乳房切除術によって、片方の乳房を失うと、体のバランスが悪くなり、肩や腰などに悪影響が及ぶことがあります。そしてなにより、女性のシンボルともいえる乳房を失う喪失感は大きく、外見上の問題から「温泉に入れない」といった悩みを抱える患者さんも少なくありません。
このように、乳房を失うことで,患者さんのQOL(生活の質)が大きく損なわれます。
そこで考案されたのが「乳房再建術」です。
乳房再建は、形成外科の技術を用いるもので、乳房喪失の衝撃を柔らげる意義があります。しかし、乳房再建術を受けるかどうかは、あくまでも患者さんの意志で決まります。
乳房再建を考えている人は、主治医に自分の希望を伝えておくことが大切です。乳房再建を担当する形成外科医ともよく話しておきましょう。
イメージどおりに再建されるとは限りません。乳房を失うショックと、思いどおりに再建されなかったショックが重なるのは望ましくありません。事前に乳房の再建例を写真で確認させてもらいましょう。また、歳をとると、残したほうの乳房とのギャップも出てきます。きちんと説明を聞いておくと安心です。
「一次再建」と「二次再建」との違いは?
乳房再建を行うタイミングは、乳房切除の手術と同時に再建を行う「一次再建」と乳房切除後、傷の回復を待ってから改めて再建を行う「二次再建」の2つがあります。
それぞれに1回法と2回法があります。いずれも健康保険の対象となります。
ただし、再建方法によっては、自費診療で行っている病院もあります。
一次再建、二次再建のどちらにもメリットとデメリットがあります。
一次再建のメリット、デメリット
乳房切除と乳房再建(2回法ではエキスパンダーの挿入)を同時に行うことができます。乳房がなくなった状態がないため、患者さんの肉体的、精神的な負担を軽減できます。
2回法で行うことが多く、3~6か月後に2回目の手術を行います。
一次再建は、乳腺外科医と形成外科医が密に連携していることが求められます。全国どこの病院でもできるわけではありませんので希望する場合は病院探しが必要です。
手術までの限られた短い期間で再建法を選択しなければならないため、考える時間が十分にない場合があります。そのぶん、主治医、形成外科との話し合いが重要です。
メリットまとめ
・入院や手術術の回数が少なくてすむ(二次再建よりも費用の軽減が可能)
・乳房を失う喪失感が少ない
デメリットまとめ
・手術時間、入院期間が長くなる
・乳がんの診断から手術までの短期間に決定しなければならない
・乳房の形が思い通りにならない場合がある
二次再建のメリット、デメリット
乳がんの手術後、一定の期間をおいてから乳房再建を行うので、手術後にじっくりと考えてから希望することができます。二次再建は、何年たった後でも可能です。一方、再び入院しての手術になるため、時間と費用が一次再建よりも多く必要になります。
なお、乳がん再発の不安がある場合は、再発予防の治療を受けてから乳房再建を行うことができます。
メリットまとめ
・乳房切除術のあと、乳房再建について考える時間がある
・何年経過しても再建できる
・切除後の皮膚組織が安定しており、美容面での美しさを追求できる
デメリットまとめ
・乳房を失う喪失感を感じる期間が長くなる
・再び入院・手術する必要がある(一次再建よりも費用、時間を要する)
乳房再建が行えない場合も
乳房再建を希望しても、受けられない場合があります。
例:放射線療法を受けた場合
放射線療法を受けると、皮膚にダメージを負います。皮膚が弱くなったり、伸びにくくなっているため、人工乳房を用いた再建がうまくできないことがあります。
例:病院の事情
乳房切除術を行う病院が、乳房再建を実施していないことがあります。その場合は別途、乳房再建を行っている病院を紹介してもらうことになります。