
はじめに
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん患者さんに貧血の症状が出ると、何が原因で起きたのかと心配になります。めまいや立ちくらみ、息切れなどの症状が現れると、日常生活にも影響が出てきます。
この記事では、がん患者さんに貧血が起こる原因を詳しく分類し、どのような対処が望ましいのかについて解説します。貧血の程度や症状に応じた適切な対応を理解することで、治療中の不安を軽減し、QOL(生活の質)を維持することにつながります。
なお、貧血とは末梢血中の赤血球数やヘモグロビン濃度が基準値以下に低下した状態を指します。WHOが定めるヘモグロビン濃度の基準値は、成人男性13g/dL未満、成人女性12g/dL未満、妊婦11g/dL未満です。
がん患者さんに貧血の症状が現れる主な原因
がん患者さんに貧血が起きる原因は多岐にわたります。大きく分けると、がん自体によるもの、治療によるもの、その他の要因によるものに分類できます。それぞれの原因を理解することで、適切な対処法を選択できるようになります。
がんそのものが原因となる貧血
がん自体が貧血を引き起こすメカニズムは複数あります。造血器腫瘍や固形がんの骨髄浸潤では、がん細胞が骨髄内に侵入することで正常な赤血球の産生が妨げられます。骨髄内でがん細胞が増殖すると、造血を抑制するサイトカインという物質が発生し、赤血球を作る機能が低下します。
造血器腫瘍で貧血が起きやすいのは、急性白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫などです。また、骨転移しやすい乳がん、肺がん、前立腺がんでは骨髄浸潤による貧血が起こりやすくなります。
消化器がんや婦人科がんでは、がん組織からの慢性的な出血により失血性の鉄欠乏性貧血が生じます。胃がん、大腸がん、子宮がん、膀胱がんなどでは、がん組織が血管を侵し持続的に少量の出血が起こることがあります。
さらに、がんによる代謝の変化や食欲低下により、赤血球の材料となるタンパク質、鉄分、ビタミン類などが不足し、貧血が進行することもあります。
手術が原因となる貧血
手術に関連した貧血の原因には、術中・術後の出血と栄養素の吸収障害があります。
術中の止血困難、術後の縫合不全、創部感染、膵液漏などにより、手術部位あるいはその周辺から持続的な出血が起こる可能性があります。出血量が多い場合は循環血液量が減少し、急激に貧血が進行します。
特に胃切除を受けた患者さんでは、手術後に特有の貧血が起こりやすくなります。胃酸分泌の減少により鉄分の吸収が低下し、胃粘膜で分泌される内因子というタンパク質が減少することでビタミンB12の吸収も低下します。内因子はビタミンB12と結合して小腸での吸収を助ける役割を持っています。
胃を全摘した患者さんでは、手術直後だけでなく数年経過してから貧血が現れることもあるため、長期的な経過観察が必要です。
化学療法(抗がん剤などの薬物)が原因となる貧血
抗がん薬による貧血は、骨髄抑制と腎機能への影響という2つのメカニズムで発生します。
抗がん薬は、がん細胞だけでなく骨髄内の造血幹細胞にも作用します。骨髄内で赤血球の前駆細胞が破壊されたり、造血幹細胞の分化が抑制されたりすることで、新しい赤血球の産生が低下します。血液中への赤血球の補給ができなくなり、貧血が進行します。
プラチナ系薬剤などによる腎機能障害が起こると、腎臓で産生されるエリスロポエチンという造血因子が減少します。エリスロポエチンは骨髄に働きかけて赤血球の産生を促進する重要なホルモンです。この減少により赤血球の産生能力が低下します。
貧血のリスクが高い薬剤には、プラチナ系薬(シスプラチン、カルボプラチンなど)、タキサン系薬(パクリタキセル、ドセタキセルなど)、イリノテカンなどがあります。また、多剤併用療法や高用量投与、投与期間の長さも貧血のリスクを高めます。
抗がん薬による貧血には時間的な特徴があります。赤血球の寿命は約90日から120日と長いため、抗がん薬による骨髄抑制が起きても、貧血が出現するのは好中球減少や血小板減少よりも遅くなります。投与後10日前後から2週間過ぎた頃まで貧血が続き、3週間目頃から検査値が回復することが一般的です。
治療を繰り返すことで貧血発生のリスク期間が延び、症状が強くなる場合があります。治療終了後も長期的に血液検査を続けることが重要です。
放射線治療が原因となる貧血
放射線治療では、照射部位に骨髄が含まれる場合、赤血球の前駆細胞が破壊されることで貧血が生じます。骨盤部や脊椎、胸部など骨髄を多く含む部位への照射では、貧血のリスクが高くなります。
放射線による貧血も化学療法と同様、照射開始後1週間から2週間程度で徐々に現れることが多く、治療回数が重なるにつれて進行する傾向があります。
その他の原因による貧血
造血器腫瘍以外の血液疾患として、再生不良性貧血や溶血性貧血などがあります。これらは骨髄での血液産生能力の低下や赤血球の破壊によって起こります。
外傷、消化管潰瘍、食道静脈瘤、子宮筋腫、月経過多などからの緩慢で継続的な出血も貧血の原因となります。また、腎疾患によりエリスロポエチンの産生や感受性が低下することで貧血が起こることもあります。
膠原病や慢性感染症なども長期的な炎症により貧血を引き起こすことがあります。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
貧血の症状と重症度の理解
貧血の症状は、ヘモグロビン値の低下の程度により異なります。貧血は一般的にゆっくりと進行するため、軽度の段階では自覚症状がない場合もあります。
軽度の貧血(ヘモグロビン値が正常の70%程度)では、顔色が悪くなる、まぶたの裏が白くなる、口の中全体の赤みが減るといった外見上の変化が見られます。
ヘモグロビン値が正常の59%以下になると、体内の酸素を補うために心拍数が増加し、少しの運動でも息切れするようになります。動悸、疲れやすさ、倦怠感などの症状が顕著になります。
ヘモグロビン値が正常の40%以下になると、頭痛、めまい、耳鳴り、集中力の低下、不眠などが現れます。体の末端まで酸素が届かないため、手足の冷えや立ちくらみも起こります。
がんの進行により貧血が判明した時点では、すでに症状がかなり進行している場合があります。定期的に血液データを確認し、赤血球数、ヘモグロビン値、血小板数などを把握しておくことが重要です。
がん(腫瘍)による貧血への対処法
がん自体が原因の貧血に対しては、原疾患の治療が基本となります。造血器腫瘍の場合は化学療法により腫瘍の縮小を図りますが、骨髄異形成症候群では輸血療法のみで経過観察となる場合もあります。
対症療法として赤血球輸血が行われます。2024年に改定された日本輸血・細胞治療学会のガイドライン(改訂第3版)では、一般的にヘモグロビン値7.0から8.0g/dL以下を輸血のトリガー値として設定することが推奨されています。ただし、貧血の進行速度、日常生活への影響、患者さんの全身状態、既往歴、輸血に伴うリスクなどを総合的に考慮して判断されます。
再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などでは、ヘモグロビン値6.0から7.0g/dLをトリガー値とした制限輸血が推奨される場合もあります。
複数回の輸血を受けると、輸血製剤に含まれる鉄成分が体内に蓄積し、鉄過剰症となる可能性があります。血液検査でフェリチン値を測定し、持続的に1000μg/mL以上の場合は鉄を体外へ排泄するキレート剤の投与が検討されます。赤血球輸血の回数が20回を超え、今後も輸血が続く見込みの患者さんは注意が必要です。
血小板減少による出血傾向がある場合は、血小板輸血や止血に対する対症療法が併せて行われます。
| ヘモグロビン値の範囲 | 貧血の程度 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 10.0g/dL以上 | 正常範囲または軽度の貧血 | 経過観察、栄養指導 |
| 7.0~10.0g/dL | 中等度の貧血 | 鉄剤やビタミン剤投与、症状により輸血検討 |
| 7.0g/dL未満 | 高度の貧血 | 赤血球輸血を検討 |
手術による貧血への対処法
手術による急性出血に対しては、早急な外科的止血処置とともに赤血球輸血が行われます。出血量が多く循環血液量が減少している場合は、輸液による血液量の補充も同時に実施されます。
胃切除後の貧血予防は、術後早期から鉄剤やビタミンB12、葉酸の投与を行うことで可能です。特に胃を全摘した患者さんでは、内因子が産生されないためビタミンB12の経口摂取では吸収されません。そのため、ビタミンB12は注射による投与が必要となります。
食事面では、鉄分やビタミンB12を多く含む食品を積極的に摂取することが予防につながります。鉄分はレバー、赤身の肉、魚、大豆製品、ほうれん草などに多く含まれます。ビタミンB12はレバー、魚介類、卵、乳製品に豊富です。ビタミンCは鉄の吸収を助けるため、野菜や果物も併せて摂取することが望ましいです。
化学療法による貧血への対処法
抗がん薬による貧血の基本的な対症療法は、ヘモグロビン値7.0から8.0g/dL以下を目安とした赤血球輸血です。鉄欠乏性貧血の場合は鉄剤の内服が処方されます。経口鉄剤の投与が困難な場合や吸収不良がある場合は、注射用鉄剤が使用されることもあります。
なお、エリスロポエチン製剤(赤血球造血刺激因子製剤)は、日本では腎性貧血などに対して承認されていますが、がん化学療法による貧血への適応は現時点では承認されていません。海外では使用されることもありますが、がん患者さんへの投与により生命予後の悪化や腫瘍増殖促進、血栓症リスクの増加などが報告されているため、慎重な判断が必要とされています。
患者さん自身ができる対処としては、十分な安静と休息をとることが第一です。貧血による倦怠感が強いときは、楽な姿勢でこまめに休憩し、帰宅後、入浴後、食後などには必ず休息時間を設けましょう。
食事面では、鉄やビタミンB12、葉酸などを多く含む食事を心がけることが回復への近道になります。一日三食を規則正しく食べ、主食(穀類)、主菜(肉・魚・卵・大豆製品)、副菜(野菜)をバランス良く摂取することが大切です。
できる範囲での軽い運動やストレッチ、マッサージは、貧血による倦怠感を軽減する効果があります。無理をせず、体調に合わせて行うことが重要です。
貧血になると免疫機能も低下するため、感染症予防として手洗いやうがいをこまめに行いましょう。
| 栄養素 | 主な食品 | 貧血への働き |
|---|---|---|
| 鉄分 | レバー、赤身肉、魚、大豆製品、ほうれん草、小松菜 | ヘモグロビンの材料となる |
| ビタミンB12 | レバー、魚介類(あさり、牡蠣)、卵、乳製品 | 赤血球の生成を助ける |
| 葉酸 | レバー、緑黄色野菜、果物、豆類 | 赤血球の生成を助ける |
| タンパク質 | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 | 赤血球の材料となる |
| ビタミンC | 柑橘類、いちご、ブロッコリー、ピーマン | 鉄の吸収を促進する |
貧血の症状が現れたときの対処法
立ちくらみ、めまい、息切れ、動悸、ふらつきなどの症状を感じたら、貧血の可能性があります。症状を細かく把握し、些細なことでも医師や看護師に相談しましょう。
急に立ち上がると立ちくらみが起きやすいため、ベッドや椅子から立ち上がるときはゆっくりと動作することを心がけます。めまいやふらつきを感じたら、その場にしゃがむか座って休息をとりましょう。転倒による怪我を防ぐことも重要です。
手足がしびれる、手足の感覚が鈍い、便に血液が混じる、月経ではない時期や閉経後に出血がある、吐き気や嘔吐があるなどの症状がある場合も、貧血が起こっている可能性があります。これらの症状を医師に伝えることで、原因の特定と適切な治療につながります。
特に、濃い茶色や真っ赤な嘔吐物、真っ赤または真っ黒な便が出るときは、出血量が多く緊急の対応が必要になる場合があります。すぐに主治医に連絡しましょう。
貧血が重度の場合、がんの治療を一時的に中断することもあります。安全に治療を継続するため、貧血が改善するまで待つことが必要な場合があることを理解しておきましょう。
日常生活での工夫と注意点
貧血があると疲れやすくなるため、日常生活の中で工夫が必要です。家事や仕事の量を調整し、周囲の人に協力してもらうことも検討しましょう。生活で工夫できることや利用できる福祉サービスについては、看護師やがん相談支援センターの相談員に相談することができます。
夜間の睡眠を十分にとることも大切です。昼夜のリズムを整えることで、効果的な休息につながります。夜眠れないときは、主治医に相談して睡眠導入剤を処方してもらうことも一つの方法です。
体温調節も重要です。貧血により血液循環が悪くなると体温が下がりやすくなります。衣服で適切に体温調節を行い、冷えを防ぎましょう。
定期的な血液検査により、ヘモグロビン値、赤血球数、血小板数などを把握しておくことで、貧血の進行を早期に発見できます。検査結果を記録し、変化を追うことも有用です。
貧血の原因別治療方針のまとめ
貧血への対処は、原因に応じた治療と症状を改善するための対症療法を組み合わせて行われます。
出血が原因の場合は、止血薬の投与や内視鏡治療、手術による止血を試みます。溶血が原因の場合は、ステロイド薬を用いた治療が行われることがあります。
ビタミンB12欠乏や鉄欠乏に対しては、鉄剤や葉酸、ビタミンB12の投与が行われます。腎機能障害によるエリスロポエチン減少に対しては、腎疾患の治療が必要ですが、がん治療に伴う腎機能障害の場合は対症療法が中心となります。
赤血球輸血は、重度の貧血に対する唯一の速効性のある対処法です。輸血により一時的にヘモグロビン値は上昇しますが、根本的な原因への対応も並行して行う必要があります。
| 貧血の原因 | 主な対処法 | 予防策 |
|---|---|---|
| がん組織からの出血 | 止血薬投与、内視鏡治療、手術、輸血 | 定期的な血液検査、早期発見 |
| 手術による出血・吸収障害 | 外科的止血、輸血、鉄剤・ビタミンB12投与 | 術後早期からの鉄剤・ビタミン投与 |
| 化学療法による骨髄抑制 | 輸血、鉄剤内服、栄養管理 | 定期的な血液検査、栄養バランスの良い食事 |
| 放射線治療による骨髄障害 | 輸血、対症療法 | 照射範囲の調整、治療スケジュールの工夫 |
| 鉄欠乏・ビタミン欠乏 | 鉄剤・ビタミンB12・葉酸投与 | 鉄分・ビタミンを含む食品の摂取 |
最後に
がん患者さんに起こる貧血は、原因が複雑で多岐にわたります。がん自体、手術、化学療法、放射線治療、栄養障害など、さまざまな要因が重なって貧血が生じることも少なくありません。
貧血は自己判断が難しいため、不調を感じたら主治医に相談することが重要です。症状の程度や原因に応じて、輸血、鉄剤やビタミン剤の投与、栄養指導など適切な対処が行われます。
定期的な血液検査で自分の状態を把握し、食事や生活習慣に気を配ることで、貧血の予防や症状の軽減につながります。治療中は医療チームとよく相談しながら、無理のない範囲で日常生活を送ることを心がけましょう。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス - 貧血
- 国立がん研究センター東病院 - 貧血の症状とケア
- がん治療の副作用対策とセルフケア - 貧血
- 今日の臨床サポート - 赤血球輸血
- Cochrane - 輸血の回数を減らすための血球数の使用について
- Cochrane - がん患者の貧血の予防と治療に最善な薬剤の組み合わせ
- 厚生労働省 - 赤血球濃厚液の適正使用
- 日本輸血・細胞治療学会 - 科学的根拠に基づいた赤血球製剤の使用ガイドライン
- American Cancer Society - Anemia (Low Red Blood Cell Counts)
- 日本人間ドック学会 - 判定区分2023年度版