長野県長野市の北部、戸隠山を仰ぐ地に鎮座する戸隠神社は、創建2,000年以上とされる歴史深い神社です。
奥社・中社・宝光社・九頭龍社・火之御子社の五社からなり、全体をめぐる「五社巡り」は、修験者の行と同様に、心身を清める巡礼として多くの人に親しまれています。
その中でも中心となる奥社には、天岩戸を開いたとされる天手力雄命(あめのたぢからおのみこと)を祀り、開運や心願成就、そして病気平癒・癌封じの祈願地としても知られています。
がんと向き合う方々にとって「扉を開く神」は、閉ざされた不安の中から希望の光を導く象徴となっています。
癌封じ・病気平癒の祈祷が随時可能
戸隠神社では、病気平癒や身体健全を願う祈祷が中社や奥社で受けられます。
がん封じの祈祷も正式に受付されており、当日の申し込みで対応が可能です。祈祷の流れとしては、社務所で祈祷申込用紙に記入し、願意や氏名を伝えたうえで祝詞をあげていただきます。
祈祷後には御神札や病気平癒のお守りが授与され、がん患者さんご本人はもちろん、家族や友人などが代理で受けることもできます。
特に手術や治療の直前に祈願を行う方が多く、「精神的に落ち着いた」「医療だけでは満たされない部分を補ってくれた」という声が少なくありません。
■奥社への参道と心の静けさ
奥社までの参道は、片道約2kmの道のり。
中間地点にある随神門をくぐると、樹齢400年を超える杉の巨木が連なる荘厳な杉並木が参拝者を迎えます。
ゆるやかな上り坂が続いたあと、最後に急勾配の石段を登りきると奥社が姿を現します。
この道のりはまさに“祈りの時間”であり、自分の体と対話しながら一歩ずつ進む道として、多くのがん患者さんやそのご家族が「心の整理ができた」「歩く中で涙が自然に出た」と語ります。
医療の現場では得がたい時間が戸隠にはあります。
授与所で授かれる御守と神符
戸隠神社では、病気平癒守、健康守、身体健全守などが授与されています。
奥社・中社・宝光社それぞれで異なるデザインの守りを授かることができ、「自分に合う守りを選ぶこと自体が安心につながった」という声もあります。
がん治療中の方は、入院時や通院カバンにこの御守を入れて携帯することが多く、「痛みが和らぐような気がした」「お守りを見ると勇気が出た」と、精神的支えになっていることが伺えます。
また、社務所では御神符(おふだ)も頒布されており、病室に祀ったり、自宅の神棚に納めて日々手を合わせる方も少なくありません。
絵馬に託された願いと連帯感
中社・奥社・宝光社などにある絵馬掛所には、がん封じの願いが記された絵馬が数多く掲げられています。
「手術が無事に終わりますように」「再発しませんように」「家族の笑顔を守れますように」
その文字一つひとつに、命と向き合う覚悟と希望がにじみ出ています。
絵馬を書くことで、自身の願いを言語化し、形にする。
さらにそれを他の参拝者が目にすることで、「自分だけじゃない」という連帯感が生まれます。
祈りを共有することはがん患者さんの孤独を和らげる大きな力になります。
お礼参りと区切りの祈り
治療が終わった後、戸隠神社を再訪する方も多くいます。
祈祷や守りへの感謝の気持ちを伝えるため、御神符を納め、感謝の絵馬を奉納し、新たな決意を胸に刻みます。
この「お礼参り」は、心の区切りをつけるための大切な儀式であり、「またここから新しい人生を歩んでいく」という前向きな一歩にもつながっています。
アクセスと参拝の注意点
戸隠神社へは、長野駅からバスで中社・奥社入口までアクセスできます。
奥社までの参道は、登山靴または歩きやすい靴が必須です。特にがんの治療中や術後間もない方は、無理をせず、中社のみの参拝を選ぶことも推奨されます。
中社には祈祷所、授与所、絵馬掛所が完備されており、段差も比較的少なく、体力に不安がある方にも安心です。
車椅子での参拝には介助が必要な箇所もありますが、スタッフや地元の方々が親切に対応してくれることでも知られています。
自然と信仰が重なる癒しの場所
戸隠の風土そのものが、心を整える役割を果たしています。杉の香り、鳥の声、石畳を踏みしめる音。
そうした自然の息吹と共に歩く祈りは、都市の病院では得られない静けさを与えてくれます。
現代医学では補えない「心の回復」を戸隠神社は担っており、「ここで祈ったあの日が、私の再出発だった」と語るがんサバイバーも数多く存在します。
まとめ:
戸隠神社は、がんという現代病と向き合う多くの人にとって、「心の回復」を支える祈りの場です。
医療行為は病に対処しますがが、不安や孤独、痛みに向き合う心までは治しきれません。
その隙間を埋めるのが、戸隠の静けさと祈りの時間かもしれません。