
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がんの治療を受ける際、抗がん剤や分子標的薬などの治療薬が持つ副作用について、多くの患者さんが不安を感じています。しかし現在では、副作用を軽減するための様々な薬が開発され、以前と比べて治療中の生活の質を保ちやすくなっています。
この記事では、がん治療において副作用対策として使われる薬について、2026年の最新情報を交えながら詳しく解説します。
支持療法とは何か
がんの薬物療法では、がん細胞を攻撃する抗がん剤や分子標的薬、ホルモン剤といった治療薬以外にも、多くの薬が使用されています。
これらの薬の多くは、がん治療によって起こる副作用を予防したり、症状を軽くしたりするために用いられます。このように、がんそのものに伴う症状や治療による副作用に対して行う治療を「支持療法」といいます。
国立がん研究センターによると、支持療法とは「がんの進行に伴う症状や、治療による副作用の症状を予防、軽減させるための治療」と定義されています。
2025年5月に開催された第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会では、支持療法の最新エビデンスについて、化学療法誘発性の悪心・嘔吐、皮膚・粘膜障害、末梢神経障害、発熱性好中球減少症への対応などが解説されました。
近年、支持療法が大きく進歩したことで、副作用による苦痛に大きく悩まされることなく、薬物療法を受けられる患者さんが増えています。がんの薬物療法の治療成績向上の背景には、支持療法の発達が大きく関係しているといえます。
副作用を予防する前投薬の役割
多くの抗がん剤では、これまでの臨床試験の結果から、どのような副作用が起こりやすいかがあらかじめ分かっています。そこで抗がん剤を投与する前に、前処置として副作用を緩和したり予防したりするために薬を投与します。これを「前投薬」といいます。
前投薬では、予想される副作用の種類に応じて様々な薬が使用されます。
例えば、タキサン系抗がん剤のパクリタキセルを使用する場合、アレルギー症状を予防するために、ステロイド薬であるデキサメタゾン、抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミン、H2ブロッカーを投与することが義務付けられています。これらの薬を併用することで、重篤なアレルギー反応の発生を予防することができます。
また、吐き気や嘔吐に対しては、制吐剤を前投薬として使用します。近年では、アプレピタント、パロノセトロンなどの新しい制吐剤が登場し、プラチナ製剤などが引き起こす強い吐き気に対しても、従来の制吐剤より高い抑制効果が得られるようになっています。
このように副作用のために有効な薬を十分に使えないという事態を避けるため、様々な対策が講じられています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
制吐剤の最新情報
吐き気と嘔吐は、がん治療を受ける患者さんが最も苦痛と感じる副作用の一つです。2023年10月に改訂された「制吐薬適正使用ガイドライン第3版」では、最新の制吐療法の基準が示されています。
制吐剤の種類と作用メカニズム
現在、がん治療で使用できる制吐剤は、その作用メカニズムにより大きく3種類に分類されます。
| 薬剤分類 | 主な薬剤名 | 作用機序 |
|---|---|---|
| 副腎皮質ステロイド | デキサメタゾン | 炎症を抑え、吐き気を予防する |
| 5-HT3受容体拮抗薬 | グラニセトロン、パロノセトロン、オンダンセトロン | セロトニン受容体を遮断し、急性期の吐き気を抑制 |
| NK1受容体拮抗薬 | アプレピタント | サブスタンスPの作用を遮断し、遅発期の吐き気を予防 |
デキサメタゾンは約25年前から吐き気・嘔吐の予防効果が証明されており、制吐剤として最も歴史の長い薬剤です。その後、1990年代に5-HT3受容体拮抗薬が承認され、さらに2000年代にNK1受容体拮抗薬が登場したことで、制吐療法は飛躍的に進歩しました。
悪心・嘔吐の時期による分類
がん治療による吐き気と嘔吐は、発現する時期によって以下のように分類されます。
- 急性期悪心・嘔吐:抗がん剤投与開始から24時間以内に発現
- 遅発期悪心・嘔吐:抗がん剤投与24時間後から5日目までに発現
- 超遅発期悪心・嘔吐:抗がん剤投与6日目以降も持続
- 予期性悪心・嘔吐:過去の経験から治療前に起こる心理的な反応
- 突出性悪心・嘔吐:制吐剤の予防投与にもかかわらず発現する症状
これらの時期や状態に応じて、適切な制吐剤を組み合わせて使用することが重要です。
催吐性リスクに応じた制吐療法
抗がん剤は、吐き気や嘔吐を引き起こすリスクの高さによって4段階に分類されています。
高度催吐性リスク(発症率90%以上)の抗がん剤に対しては、3種類の制吐剤すべてを併用することが推奨されています。中等度催吐性リスク(発症率30-90%)の場合は、一般的に5-HT3受容体拮抗薬と副腎皮質ステロイドの2種類を併用します。
ガイドラインは最低限必要な対策を示したものであり、個人の体質や過去の経験によって吐き気が起こりやすい患者さんの場合は、ガイドラインに上乗せした制吐療法を医師と相談することも可能です。
好中球減少を防ぐG-CSF製剤
抗がん剤治療の副作用として、白血球の一種である好中球が減少することがあります。好中球は細菌などと戦い病気から体を守る働きがあるため、好中球が減少すると感染症にかかりやすくなります。
G-CSF製剤とは
G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤は、骨髄中の好中球系細胞の分化・増殖を促進する作用を持つ薬剤です。これにより好中球の減少を抑え、発熱性好中球減少症(FN)の発症を予防することができます。
| 薬剤名(製品名) | 特徴 | 投与方法 |
|---|---|---|
| フィルグラスチム(グラン) | 標準的なG-CSF製剤 | 連日投与(皮下注または静注) |
| レノグラスチム(ノイトロジン) | 糖鎖付加型G-CSF製剤 | 連日投与(静注) |
| ナルトグラスチム(ノイアップ) | 遺伝子組換え型G-CSF製剤 | 連日投与(皮下注) |
| ペグフィルグラスチム(ジーラスタ) | 持続型G-CSF製剤 | 1サイクルにつき1回投与 |
2014年に承認されたペグフィルグラスチムは、フィルグラスチムにPEG(ポリエチレングリコール)を結合させることで血中濃度半減期を延長させた持続型製剤です。従来のG-CSF製剤が連日投与を必要とするのに対し、がん化学療法の1サイクルにつき1回の投与で済むという利便性があります。
G-CSF製剤の使用法
G-CSF製剤の使用法には、以下の3つがあります。
一次予防投与:がん薬物療法開始後、好中球数によらずFN発症を防ぐ目的で投与を開始する方法です。発熱性好中球減少症の発症率が20%以上と予測される化学療法レジメンでは、一次予防投与が推奨されています。
二次予防投与:前回の治療でFNまたは高度な好中球減少をきたした場合に、次回治療後のFN発症を防ぐ目的で投与する方法です。
治療投与:FNまたは高度な好中球減少が確認された際の治療として投与する方法です。ただし、G-CSF製剤の本来の目的は予防であり、治療投与より予防投与の方が効果的です。
重要な注意点として、G-CSF製剤は抗がん剤投与前後24時間以内には使用してはいけません。これは、G-CSFによって分化・増殖過程に入った好中球系前駆細胞が抗がん剤によってより大きな障害を受け、逆に過度の好中球減少を起こす可能性があるためです。
アレルギー反応を予防する薬
抗がん剤治療では、アレルギー反応や過敏反応が起こることがあります。これらの反応は、軽度のものから生命に関わる重篤なものまで様々です。
アレルギー反応とインフュージョンリアクション
抗がん剤による過敏性反応には、大きく分けて2つのタイプがあります。
アレルギー反応は、薬剤自体あるいは添加物に対してIgE抗体が関与するI型アレルギー機序により発生します。タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)やプラチナ製剤(カルボプラチン、オキサリプラチン、シスプラチン)で起こりやすいことが知られています。
インフュージョンリアクション(輸注反応)は、主に分子標的薬である抗体医薬の投与中または投与後24時間以内に発現します。抗体が標的細胞に結合し細胞が障害される過程でサイトカインが放出され、一過性の炎症やアレルギー反応を引き起こすことが原因と考えられています。
アレルギー予防のための前投薬
過敏反応を起こしやすい抗がん剤を投与する場合、以下のような薬剤を前投薬として使用します。
| 薬剤分類 | 主な薬剤名(製品名) | 目的 |
|---|---|---|
| ステロイド薬 | デキサメタゾン(デカドロン)、プレドニゾロン | アナフィラキシー・ショックの予防、炎症抑制 |
| 抗ヒスタミン薬 | ジフェンヒドラミン(レスタミン、レスミン) | アレルギー症状の予防 |
| H2ブロッカー | シメチジン(タガメット)、ファモチジン(ガスター)、ラニチジン(ザンタック) | 胃腸障害の予防、アナフィラキシー予防 |
これらの薬剤を適切に組み合わせて使用することで、重篤なアレルギー反応の発生を大幅に減らすことができます。
症状の早期発見と対応
過敏反応の初期症状としては、手のひらや足の裏のかゆみ、蕁麻疹、口の中やのどの違和感、顔や体のほてり、吐き気、胸の圧迫感などが現れます。
重篤になると、気管支の浮腫による呼吸困難、血圧低下、意識障害など命に関わる症状が出現する可能性があります。そのため、投与中は十分な観察が必要であり、異常を感じたらすぐに医療スタッフに伝えることが重要です。
治療薬としても使われるステロイド薬
ステロイド薬は支持療法として重要な役割を果たすだけでなく、抗がん剤と組み合わせた併用療法としても使用されることがあります。
例えば、デキサメタゾンは炎症を抑える作用のほかに、がん細胞の自死(アポトーシス)を促す作用を持っています。そのため、多発性骨髄腫などでは多剤併用療法の1剤として用いられています。
一方で、アナフィラキシー・ショックの予防や吐き気・嘔吐を抑える作用もあり、支持療法としても欠かせない薬です。
同様に、プレドニゾロンも血液がん(悪性リンパ腫など)の治療薬として使用される一方で、支持療法薬としての役割も担っています。
このように、ステロイド薬は抗がん効果と副作用対策の両方の目的で使用される特徴的な薬剤です。
支持療法の発展と患者さんへの恩恵
国立がん研究センターが2018年に発表した「支持療法・緩和治療領域研究ポリシー」では、支持療法の重要性が明確に示されています。
生存率の向上に伴い、働きながら治療を受ける患者さんが増えており、治療中の生活の質を左右する支持療法の発展は、患者さんのみならず社会的な課題といえます。
2025年の調査では、日本臨床腫瘍学会が認定するがん薬物療法専門医は、一般の医師と比べてガイドラインに沿った支持療法を実施している割合が高いことが明らかになっています。これは、専門医の教育システムが機能していることを示すとともに、患者さんが安心して治療を受けられる体制が整いつつあることを意味します。
副作用対策薬を使用する際の注意点
支持療法薬を使用する際には、いくつかの注意点があります。
まず、薬剤の投与タイミングが重要です。前投薬として使用する薬剤は、抗がん剤投与前の決められた時間に投与する必要があります。また、G-CSF製剤のように、抗がん剤投与後24時間以上経過してから投与を開始する必要がある薬剤もあります。
次に、副作用対策薬自体にも副作用があることを理解しておく必要があります。例えば、ステロイド薬を長期使用すると、免疫機能の低下、血糖値の上昇、骨粗鬆症などのリスクがあります。
また、制吐剤の中には眠気を引き起こすものもあるため、車の運転や危険を伴う作業は控える必要があります。
服薬管理も重要な課題です。がん治療では多くの薬を併用することが多く、飲むタイミングや間隔、休薬期間などが薬によって異なります。薬剤師や看護師の説明をよく聞き、不明な点は必ず確認するようにしましょう。
支持療法の今後の展望
支持療法は今後もさらに進歩していくことが期待されています。
新しい抗がん剤の開発に伴い、これまでにない副作用が出現することもあります。例えば、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)は、従来の抗がん剤とは異なる対策が必要です。
また、個人差に応じた副作用対策も研究が進んでいます。遺伝子検査により副作用のリスクを事前に予測し、より適切な予防策を講じることができるようになりつつあります。
さらに、ウェアラブルデバイスを用いた倦怠感の視覚化など、患者さん自身が副作用を管理しやすくする技術の開発も進んでいます。
まとめ
がん治療における副作用対策は、近年大きく進歩しました。制吐剤、G-CSF製剤、アレルギー予防薬など、様々な支持療法薬の開発により、以前と比べて副作用による苦痛を軽減しながら治療を継続できるようになっています。
2023年に改訂された制吐薬適正使用ガイドラインや、G-CSF適正使用ガイドラインなど、エビデンスに基づいた支持療法の基準が整備されてきています。
支持療法薬を適切に使用することで、治療の効果を最大限に引き出しながら、患者さんの生活の質を保つことが可能です。
ただし、支持療法薬にも副作用があることや、投与タイミングなどの注意点があることを理解しておく必要があります。医師、薬剤師、看護師とよく相談しながら、自分に合った支持療法を受けることが大切です。
副作用について気になる症状があれば、遠慮せずに医療スタッフに伝えましょう。
参考文献・出典情報
- 日本癌治療学会「制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版」
http://www.jsco-cpg.jp/antiemetic-therapy/ - 日本癌治療学会「G-CSF適正使用ガイドライン 2023年版」
http://www.jsco-cpg.jp/g-csf/guideline/ - 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html - 国立がん研究センター「支持療法・緩和治療領域研究ポリシー」(2018年)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/1206/index.html - 国立がん研究センター東病院「がん患者の生活の質を守る支持療法のガイドライン遵守実態調査」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/clinical_research_support/sp_care_reserch/research_001/index.html - 日経メディカル「がん治療に不可欠な支持療法の最新エビデンス」(2025年6月)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/report/202506/589317.html - 日医工株式会社「薬剤師のためのBasic Evidence(制吐療法)」
https://www.nichiiko.co.jp/medicine/oncology-contents/basic-antiemetic-therapy.php - 日経メディカル処方薬事典「G-CSF製剤の解説」
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/58c7274b67f669bf0f8b4569.html - 沢井製薬「副作用マネジメント:過敏反応・インフュージョンリアクション」
https://med.sawai.co.jp/oncology/management/vol_08.html - 東京都がんポータルサイト「支持療法について」
https://www.gan-portal.metro.tokyo.lg.jp/research/treat/shijiryoho.html