
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん患者さんの多くが経験する倦怠感。「だるい」「疲れやすい」「やる気が出ない」といった症状は、がんやがん治療に関連して起きる特有のものです。
一般的な疲労と異なり、がんに伴う倦怠感は休息や睡眠をとっても改善しにくく、数カ月から数年続くこともあります。がんサバイバーの約30%が倦怠感を抱えているという報告もあり、決して珍しい症状ではありません。
この記事では、がん患者さんの倦怠感がなぜ起きるのか、その要因と基本的な対処法について、2026年時点の最新情報を含めて詳しく解説します。
がん関連倦怠感とは何か
がん関連倦怠感(cancer related fatigue:CRF)とは、普段の活動量とは釣り合わない、がんやがん治療に関連した身体的・精神的・認知的な疲労や消耗感のことを指します。
この倦怠感には、身体的なだるさだけでなく、以下のような精神的・認知的な症状も含まれます。
- 何もする気にならない、やる気が出ない
- 話すのも面倒に感じる
- 集中力が続かない、物事が頭に入らない
- 記憶力の低下を感じる
- 思考がまとまらない
- 不安やイライラなど、感情的になりやすい
国際的な有害事象評価基準であるCTCAEでは、倦怠感を「全身的な不快感、だるさ、元気がない状態」と定義しています。重要なのは、この倦怠感が睡眠や休息によって解消されないという点です。
たとえば、肉体労働をしたわけでもなく、1日中ソファに座って過ごしていたのに体や心が疲れ、日常生活に支障をきたすような状態が続きます。
がん患者さんに倦怠感が起きる主な原因
倦怠感の原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発生します。ここでは原因を系統的に整理してご説明します。
がん(腫瘍)そのものによる倦怠感
がん細胞の存在自体が倦怠感の原因となります。これを「一次的倦怠感」と呼びます。
| 要因 | メカニズム |
|---|---|
| サイトカインの産生 | がん細胞がつくり出すサイトカインという物質が、体内で炎症反応を引き起こし、エネルギーを消耗させます |
| 代謝異常 | たんぱく質、炭水化物、脂肪などの代謝に異常が起こり、エネルギー効率が低下します |
| 電解質異常 | ナトリウムやカルシウムなどのバランスが崩れ、体の機能が低下します |
| がん悪液質 | 筋肉量や脂肪量が減少し、体重が減っていきます。栄養を補給しても改善が難しい状態です |
特に進行がんでは、がん悪液質が倦怠感に与える影響が大きいとされています。がん細胞が正常な組織の栄養を奪ってしまい、筋肉の分解が進み、エネルギー消費量が増大します。
このような状態では、いくら栄養を摂取しても筋肉量の減少を止めることが難しく、倦怠感が持続します。
手術によって起きる倦怠感
手術は身体に大きな負担をかけるため、倦怠感の原因となります。
| 原因 | 詳細 |
|---|---|
| 生体防御反応 | 手術による身体侵襲に対して産生されるサイトカインや、タンパク質の分解亢進、糖新生などによりエネルギーが消費されます |
| 筋力低下 | 長期間の臥床や安静により筋力が低下し、倦怠感が増強されます |
| 心理的要因 | ボディイメージの変化による悲嘆、衝撃、不安なども倦怠感を引き起こします |
手術によるダメージが大きいほど、免疫機能や代謝の変動も大きくなります。そのため、できるだけ早期に寝たきりの状態から回復し、適切なリハビリテーションを行うことが重要です。
化学療法(抗がん剤治療)による倦怠感
化学療法では、60%を超える患者さんに倦怠感が出現するとされています。抗がん剤投与後2〜3日がピークで、次の治療までに徐々に改善していきますが、治療を重ねることで倦怠感が強くなる場合もあります。
| 副作用 | 倦怠感への影響 |
|---|---|
| 骨髄抑制 | 貧血、感染、発熱により体力が消耗します。貧血症状が強い場合、特にだるさを感じやすくなります |
| 消化器症状 | 悪心・嘔吐、下痢により脱水や電解質異常が起こります |
| 食欲低下 | 口内炎や味覚障害により食事摂取量が減り、低栄養状態になります |
| 臓器障害 | 肝機能障害や心不全、浮腫(むくみ)が倦怠感を悪化させます |
| 甲状腺機能異常 | 免疫チェックポイント阻害薬などにより甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンの分泌が低下します |
化学療法後3〜14日目頃まで症状が続く場合が多く、以降は徐々に症状が軽減します。ただし、投与回数を重ねると倦怠感を感じやすくなり、治療終了後も症状が持続することがあります。
がんの進行や加齢によって身体の予備能が低下している場合、副作用が長引いたり、慢性的な症状に移行したりすることもあります。
放射線治療による倦怠感
放射線治療では、治療の後半にかけて倦怠感が増強することが多いとされています。
| 原因 | 説明 |
|---|---|
| サイトカイン産生 | 治療によりサイトカインが産生され、倦怠感が引き起こされます |
| 骨髄抑制 | 広範囲の脊椎や骨盤骨への照射により貧血が起こります |
| 放射線宿酔 | 照射後に起こる特有の疲労感です |
| 食欲低下 | 口内炎や嚥下機能の低下により食事摂取量が減少します |
| 通院による疲労 | 連日の通院治療自体が疲労の蓄積につながります |
頭頸部がんや婦人科がんで放射線療法を受ける患者さんでは、特に多くの方に倦怠感が認められています。
薬剤の副作用による倦怠感
がん治療や症状緩和のために使用される様々な薬剤が、倦怠感の原因となることがあります。
- オピオイド系鎮痛薬
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬
- 抗うつ薬
- 睡眠薬
- 抗精神病薬
- 抗ヒスタミン薬
- 利尿薬
これらの薬剤の減量や中止、変更が検討される場合もありますが、倦怠感の緩和よりも重要な治療理由があれば、継続が必要なこともあります。
心理的・社会的要因による倦怠感
不安、抑うつ、孤独感などの精神的な要因も、倦怠感を引き起こしたり悪化させたりします。
- 睡眠障害:がん患者さんの多くが不眠や睡眠パターンの乱れを抱えています
- 気分の落ち込み:治療や病状に対する不安から、うつ状態になることがあります
- 孤独感:社会参加が制限されることで、孤立感を感じることがあります
併存疾患による倦怠感
以下のような疾患が併存している場合、倦怠感が悪化することがあります。
- 肝疾患
- 呼吸器疾患、循環器疾患
- 代謝疾患、内分泌疾患(糖尿病、甲状腺機能異常など)
- 血液疾患
- 感染症
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
倦怠感が起きやすい時期
倦怠感はがん患者さんのあらゆる段階で出現する可能性がありますが、特に以下の時期に多くみられます。
| 時期 | 特徴 |
|---|---|
| 診断時 | がんの告知によるショックや不安から、すでに倦怠感が始まることがあります |
| 治療中 | 化学療法や放射線療法の期間中、特に倦怠感が強く現れます |
| 治療後 | 治療完了後も数カ月から数年間、倦怠感が続くことがあります |
| 進行期・終末期 | がんの進行に伴い、倦怠感が増強していきます。予後1カ月頃から急速に程度が強くなります |
倦怠感の原因は病期とともに変化していくことも知られており、その原因は一つであるとは限りません。
治療別の倦怠感への対処法
がん(腫瘍)による倦怠感への対処
がんそのものが原因の倦怠感に対しては、以下のアプローチが考えられます。
- がん治療による腫瘍の縮小
- 症状緩和のための薬物療法(進行がんでは副腎皮質ステロイドの使用が検討されることもあります)
- 栄養療法による支持
- 適度な運動療法の導入
「倦怠感はしかたがない」と自己判断せず、医師に症状を報告することが重要です。適切な治療により症状の改善が期待できます。
手術による倦怠感への対処
手術後の倦怠感に対しては、以下の対処が推奨されます。
- 疼痛管理:痛みがあれば適切に緩和します
- 早期離床:できるだけ早期に寝たきりの状態から回復します
- リハビリテーション:機能障害に対する理学療法を行います
- 心理的サポート:カウンセリングなどの心理的アプローチも重要です
手術のダメージから回復するには時間がかかりますが、適切なリハビリテーションにより回復を促進できます。
化学療法による倦怠感への対処
化学療法中の倦怠感は完全に取り除くことは困難ですが、以下の工夫で症状を軽減できます。
- 倦怠感日記をつけて出現パターンを把握し、活動計画を立てます
- 1日のエネルギー配分を考え、優先度の高い活動を行う時期や方法を検討します
- 倦怠感が強いときは、優先度の低い活動は見送り、他者の援助を受けます
- 禁忌がなければ、体調に応じて有酸素運動を行います
- 副作用への対処(制吐剤の使用など)を適切に行います
免疫チェックポイント阻害薬を投与中の方で倦怠感を感じた場合は、甲状腺機能異常や副腎皮質機能不全などの免疫関連有害事象の可能性があるため、放置せずにすぐに医療機関へ連絡してください。
放射線治療による倦怠感への対処
放射線治療では、治療の後半にかけて倦怠感が増強することが多いため、以下の工夫が有益です。
- 症状の見通しをもとに、エネルギーの消耗を抑える生活の工夫を検討します
- 照射時間の調整や通院時の交通手段について検討し、治療に伴う負担を軽減します
- 照射部位による副作用(悪心、嘔吐、食欲不振など)への適切な対処を行います
- 体調に応じた運動を取り入れます
薬剤による倦怠感への対処
薬剤の副作用による倦怠感については、以下の対応が検討されます。
- 原因と疑われる薬剤の減量、中止、変更
- 非薬物療法の活用
- 倦怠感の緩和よりも重要な治療理由があれば、薬剤の継続も検討
自己判断で薬を中止せず、必ず医師に相談してください。
基本的な対処法と生活の工夫
活動と休息のバランスを整える
倦怠感を体験される患者さんは、日常生活において活動の優先順位を考え、1日の活動をどのようにエネルギーを配分するかを調整することで、よりよい生活を送ることができます。
具体的には以下のような工夫が推奨されます。
- ご自身の倦怠感の出現パターンを把握して、それに合わせて活動計画を立てます
- 倦怠感が強い場合は周りの方の助けを借りるなどして、エネルギーを温存します
- 昼寝も効果がありますが、長時間の昼寝で疲れが強くなることもあるため、約30分以内が目安です
- 疲れが強いときは、仕事や家事を減らす工夫や他の人に代わってもらい、頑張りすぎないことも大切です
- 自分の生活のリズムを作ります
運動療法の効果と実践方法
2024年の研究でも、適度な運動が倦怠感を軽減し、生活の質を向上させることが示されています。運動は治療中から開始すると、より効果が高いとされています。
ただし、「病気だから安静にしなければ」と考える患者さんやご家族もいますが、むしろ治療前や治療中に積極的に体を動かすほうが、手術や放射線療法の合併症や後遺症、抗がん剤治療の副作用を軽減できる可能性が高いことがわかってきています。
推奨される運動量の目安
| 運動の種類 | 推奨される量 |
|---|---|
| 有酸素運動 | 週150分以上の中等度の運動(ウォーキング、自転車こぎ、水泳など)。1日20〜30分を週3〜5回が目安 |
| 筋力トレーニング | 週2〜3日(1日おき)。上半身・下半身の大きな筋肉を中心に、8〜12回を1セットとして実施 |
| ストレッチ | 筋力トレーニングを行う日に、その部位の筋肉を念入りに伸ばします |
中等度の有酸素運動とは、会話はできるけれど歌は歌えないくらいの強度です。ウォーキングの場合、1日4000歩以上、可能なら6000〜8000歩程度を目標にするとよいでしょう。
筋力トレーニングは、スクワットや腕立て伏せなど自分の体重で負荷をかける自重トレーニングや、ダンベル、ゴムバンド、トレーニングマシンを用いる方法があります。最後の1回がややきついと感じる強度を目安にします。
運動を始める前の注意点
- 運動をしてもよいかどうか、必ず担当医に確認してください
- 骨髄腫の方、骨転移のある方などは、運動すると危険な場合があります
- 体調が悪いときは無理をせず、運動を控えます
- 運動の内容や量は、リハビリ医や理学療法士の指導を受けるとよいでしょう
- 始めは1日10分でも構いません。徐々に時間を長くしていきましょう
全身状態が悪化した場合の注意
全身状態が悪化して歩行が困難になり、がんの治療が難しくなった段階では、無理に運動すると、動けなくなったり、だるさが増したりすることがあるので注意が必要です。
体のむくみやつらさ、呼吸困難などを解消するためには、緩和ケア医やリハビリ医、理学療法士、作業療法士に相談するとよいでしょう。自宅で療養をしている方の場合には、在宅リハビリを受ける方法もあります。
栄養管理の重要性
抗がん薬治療中は、悪心・食欲不振・下痢・味覚障害などにより、栄養・水分摂取が不十分になりがちです。
- 消化がよく、栄養価の高いものを摂取するようにします
- がん悪液質の予防や治療のために、BCAA(分岐鎖アミノ酸:バリン、ロイシン、イソロイシン)やビタミンD、Eの摂取を心がけます
- 治療中、管理栄養士が栄養相談を行っています。希望される方は看護師に相談してください
運動療法と栄養療法を組み合わせることで、筋肉量や体重の減少を防ぎ、倦怠感の軽減につなげることができます。
リラクゼーションやマッサージの活用
以下のような非薬物療法も、倦怠感の緩和に効果が期待できます。
- 手足のストレッチやマッサージで緊張感が和らぎます
- リラクゼーション法の実践
- 温熱療法や寒冷療法などの物理療法
- 鍼灸治療
- ヨガ、太極拳などの穏やかな運動
精神的なケアの重要性
「やる気が出ない」「難しいことは考えられない」など精神的な倦怠感については、以下のようなアプローチが有効です。
- 「生きていて良かったと思うのはどんなときか」「感動するのはどんなときか」といったことを家族や周囲の方と話し合い、それを実現してみます
- 認知行動療法などの心理社会的介入
- カウンセリング
- 患者会や支援団体への参加
具体的に話し合ってみないと、身近な家族でも、本当に患者さんがやりたいことや食べたいものは何か気づかない場合もあります。小さな楽しみを見つけ、実現することがだるさを打破するきっかけになる可能性があります。
医療者に伝えるべきこと
倦怠感が続くときには、担当医や看護師に相談しましょう。ただし、倦怠感の程度を伝えるのは難しいものです。以下のような具体的な状態を伝えるようにしましょう。
- 「ぐっすり寝たのに疲れがとれない」
- 「集中力が落ちている」
- 「階段の上り下りで息切れがする」
- 「今まで階段を普通に上がれていたのに、休みながらでないと上がれなくなった」
- 「10分でできていたことが20分かかるようになった」
日常生活にどのような支障が出ているか、症状がなかったときと比べて話すと、症状の強さを上手に伝えることができます。
倦怠感があるからといって、それが治療の効果がないとか病気が進行していることを示しているわけではありません。こうした思い込みはさらなる疲労感につながります。つらいときには受診し、担当医に伝えることで、症状を軽減する治療や対処方法の指導を受けられます。
倦怠感との向き合い方
がんに伴う倦怠感は、単純に体が疲れた、だるいというだけではなく、頭や心が疲れていることを含む症状です。寝ても良くならない症状なので、休養だけでは解決にならないことが多いです。
薬物療法も完全な解決策にはならないことがあります。どういう倦怠感なのか、それに対してどのように対処すると症状が良くなるのか、医療者とともに探っていくことが大切です。
がんやがんの治療による倦怠感は、多くの患者さんが経験する症状です。決して「しかたがない」と諦めず、医療者にしっかりご自身の状態を伝え、少しでも早く倦怠感への対策をとることが重要です。
倦怠感それぞれの原因を早く見つけ、適切な対処を行うことで、症状の改善が期待でき、生活の質を保ちながら治療を継続することができます。