血管に対するダメージ
点滴が血管の外に漏れてしまって、点滴しているところが腫れてしまうような場合は、炎症を取る軟膏を塗ります。処置が遅れて、その部分にひどい潰瘍ができた場合は、皮膚移植が必要となることもあります。
・脱毛
アンスラサクリン系薬剤、タキサン系薬剤において脱毛は必発です。最初の点滴開始の15~16日目ごろから抜け始め、ほとんどの毛髪が抜けます。しかし、点滴が終了するころには発毛が始まります。