
がん患者さんとの距離感に悩む家族が知っておきたいこと
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
家族や大切な人ががんと診断されたとき、多くの方が「どう接すればよいのか」という戸惑いを感じます。
「何かしてあげたいけれど、迷惑にならないか不安」「そっとしておいたほうがいいのか、もっと関わったほうがいいのか」と、支える側にとって距離感はとても難しいテーマです。
実際、がん患者さんの家族は「第二の患者」と呼ばれるほど、患者さん本人と同等かそれ以上の精神的負担を抱えることが、複数の研究で明らかになっています。
国立がん研究センターの調査では、がん患者さんを介護する家族の4人に1人が強い不安や落ち込みを感じており、その程度は患者さん本人と同じかそれ以上であることがわかっています。
この記事では、がん患者さんとの接し方の基本的な考え方と、やってしまいがちなNG例について、2026年時点の最新の知見を踏まえてお伝えします。
家族としての接し方の基本姿勢
「変わらない安心感」を届けることの重要性
がん告知や治療は、患者さんにとって心身ともに大きな負担を伴います。だからこそ、できるだけこれまで通りの態度で接することが基本となります。
突然態度が変わったり、過度に気を遣われたりすると、逆に患者さんは不安や孤独感を抱くことがあります。日常の中で「変わらない安心感」を届けることが、患者さんにとって大きな心の支えになるのです。
2025年11月に更新された小野薬品の情報によれば、職場や学校の方が「どのように接していいかがわからない」という気持ちから腫れ物に触るようなかかわり方をすると、患者さんやご家族を傷つけてしまう可能性があると指摘されています。以前と変わらないかかわり方をしつつ、体調面については配慮をするという姿勢が推奨されています。
「あなたがいてくれること」そのものが支えになる
国立がん研究センターがん情報サービスでは、「うまくサポートできるか」と過度に不安にならずに、一歩一歩進んでいくことの大切さを伝えています。
患者さんご本人の気持ちや希望を理解し、尊重するように努めることが基本です。がんになっても、家族の関係や絆が変わることはありません。あなたがいてくれることそのものが支えになるのです。
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
がん治療。
何を信じれば?
不安と恐怖で苦しい。
がん治療を左右するのは
治療法より“たった1つの条件”です。
まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
避けるべき接し方①:「自分の安心」のために動いていないか
善意が相手の負担になるとき
善意で行動しているつもりでも、気づかぬうちに「自分の安心」のために関わりすぎてしまうことがあります。
| よくある過剰な関わり方 | 患者さんへの影響 |
|---|---|
| 「大丈夫?何かしてほしいことは?」と頻繁に連絡する | 休息時間が奪われ、返信のプレッシャーを感じる |
| 毎日様子を見に行く | プライベートな時間がなくなり、疲労が蓄積する |
| 勝手に治療法やサプリを調べて提案する | 情報過多でかえって混乱し、判断が困難になる |
| 患者さんの話を遮って助言する | 気持ちを吐き出せず、孤立感を深める |
こうした行動は「相手のため」に見えて、相手の心の余白を奪ってしまうことがあります。本当に必要なのは「何かしてほしいことがあれば、いつでも言ってね」という待つ姿勢です。
ファイザーの情報では、ご家族にとっては手助けのつもりが、自分のやり方や思いの押しつけになっていないか、時折患者さんご本人に確認しながらサポートしていくことを推奨しています。
避けるべき接し方②:無理な励ましや前向きさの強要
「励まし」が逆効果になる理由
がんという病気に向き合う中で、患者さんは日々、感情の波の中にいます。そんなとき、「前向きにいこう」「絶対大丈夫」と励まされると、逆につらく感じることが多いのです。
2025年5月の調査によると、がん治療・療養中にかけられて嬉しかった言葉として、「頑張ってね」ではなく「頑張っているね」や「何か必要なら声かけてね」という言葉が挙げられています。また、「いつもと変わらずにいてくれたことが嬉しかった」という声も多く寄せられています。
励ますより「共にいる」ことの力
励ますよりも、感情に寄り添うことが信頼につながります。
「不安だよね」「怖いよね」「そんな気持ちになるの、すごくわかるよ」という共感の言葉のほうが、患者さんには心の安らぎになります。
言葉が見つからないときは、黙って一緒にいるだけでも十分です。ある患者さんの体験談では、「1人じゃない、いつも側にいる」という言葉が最高に嬉しかったと語られています。
避けるべき接し方③:「私もそうだった」という比較や体験談の押しつけ
なぜ体験談が傷つけることがあるのか
自分や知人の体験を語って励まそうとする人がいますが、「私はこうだったから大丈夫よ」という話は、時に相手を深く傷つけます。
- がんの種類やステージ、治療の進行度も違う
- 患者さんの年齢、体力、家族構成などの状況も人それぞれ
- 何より、今苦しんでいるのは相手自身
「○○さんも元気になったから」という善意の比較は、無意識の押しつけになっていないか振り返ってみる必要があります。
がん患者セラピストの活動によると、がん家族が全国から訪れる相談の場では、このような比較や体験談の押しつけで傷ついた事例が多数報告されています。患者さんは自分の状況と他人の状況を比較されることで、かえって孤独感を深めることがあるのです。
避けるべき接し方④:「強くいてほしい」というプレッシャー
「がんに負けないで」という言葉の重み
「がんに負けないで」「前向きでいよう」という言葉は、勇気づけのつもりかもしれませんが、患者さんには「強さを求められている」と感じさせてしまうことがあります。
誰でも、落ち込み、涙を流し、弱音を吐く瞬間があります。そんなとき、「ありのまま」を受け入れてくれる人の存在が、何よりも心の支えになるのです。
実際の患者さんの声では、「頑張らなくていいんだよ」「ここにいてくれたらそれでいいんだよ」という言葉に救われたというエピソードが多く報告されています。
適切な距離感の取り方:「待つ」という関わり方
距離をとることも思いやりになる
がん患者さんの中には、「誰とも話したくない」「1人で考えたい」時期があることもあります。そんなとき、無理に関わろうとしない勇気も必要です。
距離を取ることは冷たいことではありません。「いつでも連絡してね」と伝えて、見守るという関わり方も愛情のひとつです。
患者さんの希望を尊重する6つの基本
国立がん研究センター中央病院の家族ケア外来では、がん患者さんとの向き合い方として、家族に以下の6つのアドバイスをしています。
| アドバイス項目 | 具体的な実践方法 |
|---|---|
| 1. 患者さんの話をよく聞くこと | 結論を求めているのではなく、不安を共有したいだけということを理解する。同じ話を繰り返されても、それに向き合う |
| 2. 答えがすぐに出ない難しい話題でも、避けずに向き合うこと | 専門家でない家族が答えを出すのは困難。医師にはできない部分、そばにいることや心配に付き合っていくことを大切にする |
| 3. 患者さんの希望を尊重し、安易な説得や価値観の押しつけをしないこと | 「なるほど、そうだね」「気持ちがしんどいのね」など、善し悪しの判断は避けて、気持ちに寄り添って聞く |
| 4. 正確な情報を集めること | 国立がん研究センターがん情報サービスなど、科学的根拠に基づいた情報源から標準治療の情報を入手する |
| 5. 必要に応じて、専門家への相談を促すこと | がん相談支援センターや医療ソーシャルワーカーの活用を提案する |
| 6. 家族も自分の生活を大事にすること | これまで楽しみにしていた時間を継続して確保する。自分のための時間を持つことで、看病に向き合う力が湧く |
「第二の患者」である家族自身のケア
家族が抱える心理的負担の実態
がん患者さんの家族は「第二の患者」と呼ばれるほど、大きな精神的負担を抱えています。研究により、家族の2〜3割に強い不安や憂鬱などが認められることが明らかになっています。
家族が直面する主な心理的ストレスには、以下のようなものがあります。
| ストレスの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 感情的ストレス | 大切な人を失うかもしれない恐怖、「もっと早く気づいていれば」という自責の念、漠然とした不安 |
| 役割変化によるストレス | 家事・育児・介護などの役割分担の変化、仕事と看病の両立困難、経済的な問題 |
| 将来への不安 | 「がんが再発・転移しないか」「いつまで頑張ればよいのか」という不確定な将来への恐怖 |
| 孤独感 | 「患者さんのほうがつらいから」と自分の感情を抑え込み、周囲に弱音を吐けない |
家族自身が心身のケアをすることの重要性
患者さんを支えるためには、自分がしっかりしなければと思うあまり、家族は不安やつらさなどの感情を抑え込んだり、何事につけ自分のことを後回しにしたりしがちです。
しかし、一人ですべてを抱え込んだり、感情に蓋をしたりしていると、心身のエネルギーが枯渇してしまいます。
ときには患者さんから離れて、リラックスする時間を作ることも大切です。ずっと気を張り詰めて、ストレスが溜まっている状態で患者さんと接するのは、双方にとって良くありません。
家族が利用できる支援体制
つらい気持ちが続いたり、仕事や家事などで困っている場合は、以下の支援を活用することができます。
- がん相談支援センター:全国のがん診療連携拠点病院に設置。無料で利用でき、がんに関する様々な悩みや不安について相談できる
- 緩和ケアチームの看護師:心身のつらさに対応する専門チーム
- サイコオンコロジスト(精神腫瘍医):がんに関連した心の問題のケアを専門とする医師
- 医療ソーシャルワーカー:経済的な問題や医療費の負担軽減方法、療養生活を支える介護保険の利用方法などの支援制度に詳しい
- 精神腫瘍科:がん患者さんや家族に心のケアを提供することを目的とした診療科(保険診療)
- 家族ケア外来:国立がん研究センター中央病院などで開設。家族を対象としたカウンセリング
これらの支援は、遠慮する必要はありません。がん医療に従事する医療者は、ご家族のつらさもよく理解しています。安心して本当の気持ちを吐き出してください。
かけてよい言葉、かけるべきでない言葉
患者さんに響く言葉の例
実際の患者さんの声から、嬉しかった言葉・励まされた言葉をまとめます。
| 言葉の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 共感を示す言葉 | 「つらかったね」「不安だよね」「気持ちがしんどいのね」 |
| 待つ姿勢を示す言葉 | 「何か必要なら声かけてね」「いつでも飛んでいくから」「待っているよ」 |
| プレッシャーをかけない言葉 | 「頑張っているね(頑張ってねではない)」「無理しないで」「頑張らなくていいんだよ」 |
| 存在を肯定する言葉 | 「1人じゃない、いつも側にいる」「あなたがいてくれるだけで十分」「生きていてくれるだけで十分」 |
| 具体的な配慮を示す言葉 | 「迎えにいこうか?」「できることがあれば、何でも言ってね」 |
避けるべき言葉や表現
| 避けるべき言葉 | 問題点 | 代わりに伝えるべきこと |
|---|---|---|
| 「がんばってね」「前向きにいこう」 | すでに頑張っている患者さんにさらなるプレッシャーを与える | 「いつも頑張っているね」「無理しなくていいよ」 |
| 「絶対大丈夫」「必ず治る」 | 根拠のない励ましは、かえって不安を増幅させる | 「一緒に向き合おう」「そばにいるよ」 |
| 「顔色が良くなってきたから治るんじゃない?」 | 軽率な励ましに聞こえ、「自分の気持ちを理解してくれない」と感じさせる | 「今日は調子よさそうだね」程度の控えめな言葉 |
| 「お酒やたばこのせいじゃないの?」 | 患者さんを罪悪感に陥らせ、追い詰める | 原因探しではなく、今できることに焦点を当てる |
| 「私もそうだった」「○○さんは治ったよ」 | 状況の違いを無視した比較は孤独感を深める | 相手の体験をそのまま受け止める |
状況別の接し方のポイント
診断直後の時期
がんと診断された直後は、患者さんご自身はもちろん、ご家族も混乱を生じます。多くは約1〜2週間の間に状況を徐々に受け入れ、治療の選択のため情報収集を始めます。
この時期は、一時的に落ち込むのは普通の反応です。我慢をしたり、無理に気丈に振る舞ったりする必要もありません。ただし、長期にわたる心理的苦痛や身体的症状によって日常生活に支障をきたす場合は、精神腫瘍科などの専門家による診察を受けることが推奨されます。
治療中の時期
治療が始まると、副作用や体調の変化に患者さんは向き合います。「食べなければ元気にならない」「運動をしなければ体力がつかない」などの固定観念は、いったん捨ててみましょう。
まずは患者さんが口にしたい、食べたい、と思うものを少しずつ。それでいいのです。患者さんの話を否定したり遮ったりしないように気を配ることが大切です。
経過観察期や再発・転移時
治療後の経過観察期では、再発・転移の不安が続きます。再発や転移が明らかになったときは、患者さんにとって最も大きな苦悩の時期のひとつです。
この時期も、不安を抱え込まないための言葉かけや情報提供を行っていくことが大切です。答えがすぐに出ない難しい話題でも、避けずに向き合うことが求められます。
家族として大切にしたい視点
「病気の人」ではなく「一人の人間」として
がん患者さんとの距離感に正解はありません。けれど、いつでも忘れたくないのは、「相手は、病気の人ではなく、一人の人間」「その人らしさを、どう支えるか」という視点です。
がん治療中の患者さんとの会話は、病気のこと、病院のこと、家族の役割分担のことなど、今目の前にある問題が大半を占めてしまいがちです。時には、「患者」ではなく「ひとりの人間」「家族」として、少し先の将来についてイメージすることも大切です。
「誰が書いたか」より「思考整理に役立つか」
家族の役割は、解決策を提示することではありません。患者さんが自分なりに納得できるところまで話を聞き、思考の整理を手伝うことです。
患者さん本人が医師に直接伝えにくいことを代弁していくことも、家族の大事な役割です。患者さんは遠慮して治療に対する要望を医師に伝えられないこともあります。そうしたときには家族が代わりに伝えていくことで、患者さんの負担を軽減することができます。
まとめ:そっと隣にいることの意味
がん患者さんとの接し方で最も大切なのは、「正解を求めすぎない」ことかもしれません。
近づきすぎず、離れすぎず、患者さんの「その人らしさ」を尊重しながら、そっと隣にいる。そんな存在が、言葉以上の支えになることがあります。
また、家族自身が「第二の患者」として心身のケアを必要としていることを忘れないでください。自分自身をいたわり、必要な支援を求めることは、患者さんをより良く支えるためにも不可欠なことです。
完璧な家族である必要はありません。時には迷い、戸惑いながらも、一歩一歩進んでいくことが、患者さんにとっても、あなた自身にとっても、大切なのです。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「家族ががんになったとき」
- ファイザー がんを学ぶ「がん治療~家族のサポート 家族は『第二の患者』」
- 小野薬品 がん情報「家族も大切な対象者、がん治療に向き合うために知っておきたい心のケア」
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