
がん治療中の口内炎・口の渇きとは?発生の理由を理解する
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
「がん治療中に口内炎ができて、食事をするたびに痛い」「口が渇いてパサパサして、何を食べても飲み込みにくい」。
このような悩みを抱えている患者さんは少なくありません。実際、抗がん剤治療を受けている患者さんの30~40%に口内炎が発生し、頭頸部への放射線治療ではほぼ100%の方に口の症状が現れるとされています。
がん治療中に口内炎や口の渇きが起こる背景には、いくつかの明確な理由があります。これらを理解することで、適切な対処法を見つけることができます。
口内炎(口腔粘膜炎)が起こるメカニズム
抗がん剤による口内炎は、医学的には「口腔粘膜炎」と呼ばれます。抗がん剤投与後、口の中では次のような変化が段階的に進みます。
まず、抗がん剤が粘膜の基底細胞に直接ダメージを与えます。その後、フリーラジカルと呼ばれる活性酸素が発生し、さらに細胞を傷つけます。この時点では見た目に変化はありませんが、抗がん剤投与後数日で口の中の粘膜が赤くなり始めます。
投与後7~10日でピークを迎え、潰瘍が形成されると痛みが最も強くなります。この時期が最もつらい時期ですが、通常2~3週間で粘膜が再生し、徐々に改善していきます。
口の渇き(口腔乾燥)が起こる原因
口の渇きは、唾液の分泌量が減少することで起こります。がん治療中に口が渇く主な原因は以下の通りです。
頭頸部への放射線治療では、耳の下、あごの下、舌の下にある唾液腺がダメージを受けます。これにより唾液の分泌が低下し、口の渇きが続くことがあります。
また、抗がん剤、モルヒネなどの痛み止め、抗うつ剤、利尿剤などの薬剤の副作用でも唾液の分泌が減少します。治療によるストレスや不安も、自律神経に影響して唾液の分泌を抑制することがあります。
口内炎・口の渇きが食事に与える影響
| 症状 | 食事への影響 | 起こりやすい問題 |
|---|---|---|
| 口内炎 | 痛みで食事が困難 食べ物が触れるとしみる 飲み込む時に痛い |
食欲低下 栄養不足 体重減少 脱水 |
| 口の渇き | 食べ物がパサついて飲み込めない 味がわかりにくい 口の中がネバネバする |
食事量の減少 虫歯・歯周病のリスク増加 誤嚥のリスク増加 |
これらの症状により、食事がとれなくなると栄養状態が悪化し、治療の継続にも影響が出ることがあります。だからこそ、適切な対処法を知り、少しでも快適に食事をとることが大切です。
口内炎・口の渇きでも食べやすい食事の基本的な考え方
口に不快感がある時でも、工夫次第で無理なく栄養を摂ることができます。ここでは食事の基本的な考え方をご紹介します。
1. 口への刺激を最小限にする
痛みを悪化させないことが何より大切です。
温度は人肌程度(35~38℃)が適切です。熱すぎるものや冷たすぎるものは粘膜を刺激します。常温や少し温かい程度にしましょう。
味付けは薄味が基本です。塩辛いもの、酸味の強いもの(酢、レモン、柑橘類など)、香辛料(唐辛子、わさび、こしょうなど)は避けます。だしの旨味を効かせることで、薄味でもおいしく食べられます。
固い食べ物、刺激の強い食べ物は控えます。せんべい、ナッツ、揚げ物の衣、トースト、生野菜などは口の中を傷つけやすいため避けましょう。
2. やわらかさと飲み込みやすさを重視する
食材の選び方と調理法を工夫することで、格段に食べやすくなります。
やわらかくてなめらかな食品を選びます。お粥、豆腐、茶碗蒸し、プリン、ゼリー、スープなどがおすすめです。必要に応じてミキサーにかけてペースト状にしても良いでしょう。
とろみをつけると飲み込みやすくなります。片栗粉やコーンスターチで煮汁にとろみをつけたあんかけ料理、とろみをつけたスープなどは、食べ物がまとまりやすく嚥下しやすくなります。
水分が多い食品は口を潤しながら食べられます。スイカ、メロンなどの果物、ゼリー、プリン、スープ、煮物などが適しています。
3. 少量頻回食で無理なく栄養補給
一度にたくさん食べようとせず、少量ずつ回数を増やすことが効果的です。
2~3時間おきに軽食を摂る方法がおすすめです。食べられる時に食べられるものを口にする、という柔軟な考え方が大切です。
無理に食べる必要はありません。食欲がない時に無理強いすると、かえって食事への嫌悪感が強まります。
口内炎がある時の具体的な食事の工夫
口内炎がある時は、特に食材選びと調理法に注意が必要です。
おすすめの食材と調理法
| 食品の種類 | おすすめの食材・料理 | ポイント |
|---|---|---|
| 主食 | お粥、軟飯、おじや、雑炊 パンがゆ、フレンチトースト 柔らかく茹でたうどん・そうめん |
水分が多くやわらかい 薄味のだしで味付け |
| たんぱく質源 | 豆腐(冷奴、湯豆腐、あんかけ豆腐) 卵(茶碗蒸し、卵豆腐、スクランブルエッグ) 白身魚(煮魚、蒸し魚) 鶏ひき肉(やわらかく煮込んだもの) |
淡白な味でにおいも少ない やわらかく調理する 骨は取り除く |
| 野菜 | 大根、カブ、ナス、カボチャの煮物 野菜のポタージュスープ ほうれん草のおひたし |
柔らかく煮込む ミキサーでペースト状にする 繊維の少ないものを選ぶ |
| デザート | プリン、ゼリー、ヨーグルト アイスクリーム、シャーベット バナナ、りんごのすりおろし |
冷たくてなめらか 刺激が少ない 自然な甘み |
避けたい食品
以下の食品は口内炎を刺激するため避けましょう。
刺激の強いもの:唐辛子、わさび、こしょう、カレー、キムチなどの香辛料を使った料理
酸味の強いもの:柑橘類(オレンジ、グレープフルーツ、レモン)、トマト、酢の物、梅干し
固いもの:せんべい、ナッツ類、ポテトチップス、パンの耳、生野菜、揚げ物の衣
塩辛いもの:塩鮭、漬物、塩辛、味付けの濃い煮物
口の渇き(ドライマウス)への対処法と食事の工夫
口の渇きがある時は、水分を補いながら食べやすくする工夫が必要です。
口を潤す食事の工夫
汁物やとろみのあるものを積極的に取り入れます。
スープ、味噌汁、ポタージュは、汁気があり口の中を潤しながら食べられます。片栗粉などでとろみをつけたあんかけ料理は、食べ物がまとまりやすく飲み込みやすくなります。カレーやシチューなど、ルーにとろみがあるものも比較的食べやすいでしょう。
水分が多い食品を選びます。スイカ、メロン、ぶどう、みかんなど水分を多く含む果物は口の中を潤してくれます。ゼリーや寒天は、水分と栄養を同時に摂れるため適しています。
マヨネーズや植物油を少量加えると、食べ物が脂肪の膜で包まれ、飲み込みやすくなります。オリーブ油やごま油なら、良い香りで食欲を促す効果も期待できます。
口腔保湿のための実践的な方法
こまめな水分補給が基本です。水、麦茶、ほうじ茶など刺激の少ない飲み物を常に手元に置き、少量ずつ頻繁に飲みましょう。氷をゆっくりなめることも、口の中を潤し不快感を和らげます。
市販の口腔保湿剤を活用します。保湿ジェル、保湿スプレー、洗口液などの口腔ケア用品は、口の中の乾燥を和らげる効果があります。就寝前に使用すると、夜間の乾燥対策にも有効です。
人工唾液「サリベート」は、シェーグレン症候群や放射線治療による唾液腺障害に適応があります。1回に1~2秒間口腔内に噴霧し、1日4~5回使用します。
唾液腺マッサージで唾液の分泌を促します。耳の下、あごの下、舌の下にある唾液腺を優しくマッサージすることで、唾液の分泌が促されます。ただし、頭頸部の放射線治療を受けた方は、皮膚にダメージを与える可能性があるため控えてください。
食事以外の口腔ケアと日常生活の工夫
口内炎や口の渇きの症状を和らげるには、日々の口腔ケアと生活習慣も重要です。
丁寧な口腔ケアの実践
やさしい歯磨きを心がけます。柔らかい歯ブラシを選び、強く磨きすぎないように注意しましょう。口内炎の部分は避けるか、綿棒などでそっと清潔にする程度に留めます。
マウスウォッシュは、アルコールを含まない低刺激性のものを選びます。メントールやアルコールが含まれたうがい薬や歯磨き粉は刺激が強いので避けましょう。保湿成分が入っているものがおすすめです。
食後のうがい・歯磨きを必ず行います。食べかすが残っていると細菌が繁殖し、口内炎を悪化させる原因になります。1日3回、食後と就寝前に口腔ケアを行いましょう。
口の乾燥を防ぐ生活の工夫
| 対策 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 保湿環境を整える | 加湿器を使用する 濡れタオルを干す マスクを着用する(特に就寝時) |
| 水分補給 | こまめに水やお茶を飲む 枕元に飲み物を置いておく 保湿スプレーを携帯する |
| 唾液分泌を促す | キシリトール入りガムを噛む 唾液腺マッサージを行う 食事の際はよく噛む |
| 就寝時の対策 | 就寝前に保湿ジェルを使う 太白ごま油やオリーブオイルを粘膜に塗る 夜間用の保湿スプレーを枕元に置く |
避けるべき習慣
喫煙や飲酒は控えます。これらは口の中の粘膜を刺激し、口内炎や口の渇きを悪化させる可能性があります。
アルコールやコーヒーの過剰摂取を避けます。アルコールは水分を蒸発させる働きがあり、コーヒーには利尿作用があるため、体内の水分が減少します。
刺激物を避けます。辛いもの、熱すぎるもの、冷たすぎるもの、酸味が強いものなど、口に刺激を与えるものは控えましょう。
十分な休息とストレス管理
体の疲労やストレスは、口内炎の悪化や口の渇きにつながることがあります。十分な休息を取り、心身のバランスを保つことが大切です。規則正しい生活や適度な運動、周囲とのコミュニケーションも重要です。
医療者への相談とサポートの活用
口内炎や口の渇きが続く場合は、我慢せずに必ず主治医や看護師、歯科医、管理栄養士に相談してください。
医療者ができるサポート
痛みが強い口内炎には、痛みを和らげる塗り薬やうがい薬が処方されることがあります。局所麻酔薬(リドカインなど)による含嗽や、消炎鎮痛薬の使用、激しい痛みの場合はオピオイドを組み合わせることもあります。
歯科医や歯科衛生士から、個別の口腔ケア方法について指導を受けることができます。がん治療前に歯科を受診し、虫歯や歯周病の治療、口腔ケアの指導を受けることで、口内炎の発症を予防できる可能性があります。
管理栄養士は、口内炎や口の渇きがある時の具体的な食事プランや、栄養補助食品の活用についてアドバイスしてくれます。
栄養補助食品の活用
食事が十分にとれない時は、濃厚流動食(バランス栄養飲料)や栄養補助食品を利用しましょう。これらは栄養やカロリー補給になるだけでなく、乳製品や大豆を主原料にしているものが多く、口内のあれた部分にしみにくく飲みやすいため効果的です。
病院の管理栄養士に相談すると、購入方法や適した製品について教えてもらえます。
口内炎・口の渇きと上手に付き合うために
がん治療中の口内炎や口の渇きは、食事の楽しみを奪い、心身に負担を与えるつらい副作用です。しかし、適切な対処法を知り実践することで、症状を和らげ、無理なく栄養を摂ることができます。
「完璧に食べなくても大丈夫」という気持ちで、ご自身に合った無理のない方法を探してみましょう。一人で抱え込まず、医療者や周囲のサポートを積極的に利用しながら、口の不快感を乗り切り、「食べる」喜びを取り戻していきましょう。
口内炎や口の渇きは一時的なものです。治療が進むにつれて徐々に改善していきます。今できることを一つずつ実践しながら、前向きに治療に取り組んでいただければと思います。
参考文献・出典情報
- 静岡がんセンター「口腔粘膜炎を起こしやすい抗がん剤について」
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎」
- GI cancer-net「口内炎|副作用対策講座|消化器癌治療の広場」
- がん研究振興財団「口腔乾燥症 対応マニュアル がん治療における口腔支持療法のための」
- 国立がん研究センター中央病院「口の中の乾燥、口内炎を軽減するには」
- がんになっても「がん患者さんのためのお助けごはん 超簡単レシピと食事のヒント 口内炎編」
- ファイザー「がんの副作用~口のなかに不快感がある時の食事の仕方|がんを学ぶ」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと食事」
- SURVIVORSHIP.JP「症状で選ぶ! 抗がん剤・放射線治療と食事のくふう」
- 群馬大学医学部附属病院 外来化学療法センター「口腔粘膜炎への対処法」

