
はじめに
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
子宮体がんの治療において、薬物療法(化学療法)は重要な役割を果たしています。手術後の再発予防や、進行がん・再発がんに対する治療として、様々な抗がん剤が使用されています。
近年、子宮体がんの薬物療法は大きく進歩しています。従来の殺細胞性抗がん剤に加えて、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬などの新しい薬剤が承認され、治療選択肢が広がっています。
この記事では、子宮体がんで使用される抗がん剤の種類と名前、それぞれの特徴や副作用、治療費用について、2026年時点の最新情報をもとに詳しく解説します。
子宮体がんの薬物療法の基本
子宮体がんにおける薬物療法は、主に以下の3つの目的で行われます。
1つ目は、手術後の再発予防を目的とした術後補助療法です。ステージ3期以上やリスクが高いと判断された患者さんに対して、手術後に抗がん剤治療を行うことで再発のリスクを減らすことを目指します。
2つ目は、進行がんや再発がんに対する治療です。手術で完全に取り除けなかった病変や、治療後に再発したがんに対して、がんの進行を抑え、症状を和らげることを目的とします。
3つ目は、手術前の治療です。がんが進行していて手術が困難な場合に、抗がん剤でがんを小さくして手術可能な状態にすることを狙います。
子宮体がんの薬物療法では、通常、複数の抗がん剤を組み合わせて使用する「多剤併用療法」が行われます。これは、単剤で使用するよりも効果が高く、また薬剤耐性が生じにくいという利点があるためです。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
子宮体がんで使われる主な抗がん剤の種類と特徴
プラチナ製剤
プラチナ製剤は、子宮体がんの薬物療法において最も重要な薬剤の1つです。がん細胞のDNAに作用して細胞分裂を妨げることで、がん細胞の増殖を抑えます。
シスプラチン(製品名:ブリプラチン、ランダ)は、プラチナ製剤の代表格です。高い抗腫瘍効果がある一方で、吐き気や腎機能への影響などの副作用があります。
カルボプラチン(製品名:パラプラチン)は、シスプラチンと同程度の効果があり、副作用が比較的軽いという特徴があります。腎機能への負担が少なく、吐き気も軽減されているため、最近ではカルボプラチンを使用する治療法が増えています。
アンスラサイクリン系抗がん性抗生物質
アドリアマイシン(一般名:ドキソルビシン、製品名:アドリアシン)は、放線菌を培養してつくられた抗がん性抗生物質で、子宮体がんの「キードラッグ(鍵となる薬)」として長く使用されてきました。がん細胞のDNA合成を阻害することで効果を発揮します。
ただし、ある程度以上の量を使用すると心臓にダメージを与え、心不全などを起こす可能性があるため、総投与量は500mg/m²までに制限されています。
エピルビシン(製品名:ファルモルビシン)は、アドリアマイシンの欠点を改善すべく開発された薬剤です。心臓に対する影響や骨髄抑制がアドリアマイシンより少ないという利点があります。
タキサン系製剤
タキサン系製剤は、細胞分裂に必要な微小管の働きを阻害することでがん細胞の増殖を抑えます。子宮体がんに対して高い効果が確認されています。
パクリタキセル(製品名:タキソールなど)は、イチイの樹皮から抽出された成分をもとに開発された薬剤です。多くのがん種で使用されており、子宮体がんにおいても標準的な治療薬の1つとなっています。
ドセタキセル(製品名:タキソテール)は、パクリタキセルと同じタキサン系の薬剤で、同様の作用機序を持ちます。
その他の殺細胞性抗がん剤
フルオロウラシル(5-FU、製品名:5-FU)は、代謝拮抗薬に分類される抗がん剤です。DNA合成を阻害することでがん細胞の増殖を抑えます。
シクロホスファミド(製品名:エンドキサン)は、アルキル化剤に分類される薬剤で、DNAに直接作用してがん細胞を攻撃します。
| 薬剤分類 | 一般名 | 製品名 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| プラチナ製剤 | シスプラチン | ブリプラチン、ランダ | 高い抗腫瘍効果、吐き気や腎機能への影響に注意 |
| プラチナ製剤 | カルボプラチン | パラプラチン | シスプラチンと同程度の効果で副作用が軽い |
| 抗がん性抗生物質 | ドキソルビシン | アドリアシン | 子宮体がんのキードラッグ、心臓への影響に注意 |
| 抗がん性抗生物質 | エピルビシン | ファルモルビシン | 心臓への影響がドキソルビシンより少ない |
| タキサン系 | パクリタキセル | タキソール | 微小管阻害により細胞分裂を抑制 |
| タキサン系 | ドセタキセル | タキソテール | パクリタキセルと同様の作用機序 |
| 代謝拮抗薬 | フルオロウラシル | 5-FU | DNA合成を阻害 |
| アルキル化剤 | シクロホスファミド | エンドキサン | DNAに直接作用 |
子宮体がんの標準的な併用療法
AP療法(アドリアマイシン+シスプラチン)
AP療法は、アドリアマイシンとシスプラチンを組み合わせた治療法です。2006年にアメリカで行われた臨床試験で、放射線療法と比較してAP療法の方が生存率で優れているという結果が報告され、子宮体がんの化学療法が広がるきっかけとなりました。
現在でもAP療法は世界標準の治療法の1つであり、術後化学療法でも全身化学療法でも第1選択とされています。
TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)
TC療法は、パクリタキセルとカルボプラチンを組み合わせた治療法です。AP療法と同等の効果があり、副作用が少ないという特徴があります。
最近では、副作用が比較的軽いTC療法が選択されることが増えています。国立がん研究センター中央病院などでも、ステージ3期以上の患者さんに対して、AP療法またはTC療法を3週間ごとに6回行う治療が標準的に実施されています。
その他の併用療法
DP療法(ドセタキセル+シスプラチン)は、ドセタキセルとシスプラチンを組み合わせた治療法です。
TAP療法(パクリタキセル+アドリアマイシン+シスプラチン)は、3剤を併用する治療法で、AP療法より治療効果が高いことが証明されましたが、副作用が強く出てしまったため普及しませんでした。
現在、日本ではAP療法、TC療法、DP療法の3つの多剤併用療法を比較する臨床試験が進められています。
最新の免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬
ペムブロリズマブ(キイトルーダ)
ペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)は、免疫チェックポイント阻害薬の1つです。がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れるために使う仕組みを阻害することで、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにします。
2024年12月、キイトルーダは進行・再発の子宮体がんに対する一次療法において、化学療法(パクリタキセル+カルボプラチン)との併用で承認を取得しました。特に、ミスマッチ修復(MMR)欠損を有する患者さんで高い効果が期待されています。
また、術後の化学療法にキイトルーダを併用することで、dMMR(DNA修復異常)が見られる患者さんの生存率が向上するという臨床試験結果も報告されています。
レンバチニブ(レンビマ)+ペムブロリズマブ(キイトルーダ)併用療法
殺細胞性抗がん剤による治療後に増悪が見られ、切除が困難な進行・再発の子宮体がんにおいては、分子標的薬であるレンバチニブ(製品名:レンビマ)と免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブの併用療法が治療の選択肢となります。
レンバチニブは血管新生を阻害することでがんの増殖を抑える薬剤で、キイトルーダとの併用により相乗効果が期待されます。
デュルバルマブ(イミフィンジ)+オラパリブ(リムパーザ)併用療法
2024年11月、免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)とPARP阻害薬のオラパリブ(製品名:リムパーザ)の併用療法が、進行または再発の子宮体がんの治療薬として日本で承認されました。
この併用療法は、新たに診断された進行または再発子宮体がん患者さんにおいて、標準治療である化学療法単独と比較して、無増悪生存期間の延長を示しています。
MSI-H/dMMR検査の重要性
免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するために、MSI-H(マイクロサテライト不安定性が高い)やdMMR(ミスマッチ修復機構欠損)の検査が行われます。
子宮体がんの約20~30%でdMMRが見られるとされており、これらの患者さんでは免疫チェックポイント阻害薬が高い効果を示すことが分かっています。
ホルモン療法
子宮体がんの多くは、エストロゲンというホルモンの影響を受けて発生・増殖します。そのため、エストロゲンの作用を抑える黄体ホルモン剤を使用するホルモン療法が有効です。
メドロキシプロゲステロン(MPA、製品名:ヒスロンH)という錠剤の黄体ホルモン剤が通常用いられます。ホルモン療法は、がん化の一歩手前の段階(子宮内膜異型増殖症)やごく早期の子宮体がんで、妊娠を希望する若い患者さんに対して、妊孕性(妊娠する能力)を温存する治療として選択されることがあります。
ただし、副作用の1つに血栓症があるため、過去に血栓症の既往歴がある方や、リスクのある方は、予防的に抗血小板薬を一緒に服用します。
薬物療法の主な副作用
抗がん剤による副作用は、薬剤の種類によって異なりますが、共通して見られる副作用があります。
骨髄抑制
多くの抗がん剤は、骨髄で作られる血液細胞の産生を抑制します。白血球が減少すると感染症にかかりやすくなり、血小板が減少すると出血しやすくなります。赤血球が減少すると貧血になり、疲れやすさや息切れなどの症状が現れます。
治療中は定期的に血液検査を行い、必要に応じて白血球を増やす薬(G-CSF製剤)を使用したり、輸血を行ったりします。
消化器症状
吐き気や嘔吐は、抗がん剤治療でよく見られる副作用です。特にシスプラチンは強い吐き気を引き起こすことが知られています。現在では、制吐剤の開発が進んでおり、適切な予防により吐き気をコントロールすることが可能になっています。
下痢や口内炎なども起こることがあります。
脱毛
タキサン系製剤やアンスラサイクリン系抗がん性抗生物質を使用すると、多くの場合、脱毛が起こります。髪の毛だけでなく、眉毛やまつ毛も抜けることがあります。
ただし、脱毛は治療終了後には回復します。治療中はウィッグ(かつら)や帽子を使用することで対応できます。
末梢神経障害
タキサン系製剤やプラチナ製剤は、手足のしびれや感覚の鈍化といった末梢神経障害を引き起こすことがあります。症状が強い場合は、薬剤の減量や中止が検討されます。
その他の副作用
アドリアマイシンは心臓に対する毒性があり、総投与量に制限があります。シスプラチンは腎機能に影響を与えることがあるため、十分な水分補給が必要です。
免疫チェックポイント阻害薬の場合、免疫関連の副作用(下痢、大腸炎、肝機能障害、甲状腺機能異常、間質性肺炎など)が起こることがあり、注意深い観察が必要です。
| 副作用の種類 | 主な症状 | 対処法 |
|---|---|---|
| 骨髄抑制 | 感染症、出血、貧血 | 定期的な血液検査、G-CSF製剤投与、輸血 |
| 消化器症状 | 吐き気、嘔吐、下痢、口内炎 | 制吐剤の予防投与、整腸剤、口腔ケア |
| 脱毛 | 髪の毛、眉毛、まつ毛の脱毛 | ウィッグ、帽子の使用(治療終了後に回復) |
| 末梢神経障害 | 手足のしびれ、感覚鈍麻 | 薬剤の減量または中止、対症療法 |
| 心臓毒性 | 心機能低下 | 総投与量の制限、心機能のモニタリング |
| 腎機能障害 | 腎機能低下 | 十分な水分補給、腎機能のモニタリング |
| 免疫関連副作用 | 大腸炎、肝機能障害、間質性肺炎など | 早期発見、ステロイド治療 |
子宮体がんの薬物療法にかかる費用
治療費の目安
子宮体がんの薬物療法にかかる費用は、使用する薬剤や治療期間によって異なります。抗がん剤治療は基本的に健康保険が適用されるため、医療費の自己負担割合は、75歳以上の方は1割、70~74歳の方は2割(所得によっては3割)、70歳未満の方は3割となります。
殺細胞性抗がん剤を使用した治療では、1回の抗がん剤投与で数万円程度の費用がかかります。例えば、TC療法を3週間ごとに6回行う場合、薬剤費だけで1クールあたり数万円から十数万円程度になります。
免疫チェックポイント阻害薬は高額な薬剤です。キイトルーダの薬価は体重や投与量によって異なりますが、年間で数百万円から1000万円以上になることがあります。ただし、後述する高額療養費制度を利用することで、実際の自己負担額は大幅に軽減されます。
高額療養費制度
日本では、高額療養費制度により、1か月の医療費が一定額を超えた場合、超過分が払い戻されます。自己負担の上限額は、年齢や所得によって異なります。
例えば、70歳未満で年収約370~770万円の方の場合、1か月の自己負担上限額は約8万円(80,100円+(総医療費-267,000円)×1%)となります。さらに、同じ世帯で直近12か月間に3回以上高額療養費の支給を受けている場合は、4回目以降の自己負担上限額が44,400円に軽減されます(多数回該当)。
治療開始前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払いが自己負担上限額までとなり、後日の払い戻し手続きが不要になります。
その他の経済的支援
医療費控除を利用すると、1年間に支払った医療費が10万円(所得が200万円未満の場合は所得の5%)を超えた場合、確定申告により所得税や住民税が軽減されます。
また、会社員や公務員の方が病気で仕事を休んだ場合、傷病手当金が支給されます。休業前の給与の約3分の2に相当する額が、通算で1年6か月分まで支給されます。
まとめ
子宮体がんの薬物療法は、この数年で目覚ましい進歩を遂げています。従来のAP療法やTC療法といった標準治療に加えて、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬などの新しい薬剤が承認され、患者さんの治療選択肢が広がっています。
特に、MSI-HやdMMRといったバイオマーカーに基づいた個別化医療が進んでおり、患者さん一人ひとりの病態に合わせた最適な治療が可能になりつつあります。
薬物療法には副作用がありますが、適切な支持療法により多くの副作用はコントロール可能です。また、高額療養費制度などの公的支援制度を活用することで、経済的な負担を軽減することができます。
治療法の選択にあたっては、担当医とよく相談し、ご自身の病状や体調、生活状況などを総合的に考えて決めることが大切です。分からないことや不安なことがあれば、遠慮せずに医療チームに相談しましょう。
参考文献・出典
- 日本婦人科腫瘍学会「子宮体がん治療ガイドライン2023年版」
- 国立がん研究センター中央病院「子宮体がん 治療方針」
- がん情報サイト「オンコロ」子宮体がんの治療
- MSD株式会社「キイトルーダ 進行・再発の子宮体癌に対する一次療法において化学療法との併用で承認取得」(2024年12月27日)
- アストラゼネカ「イミフィンジとリムパーザ、日本における進行または再発子宮体がんの治療薬として承認取得」(2024年11月22日)
- GMC LABO「子宮頸がん・子宮体がん最新治療2024-2025」
- ナビナビ保険「がん治療費用の平均はいくら?自己負担額や治療費を払えない時の対処法も解説」
- このほけん「がんの治療費と自己負担額は平均でいくら?手術や抗がん剤治療などの治療別に解説」
- がん治療費ドットコム「高額と言われるオプジーボの治療費、実際はいくらかかる?」
- 南江堂「がん 最新の薬物療法2023-2024」