
チョコレート嚢胞
チョコレート嚢胞とは
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
チョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)は、子宮内膜症の一種で、本来子宮の内側にあるべき子宮内膜に似た組織が卵巣に発生する病気です。卵巣内で月経周期に合わせて出血を繰り返しますが、血液が体外に排出されず、卵巣内に古い血液が溜まっていきます。
この古い血液は時間が経つと酸化し、チョコレートのような茶褐色でドロドロとした状態になることから「チョコレート嚢胞」と呼ばれています。卵巣内で袋状の構造(嚢胞)を形成し、徐々に大きくなることがあります。
子宮内膜症の発生部位と分類
子宮内膜症は、子宮内膜の組織が子宮以外の場所で発生・増殖する病気です。発生する場所により、外性子宮内膜症と内性子宮内膜症に分類されます。
外性子宮内膜症は、卵巣、卵管、ダグラス窩(子宮と直腸の間の腹膜)、仙骨子宮靱帯、膀胱、直腸などの骨盤内臓器に発生します。まれに肺や横隔膜、リンパ節などにも見られることがあります。
内性子宮内膜症は子宮腺筋症とも呼ばれ、子宮の筋肉層(筋層)に子宮内膜組織が入り込んで発生するものです。子宮全体が大きくなり、月経痛や過多月経の原因となります。
チョコレート嚢胞の発生メカニズムと原因
チョコレート嚢胞を含む子宮内膜症の正確な発生原因は、2026年現在でも完全には解明されていません。いくつかの仮説が提唱されています。
月経血逆流説
最も有力な説の一つが月経血逆流説です。月経時には、子宮内膜が剥がれ落ちて経血として体外に排出されます。しかし、この経血の一部が卵管を通って腹腔内に逆流し、卵巣などの臓器に付着・生着するという考え方です。
月経血の逆流自体は多くの女性に起こるとされていますが、すべての人が子宮内膜症になるわけではありません。そのため、逆流した組織がなぜ生着し増殖するのかについて、免疫系の異常や遺伝的要因など、他の要因も関わっていると考えられています。
体腔上皮化生説
腹膜が何らかの刺激により、子宮内膜に似た組織に変化するという説です。すべてのケースをこの説で説明することは難しいとされています。
エストロゲンの影響
子宮内膜症の発生と進行には、女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が深く関与していることが分かっています。エストロゲンの影響で子宮内膜組織が増殖するため、エストロゲン分泌量の多い20~40代の女性に発症しやすい特徴があります。
生殖年齢の女性の約10%が子宮内膜症にかかると推定されており、近年は増加傾向にあります。
現代女性の生活環境と発症リスク
子宮内膜症の増加には、現代女性の出産状況が影響していると考えられています。
初婚年齢が上昇し(現在は平均29歳前後)、出産回数も減少しています。その結果、一生に経験する月経の総回数が増加しています。100年前の女性の月経回数が約50回だったのに対し、現代女性は約450回と9倍に増えています。
妊娠・授乳期間中は月経がなく、この間は黄体ホルモン(プロゲステロン)が多く分泌され、エストロゲンの分泌量は相対的に少なくなります。これが子宮内膜症の発症を抑える効果があるとされています。
月経の回数が多く、エストロゲンの総量が多い女性ほど、子宮内膜症を発症しやすく、悪化するリスクも高まることが分かっています。
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
がん治療。
何を信じれば?
不安と恐怖で苦しい。
がん治療を左右するのは
治療法より“たった1つの条件”です。
まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
チョコレート嚢胞の症状
チョコレート嚢胞の症状は、一般的な子宮内膜症の症状と類似していますが、他の部位にできる内膜症よりも症状が強いことがあります。
主な症状一覧
| 症状 | 詳細 | 発現頻度 |
|---|---|---|
| 月経痛(月経困難症) | 年々悪化する傾向がある。月経開始数日前から始まり、月経後も続くことがある。市販の鎮痛剤が効きにくくなる | 約90% |
| 慢性骨盤痛 | 月経時以外にも持続する下腹部痛や腰痛 | 多い |
| 性交痛 | 性交時や性交後に感じる痛み | 中程度 |
| 排便痛 | 月経時を中心に排便時に感じる痛み | 中程度 |
| 不妊 | 卵巣機能の低下や癒着による卵管の閉塞などが原因 | 30~50% |
| 過多月経 | 月経時の出血量が多くなる | あり |
小さなチョコレート嚢胞の場合、無症状のこともあり、他の検査時に偶然発見されることもあります。
痛みの特徴
チョコレート嚢胞は徐々に大きくなり、骨盤内の他の臓器(腸管、膀胱、腹膜など)と癒着を起こします。この癒着が、日常生活に支障をきたすほどの激しい痛みの原因となることがあります。
月経痛は最も一般的な症状で、以前よりも生理痛がひどくなった、痛みのパターンが変わった(月経前から痛みが始まり、月経後も続く)といった変化が見られます。
不妊との関連
チョコレート嚢胞を含む子宮内膜症は、不妊症の重要な原因の一つです。子宮内膜症の女性の妊娠率は一般的に24~50%程度とされており、重症例では10%以下に低下することもあります。
不妊の原因として以下が考えられています:
・炎症による卵管の癒着や閉塞で、卵子が卵管に取り込まれにくくなる
・卵巣内の慢性炎症により、卵巣機能と卵子の質が低下する
・腹腔内の炎症環境が受精や着床を妨げる可能性
子宮内膜症患者さんの1回の排卵あたりの妊娠率は2~10%と、正常女性の15~20%と比較して低下します。
ストレスとチョコレート嚢胞の関係
ストレスが直接的にチョコレート嚢胞や子宮内膜症を引き起こすという科学的証拠は、現時点では確立されていません。しかし、ストレスと子宮内膜症には間接的な関連性が指摘されています。
ストレスとホルモンバランス
ストレスはホルモンバランスを乱す要因となります。慢性的なストレスは、以下のような影響を及ぼす可能性があります:
・エストロゲン優位の状態を作り出す
・黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が相対的に低下する
・結果として、子宮内膜症の進行や症状の悪化につながる可能性
つまり、「ストレス → エストロゲン優位化 → 内膜症悪化 → チョコレート嚢胞の増大」という間接的な関連はあり得ると考えられています。
子宮内膜症患者さんが感じる症状
研究によると、子宮内膜症の患者さんは以下の症状を自覚する頻度が、内膜症でない方と比べて有意に高いことが示されています:
・慢性疲労
・慢性疼痛
・不眠症
・抑うつ症状
・仕事上のストレス
興味深いことに、子宮内膜症の重症度(ステージ)と慢性疲労の頻度には相関がなく、子宮内膜症があるかどうかという点が慢性疲労の有無を規定することが分かっています。つまり、軽症でも重症でも、子宮内膜症があるだけで疲労の原因になり得るということです。
これらの不快症状が、患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させる要因となっています。
チョコレート嚢胞の診断方法
チョコレート嚢胞の診断には、問診、内診、画像検査、血液検査などが用いられます。
診断の流れ
| 検査項目 | 内容 |
|---|---|
| 問診 | 月経痛の程度、痛みの時期、不妊期間、家族歴などを確認 |
| 内診・直腸診 | 子宮の大きさ、可動性、圧痛の有無、ダグラス窩の硬結、卵巣の腫大などをチェック |
| 経腟超音波検査 | 子宮や卵巣の状態を詳しく観察。チョコレート嚢胞は内部がスリガラス状に見える特徴がある |
| MRI検査 | 血液の流れや内容物の性状を詳しく診断。悪性腫瘍との鑑別に有用 |
| 血液検査(腫瘍マーカー) | CA125、CA19-9などが上昇することがある。ただし初期や軽度の内膜症では陽性にならないことも多い |
| 腹腔鏡検査 | 確定診断のための検査。お腹の中を直接観察し、同時に治療も可能 |
数センチ以上の大きさがあれば、経腟超音波検査で比較的容易に診断が可能です。実際の臨床では、腹腔鏡検査までは行わず、超音波やMRIなどの画像所見と症状から臨床的に診断し、治療を開始することが多くなっています。
CA125について
CA125は子宮内膜症で上昇することがありますが、月経時には非がんでも上昇することが多く、時に500 IU/mL以上を示すこともあります。そのため、月経期にCA125を測定することは避けるべきとされています。
また、がん化してもCA125が上昇しない場合があるため、マーカーのみに過信してはいけません。経過観察の補助的な指標として用いられます。
チョコレート嚢胞のがん化リスク
近年の研究により、チョコレート嚢胞から卵巣がん(類内膜腺がん、明細胞腺がん)が発症することが明らかになってきました。これは、チョコレート嚢胞の管理において重要な知見です。
がん化の頻度
日本の大規模疫学調査によると、臨床的に診断されたチョコレート嚢胞から、全体で0.72%(約140人に1人)の割合で卵巣がんが発生することが報告されています。
| 年齢層 | がん化率 |
|---|---|
| 30代 | 約1% |
| 40代 | 約4~4.1% |
| 50代 | 約22% |
| 嚢胞のサイズ | がん化率 |
|---|---|
| 3cm以下 | 0% |
| 6cm未満 | 低い |
| 6~10cm | やや高い |
| 10cm以上 | 4.8~10%以上 |
年齢が高いほど、嚢胞のサイズが大きいほど、がん化のリスクが高まることが分かっています。特に45歳以上で、嚢胞サイズが6cm以上の場合は、がん化しやすいという特徴があります。
がん化のメカニズム
チョコレート嚢胞で繰り返される出血に含まれる鉄による酸化ストレスが、内膜症細胞の遺伝子変異をもたらし、前がん病変を介して類内膜がんと明細胞がんが発生する可能性が指摘されています。
また、チョコレート嚢胞があると、特定の遺伝子に異常が起きるものがあることも明らかになってきました。
がん化を疑う所見
定期的な経過観察中に、以下のような変化が見られた場合、がん化を疑います:
・嚢胞のサイズが急激に増大する
・嚢胞内に隆起性病変(腫瘤)が出現する
・嚢胞内容液が黒くなる(スリガラス状から真っ黒に変化)
・隔壁の不整や肥厚が認められる
・造影MRIで造影効果が見られる
なお、嚢胞内の隆起性病変のほとんどは血腫や凝血塊であり、良性です。しかし、表面が不整であったり、2cmを超えるものは精密検査が必要です。
閉経後の管理
以前は、子宮内膜症は閉経すれば完治すると考えられていました。しかし、チョコレート嚢胞は閉経後に小さくはなりますが、完全に消失することは少なく、閉経後も卵巣がんを発生することが知られるようになりました。
そのため、閉経後も放置できず、定期的な検診が重要です。がん化のリスクを考慮し、閉経前に予防的な治療が実施されることが増えています。
チョコレート嚢胞の手術要件と基準
チョコレート嚢胞に対する手術の適応は、嚢胞のサイズだけでなく、患者さんの年齢、症状の程度、妊娠希望の有無、がん化のリスクなど、様々な要因を総合的に考慮して判断されます。
サイズによる手術基準
一般的な手術を検討する目安:
| 嚢胞サイズ | 推奨される対応 |
|---|---|
| 3cm未満 | 経過観察または薬物療法 |
| 3~4cm | 手術適応となり得る(年齢、症状、妊娠希望などを考慮) |
| 5~6cm以上 | 手術が積極的に検討される(破裂、茎捻転、がん化のリスク増加) |
| 10cm以上 | 手術が強く推奨される(破裂・がん化のリスクが著しく高い) |
年齢による手術基準
| 年齢 | 嚢胞サイズ | 推奨される対応 |
|---|---|---|
| 40歳未満 | 4cm未満 | 薬物療法または経過観察 |
| 40歳未満 | 4cm以上 | 妊娠希望の有無、症状により手術を検討 |
| 40歳以上 | 4cm以上 | がん化予防のため手術が推奨される |
| 40歳以上 | 6cm以上 | 手術が強く推奨される |
40歳以上の方で卵巣内膜症性嚢胞が4cmを超える場合は、がん化の防止のために病気のある側の卵巣を全て摘出することを勧めることがあります。
その他の手術適応
サイズが小さくても、以下のような場合は手術が検討されます:
・月経痛や慢性骨盤痛が強く、薬物療法で改善しない
・不妊の原因として強く疑われる
・嚢胞が破裂した、または破裂のリスクが高い
・感染を起こした
・急激にサイズが増大している
・がん化を疑う所見がある
逆に、サイズが大きくても症状がなく、閉経が近い年齢であれば、慎重な経過観察を続けるという選択肢もあります。
手術のタイミングと妊娠希望
妊娠を希望する場合、手術のタイミングは慎重に検討する必要があります。
20代から30代前半で妊娠希望が1年未満、嚢胞が4cm未満の場合:まずは1年をめどに早期の妊娠を目指します。妊娠しない場合、不妊治療を考慮します。
妊娠希望が1年以上あり、嚢胞が4cm以上の場合:手術を行った後に不妊治療を行い、半年以内の妊娠を目指します。
30代後半から40代の場合:高度生殖補助医療(体外受精など)を優先させることが多くなっています。妊娠に至らない場合や嚢胞が増大傾向を示した場合に手術を検討します。
卵巣予備能(AMH値)を測定し、十分な予備能がある場合は手術を先行し、予備能が低下している場合は、先に体外受精で受精卵を凍結保存してから手術を行う方法もあります。
チョコレート嚢胞の治療法
チョコレート嚢胞の治療は、大きく分けて「経過観察」「薬物療法」「手術療法」の3つがあります。患者さんの年齢、症状、妊娠希望の有無、嚢胞のサイズ、がん化のリスクなどを総合的に考慮して、個別に治療方針を決定します。
経過観察
小さな嚢胞で症状がない、または軽度の場合は、定期的な検診による経過観察を行います。
経過観察の間隔:
・診断後最初は月経周期を考慮して1~3ヶ月後
・以後3~6ヶ月ごとに超音波検査を実施
・サイズの変化、内部の性状、隆起性病変の有無などをチェック
薬物療法
薬物療法の目的は、痛みの緩和と病気の進行抑制です。妊娠を希望しない場合に適用されます。
対症療法
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):月経痛などの痛みを和らげる
・鎮痙剤:筋肉の緊張をほぐし痛みを軽減
・漢方薬:体質改善を目指す
これらは症状を和らげますが、病気の進行を防ぐ作用はありません。排卵を抑えないため、薬を服用しながら妊活を行うこともできます。
ホルモン療法
| 薬剤 | 対象年齢 | 特徴 | 副作用・注意点 |
|---|---|---|---|
| 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(低用量ピル) | 10代後半~30代 | 価格が比較的安く、長期使用可能。高い疼痛改善効果と嚢胞縮小効果がある | 血栓症のリスクがあるため、40代以降は慎重に使用 |
| 黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト) | 40代以降も使用可 | 高い治療効果。嚢胞を小さくする効果が期待できる。血栓症リスクが低い | 不正子宮出血が続くことがある。子宮腺筋症では大量出血のリスク |
| 黄体ホルモン放出子宮内システム(ミレーナ) | 経産婦に適応 | 子宮内膜症による痛みを軽減 | 病巣を縮小させる効果は明らかでない |
| GnRHアゴニスト・アンタゴニスト | 一時的使用 | 薬物療法の中で最も効果が高い。月経を完全に止める | 更年期症状、骨量減少などの副作用。使用期間は最大6ヶ月のみ。治療終了後に再増大する可能性 |
一般的には、まず低用量ピルを3~6ヶ月処方し、症状の改善を見ながら治療方針を検討します。低用量ピルは生殖年齢の女性にとって使いやすく、その間に患者さん自身が今後の治療について考える時間を得られるメリットがあります。
薬物療法中に症状や病態が悪化した場合は、手術療法への移行を検討します。
手術療法
薬物療法でコントロールできない場合、嚢胞が一定以上の大きさになった場合、がん化が疑われる場合などに実施されます。
手術方法の種類
| 手術法 | 内容 | 対象 | メリット・デメリット |
|---|---|---|---|
| 嚢胞摘出術(核出術) | 嚢胞のみを摘出し、正常な卵巣組織を温存 | 妊娠を希望する方 | 卵巣機能を温存できる。ただし再発のリスクがあり(2~3割)、正常卵巣組織も一部摘出されるため卵巣予備能が低下する可能性 |
| 付属器摘出術 | 病気のある側の卵巣と卵管を全て摘出 | 妊娠を希望しない方、がん化のリスクが高い方 | 再発の心配がない。片側の卵巣が残れば妊娠は可能 |
| 子宮全摘出術+両側付属器摘出術 | 子宮と両側の卵巣・卵管を摘出 | 妊娠を希望せず、症状が重い方 | 根治的。再発はない。閉経状態になり、更年期症状への対応が必要 |
腹腔鏡手術と開腹手術
現在は、多くの場合、腹腔鏡手術(お腹に小さな穴を数カ所開けて内視鏡を使って行う手術)が第一選択となっています。
腹腔鏡手術のメリット:
・傷が小さく、術後の痛みが少ない
・入院期間が短い
・回復が早い
・拡大視野で精密な手術が可能
ただし、以下の場合は開腹手術が選択されることもあります:
・嚢胞が極めて大きい
・周囲との癒着が強い
・悪性の可能性がある
手術と卵巣機能への影響
チョコレート嚢胞の手術、特に嚢胞摘出術では、摘出する嚢胞壁に正常卵巣組織が付着してしまうことがあります。また、残存卵巣からの出血を止血するために電気メスを使用することで、卵巣組織にダメージを与える可能性があります。
これにより、手術後に卵巣予備能の指標であるAMH(抗ミュラー管ホルモン)が低下することが複数の研究で報告されています。特に30~40歳で術後にAMHが低下することが分かっています。
そのため、妊娠を希望する方には、手術前にAMH値を測定し、卵巣予備能を評価することが推奨されます。卵巣機能の低下を最小限にするため、拡大視野のもと繊細な手技で卵巣の正常部分を最大限温存する工夫が行われています。
術後の管理
手術後も再発予防のため、薬物療法(低用量ピルや黄体ホルモン製剤)を継続することが推奨されます。妊娠を希望する場合は、術後できるだけ早期に妊娠を目指します。
チョコレート嚢胞の破裂と感染
チョコレート嚢胞は、破裂や感染を起こすことがあり、これらは緊急の対応が必要となる合併症です。
破裂
チョコレート嚢胞の破裂は約2.2%の頻度で起こるとされています。嚢胞が大きくなると、物理的に壁が薄くなり、些細な衝撃や腹圧の上昇でも破れやすくなります。
破裂すると、嚢胞の内容物(古い血液)が腹腔内に漏れ出し、強い炎症を起こして激しい腹痛を伴います。急性腹症として、緊急手術が必要となることがあります。
急性虫垂炎(盲腸)として緊急手術中に、チョコレート嚢胞の破裂が発見されることも珍しくありません。
感染
嚢胞に細菌感染を起こすと、強い腹痛と発熱を伴います。抗生物質による治療が必要ですが、症状が重い場合は手術が検討されます。
妊娠中のチョコレート嚢胞は、非妊娠時に比べて感染や破裂などのトラブルを起こす可能性が高くなることが知られています。そのため、妊娠前にチョコレート嚢胞の存在が分かっている場合は、妊娠前の治療を検討することが推奨されます。
定期検診の重要性
チョコレート嚢胞の管理において最も重要なことは、定期的に婦人科検診を受け、専門医による経過観察を続けることです。
定期検診で確認すること
・嚢胞のサイズの変化
・嚢胞内部の性状の変化
・隆起性病変の有無
・周囲臓器との癒着の程度
・腫瘍マーカー(CA125など)の推移
超音波検査を用いることで、これらの変化を客観的に追跡できます。
がん化を見逃さないために
チョコレート嚢胞と診断され、手術をせずに経過観察を行う場合は、最初は月経周期を考慮して1~3ヶ月後、以後3~6ヶ月ごとに経過観察を行うことが推奨されています。
多くの場合、がん化を疑った時には嚢胞が増大していますが、サイズの変化がほとんど見られずに、嚢胞内に隆起性病変が認められ、手術によりがん化を確認した例もあります。
そのため、サイズだけでなく、内部の変化にも注意を払う必要があります。
生活習慣とチョコレート嚢胞
チョコレート嚢胞自体を生活習慣で治すことはできませんが、症状の緩和や進行の抑制に役立つ可能性のある生活習慣があります。
推奨される生活習慣
・ストレス管理:十分な睡眠、リラクゼーション、適度な休息
・バランスの取れた食事:栄養バランスを考えた食生活
・適度な運動:無理のない範囲での運動習慣
・体を冷やさない:冷えは血行を悪化させる可能性
・定期的な婦人科検診:早期発見と適切な管理のために重要
これらは直接的な治療効果があるわけではありませんが、ホルモンバランスを整え、体調を維持することで、症状の悪化を防ぐ助けとなる可能性があります。
妊娠とチョコレート嚢胞
チョコレート嚢胞があっても、自然妊娠は可能です。実際に、多くの患者さんが妊娠・出産されています。
妊娠による嚢胞への影響
興味深いことに、チョコレート嚢胞は妊娠すると縮小することが知られています。妊娠中および授乳中は月経が停止するため、この間に嚢胞が改善に向かうことがあります。
そのため、妊娠を希望する方では、できるだけ早く妊娠することを目指すことが推奨されます。
不妊治療の選択
チョコレート嚢胞を伴う不妊症の治療には、以下の選択肢があります:
・タイミング法
・人工授精
・体外受精(IVF)
・顕微授精(ICSI)
治療法の選択は、年齢、子宮内膜症の程度、不妊期間、卵巣予備能(AMH)などを考慮して、個別に決定されます。
大きなチョコレート嚢胞がある場合、体外受精における採卵が技術的に難しかったり、採卵に伴う感染のリスクもあります。リスクとベネフィットをよく相談した上で治療方針を決めることが大切です。
子宮内膜症との長期的な付き合い方
子宮内膜症は、閉経まで続く慢性疾患です。月経が繰り返されるたびに進行する可能性があり、閉経まで完治しないという特徴があります。
そのため、患者さん自身が病気を理解し、閉経までうまく付き合っていくことが大切です。痛みをコントロールし、望むなら妊娠できるよう、医師と一緒に治療をデザインしていくことが重要です。
年代別の対応
10代:月経困難症は将来の子宮内膜症の予備軍である可能性があります。月経痛の改善と不妊症の予防のため、早い段階からの低用量ピルの服用が推奨されることがあります。
20~30代:妊娠希望の有無により治療方針が大きく異なります。妊娠を希望する場合は、早期の妊娠を目指し、必要に応じて不妊治療を検討します。妊娠を希望しない場合は、低用量ピルや黄体ホルモン製剤による症状コントロールが中心となります。
40代以降:がん化のリスクが高まるため、定期的な検診がより重要になります。嚢胞のサイズや症状に応じて、手術も検討されます。閉経が近い場合は、閉経まで薬物療法で管理することもあります。
個別化医療の重要性
従来のガイドラインではチョコレート嚢胞に対して最初に手術を推奨していましたが、現在は卵巣機能を考慮した個別化治療が主流になっています。
患者さん一人ひとりのライフステージ、年齢、症状、妊娠希望の有無、卵巣予備能などを総合的に評価し、その人にとってベストな治療法を選択することが重要です。
治療方針は施設によっても異なるため、主治医とよく相談し、セカンドオピニオンを求めることも一つの選択肢です。
チョコレート嚢胞に関する最新の知見(2026年現在)
医学の進歩により、チョコレート嚢胞に関する理解は深まり続けています。
分子マーカーの研究
がん化を早期に発見するための分子マーカーの研究が進行中です。将来的には、血液検査などでより正確にがん化のリスクを評価できる可能性があります。
新規治療薬の開発
選択的プロゲステロン受容体モジュレーター(SPRMs)など、新しい作用機序を持つ薬剤の臨床試験が進行しています。これらの薬剤は、既存の治療薬よりも効果が高く、副作用が少ない可能性があります。
手術技術の進歩
拡大視野での精密な腹腔鏡手術により、卵巣機能の温存がより良好になってきています。レーザーを用いる方法やアルコール固定法など、卵巣へのダメージを軽減する技術も研究されています。
画像診断の進歩
MRIの拡散強調画像やADC(見かけの拡散係数)マップを用いることで、良性の凝血塊とがん化による隆起性病変をより正確に鑑別できるようになってきています。
参考文献・出典情報
2. 日本婦人科腫瘍学会 子宮内膜症(卵巣がんとの関係について)